高校生の学習意欲を高めるための改革をするならば「働き方改革」を

昨日のnoteで、教育再生実行会議で行われている議論がエビデンスに基づいていない可能性があるのではないかと指摘しました。

本日は、昨日から新たに調べたことを書き、さらに高校生の学習意欲を高めるには、どんな政策を進めてほしいかという話について書いてみました。

本日のポイント

・(高校普通科の改革に関する)現在の提言は、高校生の学習意欲の向上につながる根拠に乏しい。
・学習意欲を高めるキーワードとして「教師のスキル評価」「有用感」が挙げられている論文を踏まえると、「教師の働き方改革」「(現職)教員研修の拡大」こそが必要ではないか。

昨日のふりかえり

その前に、昨日も取り上げた教育再生実行会議の提言について、こちらの記事を見ながら、改めて確認したいと思います。

記事の要点をまとめてみました。

◯高校生の学習意欲を高める(普通科高校の改革)
・「少子化で大学に入りやすくなり、目的意識のないまま進学する生徒が少なくない。学校は受験対策に偏りがちで、このままでは国際的な競争を生き抜く人材が育たない」(文科省幹部)
・高校1年生の4人に1人は学校外で勉強していないとの調査結果もある
・教育再生実行会議は視察を通じ、普通科の教育が画一的に陥り、生徒の興味関心を踏まえる内容になっていないと判断
→学習の方向性に応じてタイプ分けし、各校がどのタイプにするかを選ぶ仕組みの導入へ
・4つの方向性の案。
▽キャリアを自ら形成する力
▽国内外で活躍するリーダーの育成
▽科学技術分野に革新をもたらす力
▽地域課題の解決を通じた実践的な学習――を重視する
大学入試の改革
「文理両方を学ぶ人材の育成が急務」
「文系・理系に偏った試験からの脱却を目指す」
国は入試を見直す大学の支援を充実させるべき
◯高校生の就職活動
「応募は1人1社のみ」とする長年のルールについて触れ、主体的な職業選択を促すといった観点から、改善に向けて検討
遠隔教育の活用
中山間地域や離島といった地理的な状況や、病気療養などの児童・生徒の事情に関係なく、多様な教育を可能に

この提言について、昨日のnoteで指摘した主な問題点を(一部の内容を補足しながら)列挙してみます。

「普通科」のみで学習意欲が低いという根拠が不明
「画一的な教育」が学習意欲を下げるという根拠が不明
→学習意欲が低い理由が「画一的な教育」であるという判断の理由もはっきりしない(どのような経緯なのかはっきりしていない)
③学習意欲の評価指標は何なのか?
→仮に「学習時間」のみだとすれば、アルバイトをしなければならない学生や、部活動に励みながらも短時間で効率的に勉強しているタイプの学生も「意欲がない」と評価されてしまう。
④改革を通して何がやりたいのか分からない
→4つの方向性について「国内外で活躍するリーダーの育成」はSGHで、「科学技術分野に革新をもたらす力」はSSHで既に取り組まれている。
また、後者は「文理両方を学ぶ人材の育成が急務」という大学入試改革の方針と矛盾しているように見える

一言でまとめると「これって思い込みの議論なんじゃないの?」ということです。とにかく根拠がハッキリしない話が多すぎる印象でした。以下でもう少し詳しく指摘していきます。

高校生の学習時間は本当に少ないのか

たとえば、ベネッセの行っている「第5回学習基本調査」(2015)の結果は、高校生の学習時間が増加に転じたことを示しています。

一方、記事中で根拠とされていたと思われる「21世紀出生児縦断調査」の結果を見ると、たしかに中学3年生から高校1年生に上がったときに学習時間が大幅に減少していることがわかります。

しかし、このデータを根拠に「高校生は学習意欲が低い」とするのは早計です。中学3年生は「高校受験」を控えていますし、高校1年生になればアルバイトや部活動が活発になる子も増えますし、通学にかかる時間なども増えます。学習時間が減る・できなくなる条件は揃っているとは言えないでしょうか。

先ほどの記事で取り上げられていた「学習時間の減少」は、学習意欲の低下についての十分な根拠とは言いがたいと思います。そもそも、普通科とそれ以外を比較した調査でない以上、これ自体は根拠として成立していません。

さらに、中教審高等学校教育部会(第11回)で提出された金子委員の資料4には非常に興味深い結果が出ています。

高校3年生についてですが、普通科の学生が他に比べて最も勉強しています。そりゃそうだろうなという印象です。もしも、学習時間が「学習意欲」の指標ならば、受験が少なからず「学習意欲」を駆り立ててきたと言えると思います。

普通科より専門高校の方が意欲は高いという論文!

一方、昨日は見つけられなかったのですが、こんな調査を見つけました。

ここでは、要約を引用しておきます。

・高校生の勉強への意欲低下が深刻な問題となり、その中でも進路多様校に通う生徒の勉強離れは顕著である。しかし、分析の結果から、進路多様校の中でも、専門学科の生徒は普通科の生徒に比較して、勉強への意欲が高いことが示された。
・専門教育には、過去に勉強への意欲が低かった生徒の意欲を上昇させ、もともと高かった生徒の意欲を維持させる働きがある。
・また、生徒が教師のスキルを高く評価している、勉強が将来に役立つと感じている、といった要因が、意欲の上昇に寄与していることがわかった。

この、調査結果は「普通科」と「専門学科」の比較をしており根拠の一つとなりそうです。「やっと根拠を見つけた!」と思いきや、細かく見ていくと、どうも違うようなのです。

要約の後半に注目してみると「教師のスキル評価」「有用感」という二つの要因が意欲の上昇に寄与しており、これが専門学校でより高いことがわかります。

これは、非常に重要な知見です。たしかに「普通科」の高校生の学習意欲が低いというエビデンスになりそうです(なると思います)。しかし、同時に「普通科の高校生の学習意欲を高めるポイント」も見えてくるのです。

普通科高校でも「教師のスキル評価」と「有用感」という2つの点からアプローチしていくことが有効であるというのがこの論文の重要な示唆です。

ここで、教育再生実行会議の提言を振り返っておきます。

教育再生実行会議は視察を通じ、普通科の教育が画一的に陥り、生徒の興味関心を踏まえる内容になっていないと判断→学習の方向性に応じてタイプ分けし、各校がどのタイプにするかを選ぶ仕組みの導入へ

先ほどの論文と一部(普通科高校生の学習意欲が低い)は同じですが、その中身はまったく異なる主張であることが分かっていただけると思います。「興味・関心」なんて出てきませんからね。結局、この論文も根拠ではなかったのです。「やっと見つけた!」と思ったのですが……

さらに言えば、「学習の方向性に応じたタイプ分け」という施策によって、教師のスキルへの評価が高まるとも考えにくいですし、有用感についてはタイプ分けがあろうとなかろうと関係のない問題でしょう。

「意欲」を高めるための「働き方改革」

では、先の論文で指摘されたような面を実現するためには何が必要でしょうか。

「教師のスキルへの高い評価」についてですが、「教員の働き方改革(部活動の縮小を含む)」「(現職)教員研修の充実」が必要ではないかと思います。

教師が専門職としてもっと高いスキルを有し、準備の行き届いた質の高い授業をすることができれば、教師のスキルは自然と高く評価されるでしょう。

個々の教員が授業や授業準備に集中でき、自己研鑽に励むことのできる環境を作れば、生徒の学習意欲向上につながる可能性は(これまでの研究を踏まえれば)十分に高いと言えると思います。

また、教科教育学者は多様なアプローチで「良い授業」を研究していますし、現場の先生方の中でもそうした研究を積極的に行っている方はたくさんいます。しかし、そうした有効な知見が「忙しさ」によって活かせていないのが現状です。

政府がすでに「働き方改革」についての政策を進めていることは知っていますが、教育現場ではあまり普及しているとは言えません。過労に苦しむ声は今も続いています。あれこれと改革に走ることよりも、やると決めた改革をとことんやりきる、そんな政策を進めてほしいなと強く思います。

「有用性」の認知については、政策で改善するのは難しい印象です。強いて言えば、「キャリア教育」などを織り混ぜた教科横断型の授業の効果があるという研究があるので、そうした工夫が現場で求められるとは思います。

しかし、今回の提言にあったような「キャリアを自ら形成する力」という方向性の学校をわざわざ作らずに、すべての学校でやるべき話ではないでしょうか。

こうした個別の工夫については、先ほど言及した「現職教員に対する研修」の拡大によってフォローできると思います。

おわりに

学習意欲(心理学では「動機づけ」と呼ぶことが多い)に関する研究は非常に多く、ここでレビューしきれるような量ではありません。そうした研究の成果を活かすためにも、本稿で指摘した「教師の働き方改革」こそが現在の教育現場における喫緊の課題ではないかと思うのです。

教育再生実行会議の提言で新たな制度を作っても、現場の先生方にとっては余計な仕事が増えるだけになりはしないでしょうか。全員が「キャリア」の専門家でもなければ、「リーダー育成」のプロフェッショナルではありません。

本稿で紹介した論文に基づいて考えてみても、今回の提言はむしろ教師スキルへの低い評価につながる(学習意欲を下げる)リスクすらあると思います。そう考えれば、余計な改革に手を出す前に「働き方改革」を徹底し、教員が専門性を発揮できる環境を整えてほしいと思うばかりです。

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