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「読解力」について

はじめに

先日ツイッターでちょっとした炎上を起こしてしまいました(ビリケツさんという方がまとめてくれています)。
内容についても不適切な面がありましたが一番の原因は【講師という立場】で【人を見下す】言葉を書き込んだことだと思っています。
この事についてはツイッターにも書いた通り私の未熟さの現れだと思います。
ただ、その【人を見下す】言葉=「読解力が低い」については伝え方、伝える形が間違っていたとは言え本心から出た言葉でした。なぜ「読解力が低い」ことに過剰反応してしまったかについては日頃から私自身が「読解力」は製図試験において(も)重要であると考えているからに他なりません。「製図試験には関係ない」という意見もあるでしょうがそれを全否定してでも「製図試験において読解力は必要」という事を伝えようと思ったことがこの記事を書くきっかけになりました。

「読み取り」ミスは致命的

改めて言及するまでもないですが、もしかすると初受験生や学科合格を見越して先行で製図の学習を開始している方もおられるかも知れないのであえて書くと、エスキスの全行程の中でも「読み取り」のミスは致命的で取り返しがつきません。これは今まで書いてきた他のnote記事でも言及していますし既受験生にとっては常識だと思います。プランニングが苦手なことや作図が遅い以上に合否に直結すると言っても過言ではありません。
twitterにも書いたようにこの読み取りミスは大きく【読み落とし】と【読み間違い】に大別されると思います。
この内、【読み落とし】(【読み飛ばし】も含む)については近年チェックの徹底が合格には必須であるという考えが広がるにつれて減っている印象があります。チェックを繰り返し、しかも「読み落としをしているかも知れない」という意識で行うことで無くすことが出来るミスだと言えます。
一方で【読み間違い】はチェックを徹底すれば何とかなるという種類のミスではありません。というのも【読み間違い】は読んでいてかつ間違っている状態=思い込んでいる状態のため自分自身でミスをしているという事実に中々気付きにくいという側面があるからです。
もちろん場合によってはチェックで気付くことも出来ると思います。例えば重要な項目で課題文等の中に何度か言及されている内容などです。後述するR4本試験の3000㎡問題などは要求室表だけでなく解答用紙に面積記入欄があり表現の矛盾から思い込みのミスに気付くチャンスがありました。
ただこうした繰り返し出てくる重要項目以外では(特に本試験の緊張の中では)思い込みを覆すことは容易なことではありません
合否に関わる可能性の高い読み取りミスの内容の一つ【読み間違い】がチェックの徹底でクリア出来ないならばそもそも【読み間違い】=【思い込み】をしないことが重要になります。そのためには【読み間違え】=【思い込み】の原因を探り対応することが必要になります。

【読み間違え】=【思い込み】の主因は「読解力」不足

結論から書くと『「読解力」の低さが【読み間違え】=【思い込み】の主因だと考えられる』というのが個人的な推察です。
そして「製図試験のために身につけた方が良い「読解力」とは何か」を示すことが本記事の目的です。
【読み間違え】=【思い込み】の理由については様々なものが考えられます。

①焦りによる思い込み
②単純な勘違い
③過去課題に影響された解釈
表現がわかりにくいことによる自己解釈(例.R4本試験の3000㎡問題)
⑤実務経験からくる自己解釈
⑥知識不足

他にもあるかも知れませんがざっと思いつく限りではこの程度になります。この中で⑥の知識不足については「書かれてある内容と正しい解釈の関係性を理解していない」あるいは「正しい解釈の内容をそもそも知らない」ということであり「読解力」云々以前の学習不足が主因であると言えます。しかし①〜⑤については、特に④については「読解力」不足がその主因だと考えています。つまり読解力がある程度あれば①〜⑤を理由とした【読み間違え】=【思い込み】は減ると考えています。

以下①〜⑤それぞれが「読解力」とどう関係があるのかを示すことによって、この記事で言う「読解力」(=製図試験に必要な「読解力」)とは何かを明らかにしていきたいと思いますが、そのためにはこれもtwitterで「関係がない」と叩かれた「命題、必要条件、十分条件」の「知識」について触れる必要があります(この知識がある方はそもそも読み間違いをする事も無く、この記事の必要性を感じることもないと思います)。つまり製図試験とは全く関係のない内容(と言っても過言ではない)を踏まえての話の展開になります。
結論としてどこに向かうのかもわからない文章を延々と読みたくない方も多いと思いますので「製図試験のために身につけた方が良い「読解力」とは何か」を一言でまとめたものを先に示します。

私が考える製図試験に必要な「読解力」とは、
「課題文の文章構成を理解した上で情報を客観的に受け取る能力」
少し複雑になりますが言い換えると、
「情報にはヒエラルキーがあり全て等価ではないことを理解して読む能力」
です。
わかりにくいと私自身も感じますが一言でまとめるとこのような表現になります。これを以下に具体的に(①〜⑤について)書くことで、課題文の文章構成とはなにか、情報とはなにか、ヒエラルキーとはなにか、等価ではないとはどういうことか、をお伝えしたいと思います。またこの「読解力」が何かを通して、読み間違いをする人が「どのような意識で課題文を読むべきか、読み間違いを無くすために意識すべきことは何か」を示すことが出来ればと思います。

「読解力」とは

具体的なことに触れる前にそもそも「読解力」とは何か、について書きたいと思います。
まずこのような記事を書いていますが一般的な「読解力」の定義を踏まえている訳ではありません(人それぞれ定義があると思います)し、またそれを改めて定義付けようとも思っていません。私自身、国語という科目は苦手でしたし、一つの解釈として難解な文章を読み解く能力だと考えると「読解力」を持ち合わせているとは思えません。
一言で「読解力」といっても具体的に必要な知識として、文章構成把握能力、語彙力、文章表現(修辞法)知識、歴史認識、文化認識、宗教認識等、非常に広範で習得仕切ることが難しいようなものばかりです。
ただ私がここで必要だと思っているものはあくまで「製図試験のために身につけろべき「読解力」」であり、文章に関わる全ての能力を必要とする訳ではありません。そういう意味では「読解力」という表現が正しいのかもわかりませんが、対象(課題文)を読み解き正しく理解する力という意味で紛うことなく「読解力」と呼ぶべきものだと思います。

以下、具体的に【読み間違い】の理由を探ることで徐々にこの「読解力」を明らかにしたいと思います。

①焦りによる思い込み

なぜ焦るのか?を考えます。
私は「緊張すること」と「焦ること」は別の現象だと考えています。「緊張」は集中し神経が研ぎ澄まされている状態だと思います。物事で結果を出すためには必要な状態だとも思います。一方「焦り」は「緊張」し過ぎること、つまり物事そのものよりもその先の結果へまで想像力を延伸させる事から生まれる状態です。この「焦り」がある状態というのはほとんどの場合、想像した結果へのマイナス思考が働いている状態だと思っています。「うまく出来なかったらどうしよう」「間違ったらどうしよう」といった感情が「焦り」を生みます。つまり「出来ないことへの不安」が「焦り」の原因と考えられます。

例えば、ですが「1+1=?とか2+3=?という問題しか出ない」という試験に臨む時「焦る」ことはあるでしょうか?おそらくありません。それは試験の内容を理解し把握して解くことが出来るという自信があるからです。製図試験においても同じことが言えると思います。試験の内容を理解し把握して解くことが出来るという自信があれば緊張することはあっても「焦る」状態にはなりません。つまり「焦る」ということは何らかの学習不足の状態です。そしておそらく多くの受験生は何らかの学習不足の状態で試験に臨まざるを得ません。具体的にはエスキスのプランニングや作図スピードに不安を残したまま試験日を迎えることは特別なことではなりません。ということは多くの方は多かれ少なかれ「焦り」の感情を持って試験に望むことになります。

ここで「読み取り」に関して「焦る」ということを考えたいと思います。ほとんどの方は「読めなかったらどうしよう」なんてことは考えないと思います。外国人の方で挑戦している方はそのような不安もあるかも知れませんが日本語が母国語の方は「読めなかったら」という考えにはなりません。ただ「読み取れなかったら」という不安を持つ方はおられるはずです。そうした方が「焦り」によって「何かを読み間違えて思い込む」可能性がある方です。つまり課題文に対して不安を感じる方は課題文の書かれ方を理解していない=課題文の文章構成をわかっていないからだ、といえます。課題文の内容はわからずとも文章構成を理解していれば(自信を持って読むことができれば)こと課題文の読み取りに関して「焦る」ということはなくなるはずです(わかりにくいかと思いますが「課題文の構成」と「課題文の文章構成」は別物です。「課題文の構成」は順序に入れ替わりはあるものの例年ほぼ同じ(留意事項、要求室表、など)でテキストなどで十分理解出来る内容です)。

つまり「焦り」による思い込みに対応するための読解力=課題文の文章構成を理解する力です。この文章構成を理解するためには「命題、必要条件、十分条件」の内容を理解している必要があります。

②単純な勘違い

次に単純な勘違いによる【読み間違い】=【思い込み】についてです。
この勘違いについては「読解力」の側面よりも「⑥知識不足」に近い、学習不足の面も大きいという印象もあります。よくあるのは「二室に分割して使えるようにする=一室の計画」を間違えて「二室」として計画する場合などです。これは「そのようなパターンもある」というパタンの学習をし切れていない、あるいは知らないことにもよるもので、この思い込みによるミスは例年初受験生の初期には良く見られる傾向です。ただ9月に入りそのようなパタンにも慣れてきているはずの時期になっても「勘違い」をしてしまう方がいます。

そうした方は「キーワード」は拾っている(マーカーしている)にも関わらず間違えてい流のですが、これはその「キーワード」を表面的にしか読んでいない=読み込めていないからだと考えられます。これは「③過去課題に影響された解釈」(後述)にも近いのですが、それよりももっと「キーワード」とその処理(上記の例では「二室」とその処理「二室にしてパーティションを設ける」or「二室計画する」)をダイレクトに連動させている=読み込まずに主観的に判断している状況だと考えられます。
この「勘違い」は上記の①「焦り」によって起こる【読み間違い】の一つの具体例でもありますが、より具体的に、書かれてあることを客観的に(フラットに)読み込める力の欠如とも言えると思います。文章構成だけでなく、「ある事」を解釈するために「この部分」を読み込めば良いと冷静に判断出来る力もまた「読解力」と読んで差し支えないと思います。

ここまで①、②と抽象的な話で要領を得ないと思っている方もおられると思います。より具体的に考えるために次項目で「命題、必要条件、十分条件」に触れたいと思います。

「命題、必要条件、十分条件」

「AならばB」という命題が真である時、AはBの十分条件、BはAの必要条件

高校1年生数学ⅠAの教科書より要約

「命題、必要条件、十分条件」を一言でまとめればこのようになります。
「命題」とは「正しい」「正しくない」が明確に決まる(客観的事実として判断できる)物事のことです。数学においては「命題」の真偽を考える問いもありますが製図試験においてそのようなややこしい問題はありません。
これは製図試験の課題文だけに限った事ではありませんが、世の中の試験問題の文章は必ず「命題」であり必ず「真」であると言えます。
というのも課題文が「命題」かつ「真」であると言えなければ試験など成り立たないからです。
わかりやすい例を挙げれば、例えば例年本試験の敷地条件には次のような文章があります

建蔽率の限度は90%、容積率の限度は500%である。

R4本試験 設計課題「事務所ビル」より

この「命題」に対して試験元が「容積率は300%であるので延べ面積オーバーのものは不合格となる」という標準解答例を出す事は絶対にありえません。
なぜなら容積率300%という解答例は「命題」となっている課題文が「明確に」「誤り=偽」であるということになるので、要はちゃぶ台返しされているようなものになるからです。このようにどのような試験でも前提となる課題文(条件)をひっくり返したら成立しないのは明らかです。
つまり課題文は常に「正しい」=「真」の内容が書かれています。
正しいということは「AならばB」(言い換えるなら「AはB」「Aの場合B」)は守るべき条件とも言えます。
一方、本記事の最も重要なポイントと言っても良いのですが、「AならばB」は「BならばA」ではありません。というのも、「命題」が「真」であることとその内容が「必要十分条件(A→BかつB→A)」になっていることには何の関連性もないからです。
「読解力」が低い方(=読み間違いをよく起こす方)はこの事実を認識・理解出来ていないと考えられます。

※以下は有料記事とさせていただきます。概要、要点はここまでで書けていると思います。以降の内容はより具体的な解説とご理解ください。基本的には【読み間違い】をしない方にとっては無意識に出来ていること(理解していること)であり「当たり前だろう」と思われる内容を噛み砕いて書いているものになります。

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