高砂（たかすな…と読みます）通りを海へ向かって真っ直ぐ歩くと右側に真新しい建物が見える。サザンオールスターズ『茅ヶ崎ライブ2023』の楽屋が設置された『うみかぜテラス』である。2000年8月19日に最初の『茅ヶ崎ライブ』に行った時には、ここにテニスコートがあった。ここにグッズ販売や飲食の屋台が設置された。球場からはリハーサルの音声がうみかぜに乗って聴こえてきたものである。『うみかぜテラス』は2019年に開所し、テニスコートはその西側に移設された。変わるものがあれば変わらないものもある。茅ヶ崎公園野球場とその周りの松の木は今も変わらない。

 2023年6月25日、サザンオールスターズの復活と活動内容が発表された。3部作の配信と『茅ヶ崎ライブ2023』の開催。私にとっての『茅ヶ崎ライブ2023』はこの時に始まった。
 この日、私は茅ヶ崎にいた。

 サザン来るんだって。

 と人々が噂し合うのを、市内のいくつかの場所で聞いた。『熱い胸さわぎ』は静かに湧き上がりつつあった。

 ファンクラブ・サザンオールスターズ応援団のチケット先行予約で10月1日（日）のチケットを取った。この日から夢見がちな日々が始まった。この間に『盆ギリ恋歌』『歌えニッポンの空』『Relay〜杜の詩』が配信され、サザンオールスターズはいくつかのテレビ番組に出演した。ライブの事前情報が日々更新され、1ヶ月前には電子チケットが私のスマホに舞い降りた。その日は確実に近づいていた。

9月30日（土）サザンオールスターズ『茅ヶ崎ライブ2023』ライブ・ビューイング（ユナイテッド・シネマウニクス秩父）

 このライブ・ビューイングのサザンオールスターズ応援団（ファンクラブ）での先行販売には本公演の当選者はエントリーできなかった。しかし、ローチケのプレリク先行には本公演当選者もエントリーできるので、申し込んだら当たった。

 秩父にもサザンファンは多いと見えて、ほぼ満員。定刻に上映が始まった。スクリーンの向こうは茅ヶ崎。そしてここは秩父。不思議な気分になる。

 桑田佳祐のMCの途中で防災無線が入る。

 始めていいんでしょうか？聞いてみましょう！

 じっと聞き入る桑田の姿がおかしい。

 立ち上がって盛り上がる人も何人かいたが、殆どは着席して大人しく鑑賞していた。私もセットリストをメモしながら落ち着いて観た。疲れる事はないが、なんとなく不完全燃焼である。没入感はあまりない。
 ともあれ明日は現地に行けるのだと思い直して映画館を出た。

10月1日（日）サザンオールスターズ『茅ヶ崎ライブ2023』（茅ヶ崎公園野球場）

 当日の模様は宜しければ過去の投稿をご覧下さい。

 https://note.com/atsushi_tanaka18/n/n1ab27fd6f432

 15年ぶりの演奏となる『OH!! SUMMER QUEEN 〜夏の女王〜』などを除けば、人気曲が多いライブであった。奇を衒わずレアでもコアでもなく、イントロ一発でメンバーとファンが想いを分かち合えるセットリスト。それでいて、舞台が茅ヶ崎というスペシャル感を損なわない構成であった。
 それが端的に表れたのが、『栞のテーマ』だ。のちに桑田はレギュラーラジオ番組『桑田佳祐のやさしい夜遊び』で「今日のために作ったんじゃないか」と言ったほどである。

 彼女が髪を指で分けただけ それがシビれる仕草

 から始まるその歌は、好きな女性を見つめる男性の恋心を歌ったものである。歌詞に具体的な地名は出てこないものの、ここ茅ヶ崎で聴いているとこの地が舞台のように聴こえる。

 サザンオールスターズのライブはバラードでしんみりと締めることが多い。だが、このライブでは『勝手にシンドバッド』で賑々しくお開きとなった。「砂まじりの茅ヶ崎」で「熱い胸さわぎ」を強く感じながらのエンディングに「好きにならずにいられない」。

 おそらくサザンオールスターズが茅ヶ崎でライブを開催することはもうあるまい。茅ヶ崎でのライブはさざなみのように私の心を今も揺らし続ける。

 その後

 ライブの後、何度か茅ヶ崎へ行った。茅ヶ崎は普段通りの茅ヶ崎だった。『茅ヶ崎ライブ2023』自体が普段の中から生まれ、普段の中へ帰っていったライブなのだ。桑田佳祐は言う。

 実は茅ヶ崎の会場へは、「自転車で普段着のまま駆け付けて、そのままステージにあがりました」のような雰囲気でやりたいという想いがありました。（「代官山通信」163&164号）

 茅ヶ崎では至るところにサザンオールスターズの音楽が存在しているのだ。現に茅ヶ崎の町を歩けば、サザンオールスターズの歌が自動的に脳内再生される。茅ヶ崎ではサザンオールスターズは日常なのである。