サトーアツシ

映画や本のレビューを書きます。某芥川賞作家と名前が被るのでとりあえずカタカナにしました…

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映画や本のレビューを書きます。某芥川賞作家と名前が被るのでとりあえずカタカナにしました。 ◎→必見の傑作 ○→お金を払って見る価値あり △→見たい人は見てみてもいいかも ✗→金返せこんにゃろ

最近の記事

アキ・カウリスマキ『枯れ葉』感想 ロシアに対する痛烈な批判と、映画への愛

アキ・カウリスマキの映画を見るのは、これが初めてだったりする。名前は知っていたが、なんとなくスルーしていた。この枯れ葉の観劇も、見たかった映画(ビクトル・エリセの31年ぶりの新作『瞳をとじて』)があり渋谷に乗り込んだは良いが赴いた劇場がまさかの満席、雨も降ってるしどっかで雨宿りもしたいし、せっかく片道50分もかけて渋谷に来たのにこのまま家にとんぼ返りしたくねぇし、さて近所で面白そうな映画がやっていないかと調べたところ、この映画がイメージフォーラムで上映中なのを知って急遽予定を

    • ギャスパーノエ『VORTEX ヴォルテックス』感想 本当の主役は、部屋

      新宿のシネマカリテというミニシアターで本作を見たのだが…函が暗転してからの、いきなりの本編上映で、なんと予告が一才ない。おー珍しい。あの映画盗撮魔と盗撮絶対許さないマンの、すっかり見飽きたけど危機迫る攻防戦もない。ちなみに、本編前の予告編を楽しむマンの私は、この演出には度肝を抜かされたが、このヴォルテックスに関してはその選択は正解だと感じる。他の映画館もそうなのかな。 何の心の準備もなく、我々観客が放り出された冒頭では、こんなことが起こる。自室のアパルトマンのテラスで、仲睦

      • 『ゴジラ-1.0』感想 命を賭けたゴジラとの綱引きバトル開幕 

        シン・ゴジラについてわたしは「日本人が総出となりがっぷりよつでゴジラと戦う映画」と書いた記憶がある。もちろん、これは比喩である。実際ゴジラと土俵で一線見えたわけではない。あの作品では官民がその叡智を集結し、一丸となりゴジラを叩き潰そうとしたのであった。そのことを表現したかったのだ。 一方、ゴジラマイナスワンもそのコンセプトを踏襲しているのだが、肝心の決戦の模様は、どちらかといえば、あれはどう見てもゴジラとの命を賭けた綱引きであった。しかも、比喩ではなく、文字通り本当に綱引き

        • 『善き人』感想 Goodを求めたその先に

          ナショナルシアターライブで公開されている『善き人』を見てきた。C・P・テイラー作 。ドミニク・クック演出。出演は、デヴィッド・テナント、エリオット・リーヴィー、シャロン・スモール。幕間には、日本ではあまり知られていない、この劇作家を紹介する短いドキュメンタリーも流れる。 ナショナルシアターライブ作品はこれが初鑑賞となるわたし。わくわくしながらTOHOシネマズ日本橋に向かったが、劇場は満員御礼の状態だった。ぱっと見渡した感じだと老若男女がつめかけており、世代を越えて、幅広く関

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          『ガールズ&パンツァー 最終章 第4話』感想 みぽりん不在で大洗が勝つ方法

          私を含む全世界のガルパンおじさんたちに衝撃を与え、奈落の底に叩き落としてくれたあの第3話からはや2年。待望の4話が公開された。継続高校の地の利を活かした攻撃、見え隠れする謎の腕利きスナイパーの存在、何より軍神、西住みほ不在という大ピンチの中、大洗女子学園に勝ち目はあるのか。 私は生まれてこの方、スポーツ観戦というものに全く楽しみを見出せなかった人間だ。やきうを見ながら怒ったり喜んだりなどして興奮している大人を見るたび、(一体何が楽しいのだろう)と呆れていたが、ガルパンを見て

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          映画『バービー』レビュー 性器という厄介者とともに生きる

          先ほど見てきた。あ、ねたばれ注意でお願いします。 ます本作の特筆すべき点は、女性の解放を謳うバービーと男性社会、その両者が表裏一体の存在である、とはっきり言い切っている点である。それもバービーの生みの親であるルースハンドラーの口を借りて、である。私はこのセリフ、妙に腑に落ちたのである。 というのも、作中の言葉を借りるならば、両者は辛い現実を乗り越えるための、ある種の幻想や虚像なのだということ。イデオロギーと言い換えてもいい。そうした主義主張は、しばしば「こうあるべき」、み

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          『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3』感想 苦痛からの解放を描く

          ブラックパンサーやアントマンといったスタメンによる期待の新作が、ことごとく不発でこのところ絶不調な感じのマーヴェル。だが、この映画は大変よかった。 思えば、GotGに出会ったのが9年前ということで、月日の流れの速さを覚えずにはいられないなぁという感じだ。兎に角、見ているこちらの期待値にもバフがかかるというもの。結果としては、期待を上回るものが出てきた感じだ。 今回でGotGシリーズは一旦完結、ということで、映像的にもお話的にも相当リキの入った作り込みだった。個人的にアベン

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          帝国主義は未だに生きている 映画『トリとロキタ』感想

          ダルデンヌ兄弟は、ずっと社会の残酷さや厳しさを描き、そして不寛容さを映画というシャベルで掘り起こした作家だと思うのけれども、それでも一握りの優しさをもった作家だったと思っていた。それがよかったし、基本的に作家の評価として間違ってはいないはずだ(多分)。ところがどっこい。しかし、ちょうど『ザ・ホエール』を見た後に『トリとロキタ』を見たのだが、驚くべきことにそういう優しさがすっかりなくなってしまったのである。何があったのかは本人たちに聞かないとわからない。しかし少なくとも、、ダル

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          ライザップ的なものへの、アロノフスキーの戦い 映画『ザ・ホエール』感想 

          先日見てきた。まぁ感想です。今年のアカデミー賞候補作の中では、一番刺さった映画だと思う。2番目は『西部戦線異状なし』かな。 ダーレン・アロノフスキーが嫌な映画を作るやつだというのは知ってた。レクイエムフォードリームにせよ、ミッキーローグのレスラーにせよ。今回もやはり、いい意味で嫌な映画だった。 嫌にも色々とあるのだが、アロノフスキーが好む?のは、とくに悪いことは何もしていない人から醸し出されるある種の痛々しさ、というかぶっちゃけるとイタさを露悪的なまでに浮き彫りにするその

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          誰かの成長や成功を、感動ポルノとして描かない選択『ぼっち・ざ・ろっく!』最終話の衝撃

          ぼっちざろっくの最終話が凄いのである。ただ、私自身何が凄かったのかよくわからなくて、視聴から3か月近く経ってしまった。そんな時に、こんな動画を見た。 22年に公開されたアニメ、『ぼっち・ざ・ろっく!』の最終話での、各国のファンの反応を集めた動画だ。どの配信者のリアクションも良いが、取り分け一番右下、はしっこの男性のリアクションに注目してほしい。 調べてみると彼は「わさもん Anime Reaction 2nd」という名で活動中のユーチューバーで、その名の通りアニメ視聴中の

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          『シン・仮面ライダー』感想 コスプレ集団の素人演劇+クレショフ効果?みたいな映画 

          2023年3月21日追記、タイトルと内容も一部変更しました。知ったかしたらいかん。 いいところを先にあげておこうか。まず怪人、この映画では○○オーグと称されているが、そのデザインがよかった。序盤のクモオーグと西野七瀬が演ずるヤンデレハチオーグはよくて格好いい。おまけにモビルスーツのように目が光る。 格好いいといえば、後述するこの映画で何度も登場するモンタージュやキャラのブツブツ独り言シーンを除けば、その絵作りも然りである。具体的には背景とライダーがセットのショットだ。例え

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          『イニシェリン島の精霊』批評 わたしの心に勝手にふみこまないでね、あなた。みたいな映画

          ある日突然、友人や家族から一方的に絶縁を突きつけられる。恨まれたり、嫌われたりするような覚えはないのに。よくある話という訳でもないが、こうした不条理は決してありえないという訳でもない。人間、そういう目にあうとまるで自分がカフカやディーノ・プッツァーティーの小説に出てくる登場人物になったかのような気持ちになるものだ(こういう経験は私も人生に何度かあるし、実はしてきた自覚もある)。さて、イニシェリン島の精霊だが、やはりそうした人間の不条理みたいなものを、おっさん2人の喧嘩を通して

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          映画『対峙』批評 元首相暗殺が起き、迷惑行為が横行するこの国で、敢えて胃の痛くなるこの映画を選択する意義

          ここ最近になって、また若年層による迷惑行為の動画が増えてきて、えらい騒ぎになっている。いっときバイトテロとか、おでんツンツン男の奇行を収めた動画がで回ったりして、それも落ち着いたと思った矢先の再ブーム到来である。いや、きてほしくなかったけれども。やる事のエグさときたらチンケなもので、バイトの暴走どころか人様の寿司に手をつけたりペロペロしたり、挙げ句の果てに無料のトッピングに箸を突っ込んでかっくらったりとやりたい放題。お陰で回転寿司とか牛丼食べにくくなったろうがどうしてくれる。

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          『新生ロシア1991』映画評 ロシアに向けた爆弾入りのエール

          12月に見た『ミスター・ランズベルギス』にせよ、ウクライナで大変な非難を浴びた問題作『バビ・ヤール』にせよ、サニーフィルムが配給してロズニツァの名をこの国に定着させた群衆三部作のうちの『国葬』や『粛清裁判』にせよ、セルゲイ・ロズニツァがロシアにその支線を向けて映画を作る極めて特異な作家であることは、もはや論を俟たない。そして本作『新生ロシア1991』も然りではあるのだけれども、既存作品とはまた違い、そこにはロズニツァ監督の愛憎入り混じる感情が迸っていた。と、先ほど鑑賞してきた

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          おかげさまで、楽しく年末を過ごしております(今、ようつべで無料で見れる映画を紹介)

          いや、冬休みということでこれ無料なんで、ようつべで見てたんだけど、ほんと最高。脚本があの片淵須直、そして演出があの宮さんという今では絶対にありえないドリームタッグ。 とくに、ラストの『ドーバー海峡の大空中戦!』のエピソード最高にかっこよかった。宮崎イズム全力の描写、そしてラストのせつなさに心打たれる。最高の年末だ。ヒコーキのチェイスもかなり凄いけど、ラストのハドソン夫人の銃撃シークエンスもあまりにかっこよくて震えてる。ワトソンから受け取ったリボルバーのシリンダーを一度リリー

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          樋口毅宏『民宿雪国』書評 これは、読者のモラルへの挑戦状である

          先日私は、樋口毅宏氏の著作の回収騒ぎについて、その経緯や本の感想について、文章にまとめた。 今回は私が樋口の小説の中で最も衝撃を受け、かつ現在でも普通に読める小説を紹介したい。『中野正彦の昭和九十二年』は終盤壮大なスケールで、この国が今後歩んでいくだろう破滅と絶望の未来を描く。いっぽうこの小説はまた別のベクトルで、この国の過去から現在に至る道筋を、一人の年老いた画家の視点でたどっていく。それを読みやすくユーモアあふれる文体で描写する。 で、1年ほど前にこの小説を読んだ。考

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