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かさぶたカサカサお受験記録おかわりっ!(1)~直前講習で芋になった息子~

東京本番をひかえた某お教室の直前講習会場は、文字通りピリピリと張りつめた空気に包まれていた。

神奈川校の結果により完璧に明暗を分けた家族が一堂に会するそこはまさに死地である。

全落ちの恐怖が現実となって近づいている事実を肌で感じ地獄の淵でざわわざわわと揺れるご家庭と、神奈川合格を得て勢いに乗るご家庭は決して合わせてはいけない「酸性洗剤」と「塩素系洗剤」の混ぜるな危険!夢コラボである。(有毒ガスが発生しちゃうZO!)

本当に危険です

しかし無常にもお教室は開かれ、TOKYO本番を目前に小さきファイターたちは嫌でもそこに集わねばならぬのである。だってもう直前講習のお金は払っちゃっているからね★

この濁りににごった毒壺のごとし混沌の空気を教室側が敏感に感じとったからか、はたまたこのごった煮状態は例年の秋の風物詩であるのか。ベテラン教員の塩梅によりその日の授業の行動観察になんと”寸劇課題”が登場したのである。

ホワイトボードに高らかに掲げられたのはこんな絵。

人間の兄弟とくまさん・うさぎさんが芋ほりに出かけた様子が描かれている。
地面にはみみずやもぐらがおり、切り株が描かれたイラストはまさに園のお芋ほり遠足の様相である。

「さぁみんな!4人ひと組になって、この絵を参考にお話をつくってごらん。1人1つの役になりきって、みんなの前で発表してみよう!!誰がどの役をするかはお話し合いで決めてね」

担当教員が高らかにそう宣言し、教室は俄かにざわめいた。
なんと高度な課題であろうか。子供らでグループを組ませ、お話を作り、役割をきめ演じる…
想像力・発言力・傾聴力・ファシリテーション力はおろか演技力まで試される。これぞ直前講習の締めにふさわしい最高難度の課題である。我が子が有終の美を飾れるか否か。後方に腰掛ける保護者は胸がざわついたであろうことは想像にかたくない。

しかしその困惑の集団の中、ひとり奥歯をかみしめながら笑顔を堪え、心の中でガッツ!ガッツ!ガッツポーズを決めていた中年がいた。かさぶた厚子である。

(やった!!!この課題…もらった!!!)

厚子と体型のみほぼ一致


厚子のファンキーベイビーアイラブスイートマイハニーボーイこと息子は、私の腹の中に羞恥心を忘れてきたことで有名な恥を知らぬ男である。

つっこんでつっこんでつっこみまくって出世した父の背中をみて育った息子は「面白いことこそ正義」「うけたらすかさずそのネタを繰り返す」という小学校受験においては何の役にも立たない能力を磨いた結果大変うっとおしい6歳児に成長してしまっていた。

しかし、ここにきて息子のどうしようもない能力が輝く瞬間が訪れてしまったことに厚子はあふれ出る喜びを抑えられなかった。

繰り返すが、我が息子は恥を知らぬ男である。
左右違う靴を履いてみる、リュックに自分の顔よりでかいポケモンのぬいぐるみをぶらさげる、毎朝保育園にディズニーランドで買ったミッキーのかぶりものをかぶっていく。なんならその様相で新宿伊勢丹店にも行く。

証拠写真①とにかくでかいホエルオー
証拠写真②お母さん絶望コーデ

お願いだからやめてくれ、そんな恰好で行ったらお母さんがほんまもんのき〇がいだと思われてしまう、だってお母さんは久々の伊勢丹に行くっていうんでロエベのパズルトートにセリーヌのキャップをかぶって気負わぬ大人のモノトーンカジュアル風に決めているのである。そんな母の横にポケモン発掘博物館×UNIQLOコラボのうすよごれたTシャツに顔を覆う程大きなミッキーの被り物をしたにやつく息子がいるのである。そのままのお姿で家を出るならお母さんはもう貴方と完璧に他人のふりをするからねお願いだからお母さんの世間体を守って頂戴あなたと一緒にいるとお母さんまでアホだと思われちゃう!!! 


そう何度懇願しても決して許してくれなかった息子である。それほどまでに目立つことがめっぽう好きな男である。人前で演技する等やつにとっては朝飯前だ。なんならやつの脳みそにはぼくちゃんムーブで拍手喝采会場(お教室)フィーバーが起こる完全勝利する絵しか存在しないはずだ。

しかも息子は、主役ではなくあえて2番手を選ぶ方がかっけー!と確信している古の中二病の精神をすでに持ち合わせていた保育園児であった。

ガチでこういう中学生になりそうで震える

(間違いない、あいつは確実にやる…メインの太郎君(仮名)ではなく弟の次郎君(仮名)を選ぶはず!!!)

息子と出会って6年強、母は強く確信していた。あいつはそういう男だ、存在感のないうしろのちっちゃい次郎君を選ぶことで己の演技力と表現力を見せつけてくるに決まっている。そういう(以下略)である。

しかし母はその時はじめて気づいたのである。このうっとおしさは小学校受験の行動観察という場においては最高の能力の化けるのかもしれないと。
主役の太郎君(仮名)やうさぎさんなどは大人気で取り合い合戦さえ起こるであろう。そんな中、みんながやりたがらない地味な役を積極的にやる。

「ぼく次郎君(仮名)!!」と即立候補してグループに勢いをつけるだろうし、あやつがペラペラ話しかけることによってほかのお友達から自然とお話を引き出す可能性さえある。何よりかさぶた家は前週町田くんだりまで芋ほりに行ったばかりであった。

これはもう勝った。というかこの課題で勝てねばもうかさぶた家が勝てる日は二度と訪れない。 

頼む、頼んだぼっちゃん!確実に次郎君(仮名)役を手に入れ緊張感あふれる冷え切った場の空気をMAX温めいつもの如しハイテンションでみんなを盛りたてまくって貢献度トップ評価を!有終の美をかざってくれ!!ここだけの話お母さんこのお教室に総額〇万円払っているの!授業の度に下を向いて舌唇をかみながら怒りと絶望にプルプル体を震わせまくりながらも2時間の苦行に耐え続けるっていう謎のプレイに〇万円も払うっていうドMもびっくりなプレイを1年近く続けているの!
だからねぼっちゃん…お願いだから最後の最後にお母さんに優越感を!!うちの子がトップをとって褒められるあの羨望のまなざしと優越感を頂戴!!お母さんずっと憧れてたの1年近くその日が訪れるんじゃないかってか細い期待をしていたのでもこなくてこなくてこないまま神奈川滑りまくって今なの!東京大決戦を最後まで戦い抜くためにお願いっ…頂戴…ささやかな希望の光を…蜘蛛の糸を…憧れの優越感をお母さんに頂戴!!!!!!!

そんな恨みにも似た必死の願いを抱えお母さんが手に汗握ってなんまんだなんまんだしているなんて知る由もない息子は、あっという間にお友達を3人確保。円になって座るとなにやら相談を始めた。合間に笑顔や笑いが起きる大変良い空気を醸し出していた。そして最初に発表してくれるグループは?という先生のふりに高らかに手を挙げたのである。

最初に発表したいグループが2つかぶってしまったため、じゃんけん勝負を行い息子のグループは2番手となった。


1番目のグループが大変かわいらしく安定した寸劇を披露し、教室内にほっこりとした空気があふれた。
そして会場が温まり切った最高の状態で舞台((注)舞台はない。ただの教室の前の方である)にあがったぼっちゃんのグループの演技がついに始まった。


幕が開いた瞬間((注)幕はない以下略)ど真ん中で突然背中を極限まで丸めて寝っ転がった幼児がいた。うちの子だ。

画像はイメージです

唖然とした状況に全くついていけない観客をよそめに、残りのグループの子供たちがぞろぞろ舞台にあがってきた。どうやら太郎君(仮名)、くま、うさぎのようだ。えどうしたのうちの次郎君(仮名)もしかして舞台の上で殉職したの?そういう設定サスペンス仕立てなの?

すると突然

「あ~今日もひまだピヨ~あれ、誰かきたピヨ!?」

と聞きなれたよく通るどでかい声が聞こえた。まごうことなきうちの子である。


太郎(仮)「これから芋ほりをするよ~」
うさぎ「わー楽しみ♡」
くま「がんばるぞ~」

うちの子「ん?みんな芋ほりにきたのかな?もしかしてぼく、抜かれちゃうのかなピヨ!?いやだピヨ~」

そのまま、床に寝そべってピヨピヨ言うてたうちの子は大きなかぶの絵本ばりにみんなに引っ張り起こされあっさり抜かれた。

ロシア文学の巨匠

そして「あ~まぶしいピヨ。お外ピヨ」など延々ピヨピヨ言い続けたのだ。

その後、太郎君(仮名)・うさぎ・くま・息子はなぜか4人でピヨピヨ言いながらさっそうと舞台からはけていき、それが終幕の合図となった。

「いや~…芋に全部持っていかれましたね。では次のグループは…」

厚子に優越感を与えるはずであった担当教員からの振り返りコメントは誰を褒めるでもなくただ芋に触れて終わった。この一言で終わった。

そして全ての発表が済み授業が終了すると芋は満面の笑みで「おかあさ~~~~ん!!」と駆け寄って抱き着いてきた。

「ねぇどうだった!?おもしろかった!?面白かったでしょ!ぼっちゃん最高だね!!!!」

と自画自賛に浸る芋に賛辞の強要を受けたアラフォーは、そのまま芋の手をひいてお教室を後にした。

総額◯万円を払って通い続けたお教室感動のフィナーレを芋の演技で締め括った男、息子。

総額◯万円を注ぎ込んで必死で教室に通い続けたお母さんが最後に得たものは無。生産性何それ美味しいの?費用対効果って何小皺が消える魔法の呪文?そんなことを考えながら芋に思いを馳せる。

愛する息子が芋になった日。それは、東京大決戦まで残り10日となった秋晴れの午後であった。

【終】











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