『アゲハを狩るアブ』~食物連鎖と自然への感謝~
少し前の日経新聞に、食物連鎖の頂点に立ち、南半球のティラノサウルスとでも評すべき大型肉食恐竜の新種がアルゼンチンで発見されたというニュースが載っていた。恐竜好きには心躍る話だが、この記事を読んで、改めて『食物連鎖』というものに思いをはせたものだ。頂点に立つとはどういうことなのか……頂点に立つものといえども時には下位のものに敗れることがあるのではないか……意外な生き物が意外なものを捕食する偶然もあるのではないか、等々……
話は前後するが、筆者は昆虫・鳥・花・KOMOREBI(木漏れ日)など自然の写真を撮るのが好きで、東京都心の白金台にある国立科学博物館附属自然教育園に週1回くらいのペースで出かける。自然の撮影は文字通り一期一会で、こちらがどんなに意気込んでいても、相手が姿を現してくれないことには撮影の成果は無い。逆に、今一つ気分が乗ってない時などに突然レアな現場に遭遇したりすると、一気にアドレナリンが噴き出す。
この日はまあまあの収穫で、意気揚々と自然教育園の園路を管理棟のある出口まで、そう後100メートル位の所まで歩いてきた。ふと道端に落ちているものに目が留まった。すぐにアオスジアゲハと分かる。何故こんな所で死んでいるのか不審に思ったものの、そのまま行き過ぎようとした刹那、筆者はギョッとして足を止めた。
アオスジアゲハに何かが食らい付いているではないか!恐る恐る身をかがめ目を凝らすと、食らい付いているのは昆虫などを襲って口吻を刺しその体液を吸う獰猛なムシヒキアブの仲間のようだった。筆者は昆虫の専門家ではないので自宅に帰って調べると、オスのお尻に生えた白い毛の束の特徴などが一致するので、どうやらシオヤアブのようだ。
この状況をどう見るか?
単純に、道端に落ちて死んでいたアオスジアゲハを見付けたシオヤアブの棚から牡丹餅だろうか?
それとも、シオヤアブが空中でアオスジアゲハを狩ったのだろうか?
何分決定的な瞬間を見ていないので、ここからは一昆虫好きの妄想になるが、かのシャーロック・ホームズばりに推理してみると……
以上のことから、筆者は次のように想像をめぐらす。
あくまで推測だが、シオヤアブ恐るべし。シオヤアブは強力なハンターに違いない。まさにアゲハを狩るアブである!
筆者は感銘を受けつつその場を後にしようとしたのであるが、丁度子供連れの家族が通りかかり、男の子が「今の人がカメラで撮ってたのこれだ!」と驚嘆の声を上げていた。
美しいアゲハにグロテスクな(シオヤアブ、ごめんなさい。あくまで一部の人にとっての主観です)アブが食らい付いている姿は、いささか子供には刺激が強かったのかも知れないが、ここで親御さんが『食物連鎖』の話でも持ち出していれば、文字通り格好の自然教育になっていたのではないか。
生きとし生けるものは皆、他の生きとし生けるものを糧として生きている。人間もまた例外ではない。牛を食し、鳥を食す……。そこに、自然への感謝の気持ちが育まれる土壌がある。【以上、『随想自然』第1話】
(筆者のインスタグラムhttps://www.instagram.com/angelwingsessay2015/では、主に東京都心で見れる自然の写真を紹介しています。)
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