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希望としての「シェア」~「SHARE LIFE」を読んで~

「SHARE LIFE」を読んで

石山アンジュさんの「シェアライフ」を読んだ。
著書の石山アンジュさんは内閣官房シェアリングエコノミー伝道師で、一般社団法人シェアリングエコノミー協会の事務局長を務めている、「シェア」の第一人者だ。
「シェアとは希望である」というメッセージが印象的な、とても前向きな本だった。

同書の中では、さまざまな「シェア」の事例が紹介されている。
「シェア」というと、メルカリ、スペースマーケット、クラウドワークスなどのスタートアップが提供するサービスが想起されるが、自治体の取組みも複数紹介されている(北海道天塩町における「相乗り交通」、神奈川県の藤野という地域における地域通貨「萬」など)。
海外の「シェア」の動向や、事例の紹介もある。
あたたかみがあってワクワクさせる事例ばかりだった。

「シェア」の事例といえば、山崎亮氏の「縮充する日本」においても、都市計画、政治、アート、ビジネスなどのさまざまな分野で、市民の「参加」の動きが活性化していることを示す事例が多く紹介されている。
同書では、「官」と「民」の間にある「公(わたしたち)」の機能が拡充しており、それがこれからの社会を豊かにしていくうえでますます重要になると指摘されているが、このような指摘は、「シェアライフ」の問題意識と軌を一にしており、併せて読むと示唆深いだろう。

なぜ「シェア」なのか

「シェア」の考えが広がっている背景は、さまざま考えられる。

少子高齢化が進み、経済成長が低調になる中で、限られたリソースを有効活用しないと社会が立ちいかなくなりつつある。
また、格差の拡大、環境破壊、地球温暖化などを背景に、国連においてSDGs(持続可能な開発目標)が設定され、持続可能な社会の実現に向けた社会的な意識が高まっている。

技術面でも、インターネットの発達、スマートフォンの普及により情報の流通が円滑になり、マッチングが容易になっている。
今後は、価値の移動を可視化・記録化するブロックチェーン技術も「シェア」のインフラとして普及していくであろう。

これらに加えて、個人の幸福という文脈において、「シェア」の考え方が資本主義をアップデートする(その限界を補完する)可能性を秘めていることも重要だ。

資本主義を補完する考えとしての「シェア」

資本主義は、「資本の無限の増殖を目的とし、利潤のたえざる獲得を追求していく経済機構」などと定義される(岩井克人「ヴェニスの商人の資本論」より)。
しかし、資本と個人の幸福が必ずしも比例しないことは、経験則に照らしても首肯できるところであるし、近年の研究によっても実証されつつある。

たしかに、蓄積された資本それ自体が生活を豊かにするものではない(将来に対する安心感はもたらすかもしれないが)。
個人の幸福においては、お金を貯めることより、お金をどのように使うかの方がより重要であろうし、さらにいえば、お金を使わなくとも幸福を感じることはできるだろう。

「シェアライフ」では、「シェア」から「つながり」が生まれ、その「つながり」が共感や感動、愛する気持ちをもたらすとして、「シェア」の生む「つながり」こそが個人の幸福にとって重要だとしている。
「シェア」が生き方を豊かなものにするというメッセージは、筆者のシェアハウス「Cift」での生活などのさまざまな実体験に基づき、実感をもって語られている。

文化を成熟させる考えとしての「シェア」

また少し違った観点としては、欲求五段階説で有名な心理学者であるアブラハム・マズローは、文化の成熟度の指標として、「シナジー」の高さを挙げている。
ここでいう「シナジー」とは、利他的な行動が利己につながり、利己的な行動が利他になるという利己主義と利他主義の対立が解消された状態を指す。

マズローは、ハイ・シナジーのモデルとして、ブラックフット・インディアンの「財産放棄の式」を挙げる。
その儀式では、部族の全員が集まり、部族の金持ちたちが蓄えた財を部族の皆に分け与え、最も多く分け与えた者が、部族の富裕者として尊ばれる(逆に、財を分け与えず、蓄財する者は蔑視の対象になる)。
マズローは、この儀式に感銘を受け、ブラックフット・インディアンの社会はハイ・シナジーであり、成熟していると述べたのであった。

このようなブラックフット・インディアンの価値観は、「シェア」の考えにおける「貯金」から「貯信」(信頼を貯めること)へという発想ときわめて近い。
マズローの考え方に従えば、「シェア」の考えは文化を成熟させるものだといえる。

おわりに

たまたま「シェアライフ」を読んだ昨日は、あたたかで春の訪れを感じさせる春分の日であった。

未来に対する悲観論も多い中で、「シェアライフ」は、「シェア」をキーワードに、豊かであたたかい社会の到来を感じさせてくれる本であり、読んでいて前向きな気持ちになれる素敵な本だった。

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