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ハタノさん、という人。

昨年12月、スローシャッター(ひろのぶと株式会社)が出版された直後のイベントで、本を出してみてどうですかという質問をされたことがあった。

嬉しい一方で緊張ばかりしていた記憶が残っているけど、

よくわからない。

というのが正直なところだった。
半年が過ぎた頃、当時のイベントを思い返し、読んでいただいた方の感想を見ながら、少しずつ実感が湧いてきた。
遅いと思われるかもしれないが、僕はそんな感じだった。

そして本を通じて起きたことの中で、嬉しいことが2つあった。

1つは本の中に登場する人や景色を、読んで頂いた方と共有できること。
細かなストーリーを話すより、旅人の目や仕草として感じることが多く、それだけで嬉しくなった。

もう1つは、これまでテレビの中で見ていた方や、読者として好きな作家さんから、あの本、よかったですよと言っていただけることだ。
芸能や作品を多くの面前に公開し、どう表現するか。
そういうことを生業としてきた方とは程遠い場所にいた身として、これは本当に嬉しいことだった。
この数ヶ月間はそんな出来事で埋め尽くされていて、お知り合いになれた方が増えた。

そんな中に、幡野広志さんハタノさん)という人がいる。

ハタノさんに初めてお会いしたときのことを、よく覚えている。
「あれ?僕、田所さんとはじめまして、でしたっけ?」
と笑いながら仰ったのだが、その言葉と笑顔に、ハタノさんが全て詰まっている気がした。

初めての柔らかい言葉は、僕にとって嬉しいことだった。
その後も何度かお会いしては、お互い共通の趣味である釣りの話や、羽釜の話、あとは大体それに関連した世間話ばかりしている。

ワタナベアニさんやハタノさん共に、写真家とはこんなにも自然体なのかと思うくらい、いつもフラットである。

フラットであるというのはニュートラルであると思っているけど、どんな話題でも決めつけることをしないこと、だと思っている。

面白い、楽しい、ツライという信号をフラットに入力してくれるので、出力する側からすれば、こんなに話しやすい人がいるのかと感じる。

ただ、数ある会話の中でハタノさんはどう思いますか?と尋ねられた時には、僕ならこうかもしれないと真っすぐに答えてくれる。
そんな正直な姿勢は、多くの人を魅力する。
だからアニさんやハタノさんには、みんなが思わず尋ねたくなってしまうような不思議な魅力がある。

ハタノさんとは釣りの話しをするが、具体的な釣法とか、釣れる場所などを話した記憶はない。
お互い見えている山や渓流の景色を感じては、お互いにイイデスネ~と言う。

僕の経験では、仲間と釣りに行き、各々が近くの川で遊んだあとに集合するテントや温泉宿のような空気である。
炭をおこしたコンロの上に、各々が持参したツマミを炙り、その日起きた出来事や笑い話をしながら、美しい日没が背中にある。

僅かな会話や時間を交差できることも旅だと思うし、ハタノさんという人は、それをしっかりと持っている人だと思った。

そんな一面を感じることができてから、ハタノさんの新刊を読んだ。

  『息子が生まれた日から、雨の日が好きになった。』 (ポプラ社)


僕はハタノさんのことを知らないが、言葉や出で立ち、空気から、自然を愛する人だということは伝わってくる。
自然はいつも厳しいし、誰に対しても同じようにそこに存在するが、ハタノさんはそこにある小さな変化を感じ取る。

そんな視野や世界を子供に伝え、子供からも教わる。
彼と、彼の家族にある日常や時間が一冊になっていて、読んだ僕の人生のことも考える本だった。
そうかと思えば、途中途中にご飯の話も散りばめられていて、読んでいるといきなりお腹が減いてしまうというのも好きだ。

表現するなら、それはまさに僕が経験してきた、釣りのあと夕暮れに集う仲間との団らんであり、ゆっくりと流れる時間だった。

これからもどこかでお会いすることもあるだろうし、その時もきっと釣りの話をすると思う。
徐々に羽釜のことも気になっているし、そのことも訊いてみよう。

それが僕の思うハタノさん、という人だ。

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