「ヨーロッパ新世紀」

『ヨーロッパ新世紀』
https://rmn.lespros.co.jp/


人種、宗教、言語のるつぼって、
ルーマニアとはまさにそういう地だということを
知らしめてくれた。
そのことは後で書くが、、、

本作、
舞台はルーマニア中部のトランシルヴァニア。
この地トランシルヴァニアとは「森の彼方の地」の意味であり、
古典的な恐怖小説「吸血鬼ドラキュラ」の舞台でもある。
ルーマニア人とハンガリー人、そして少数のドイツ人やロマの人々が暮らすこの多民族の村。
主要産業だった鉱山が閉鎖されて以来、
村の働き手はよりよい報酬を求めて西ヨーロッパの先進国へ出稼ぎに行っている。
主人公マティアスはクリスマス直前の冬、
そんな出稼ぎのドイツの食肉工場で上司への暴力沙汰を起こしこの村に帰ってきた。
しかし長らく疎遠だった妻は、突然現れたマティアスに冷ややかな目を向ける。
幼い息子のルディは、つい最近、森で恐ろしい何かを目撃し、
まったく言葉を発しなくなっていた。
一方地元のパン工場のオーナーから経営を任されているシーラは、
EUからの補助金を得るために求人広告を出すが、地元の応募はない。
やむなくシーラは、人材派遣業者を介して外国人労働者のスリランカ人3人を雇い入れることにする。
合法的に雇われた3人はとても勤勉で、職場や業務にもすぐ馴染んだが、
村のコミュニティは彼らを異端視しSNSには「奴らがやるのは盗みと殺しだ」「ひとり雇えば、じきに群れになる」「ルーマニアから追い出せ」と。
更にスリランカ人従業員への殺害までもを促す穏な書き込みが投稿されるようになる。。。。


この作品を語るには
ルーマニアが人種、宗教、言語のるつぼの地であるという
歴史的、地政学的事実を念頭に置いておくことだろう。

地域:
東欧のほぼ真ん中
東にモルドバ、ウクライナ
西にハンガリー、セルビア
南にブルガリア
等に囲まれている。

言語:
公用語はルーマニア語であり、人口約2300万人のうちの
約89%によって話されている。
ハンガリー語は、主にトランシルヴァニアで人口の約7%によって公用語として話されている。
15世紀以降、現在のトランシルヴァニア地方はオース
トリア・ハンガリー帝国の領土で、
ドイツ系やハンガリー系の人々も多く住んでいた。
また、国の人口の約1.5%はドイツ語を話す。

民族:
ルーマニア人は人口の89%を占め、
ハンガリー人とドイツ人は、比較的最近まで多くおり、
ハンガリー人はまだ少数の地区で過半数を占めている。
また、ロマと呼ばれるジプシーが約10%存在。
彼らは14世紀頃、東方から移動をしてきた民族で
今もなお差別や偏見に苦しんでいる。

宗教:
正教会、ハンガリー人はカトリック、ドイツ人はルター派が多い。
しかしハンガリー人にはユニテリアン主義派、ルーマニア人にはギリシャ・カトリック、ドイツ人にはカルヴァン主義派もいて、
これらが混在している。

歴史:
13世紀末から14世紀には公国が建国されるが、
15世紀末には、オスマン・トルコの宗主権下に入る。
以後各公国が勃興し独立革命が画策されるが
1878年まで再びトルコに統治される事になる。
本作の舞台トランシルヴァニアが、ルーマニアに併合されたのは1918年。第1次世界大戦後のこと。
しかし1940年には、ソ連がベッサラビア地方を占領。翌年には、「ナチス・ドイツ」の圧力により、ルーマニアは第2次世界大戦に参加。
1965年には、チャウシェスクが、党の第1書記に就任。
彼の独裁政治は国民の不満を買い、1989年12月、チャウシェスク政権打倒を目指し、改革が行われる。
1991年12月には、新しい憲法が承認。

現在:
民主化もある程度は進み、2007年には悲願のEU加盟を達成している。
但し、経済成長も進んではいるが、
EU加盟国の中ではブルガリアに次いで貧しい国となっており、
多くの国民は西欧へ出稼ぎに赴いている。
また
西欧へ向かう移民、難民の陸路、中継地でもある。


何だか歴史の授業みたいになったけれど
ともかくこれを知って、この事実を知らしめるための作品と言える。
・・・事実僕もこの作品を観なければこの事実は知らないままだった。

「人種のるつぼ」と「歴史に翻弄」された地に
さらなる「外国人労働者問題、しかもアジア系」
これらが絡まりあった(というかほとんどこんがらがってといった方が正しいかもしれない)
事態をあらわした作品。
ルーマニア出身の監督
クリスティアン・ムンジウは
2007年、2作品目の『4か月、3週と2日』で第60回カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞。
様々な国際映画批評家協会賞を受賞し、ヨーロッパ映画賞では最優秀作品賞、最優秀監督賞を受賞している。

2023年10月14日 公開

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