見出し画像

令和元年会社法改正備忘(株主総会資料の電子提供制度)

1.概要

定款に定めを置くことにより、取締役が、株主総会資料の内容である情報を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載し、株主に対して当該ウェブサイトのアドレス等を株主総会の招集通知に記載して通知した場合には、株主に対して総会資料を適法に提供したものとする制度。

なお、振替株式を発行している会社については、電子提供制度を利用することが義務付けられているため、上場会社は電子提供制度が強制されることになる。

2.会社法改正前の状況

株主総会の招集通知については、①書面による議決権行使を認める場合、②電磁的方法による議決権行使を認める場合、③取締役会設置会社である場合には、書面で行わなければならず(会299Ⅱ)、例外的に、株主の承諾を得た場合には、電磁的方法により通知を発することができる(同Ⅲ)。

電磁的方法により通知を発するためには、個別の株主の同意が必要であり、株主が多数に及ぶ場合、電磁的方法による通知に統一することはほぼ不可能で、実務上ほとんど採用されていない。

会社法施行規則94条1項によって、株主参考資料に記載すべき事項に関する情報を、招集通知の発出時から、株主総会の日から3か月経過する日までの間、継続して電磁的方法により株主が提供を受けることができる状態に置く措置をとる場合には、当該事項は、当該事項を記載した株主総会参考書類を株主に対して提供したものとみなされるが、議案等については、この制度の対象外とされていた。

そこで、今回、株主総会資料については、ウェブサイトにアップロードし、そのウェブサイトのURLを記載した招集通知を書面で送る、という方法により、株主総会資料を適法に提供したものとする制度が創設された。

なお、電子提供措置の下においては、招集通知の送付期限は、2週間前。

3.電子提供制度の内容

(1)電子提供措置の内容

会社法298条1項各号の事由や、書面による議決権行使を認める場合には、株主総会参考資料や議決権行使書面記載事由など、シチュエーションによって掲示すべき事項が定められている(325条の3第1項)

例外が2つ。

① 議決権行使書面を招集通知に際して交付する場合には、議決権行使書面記載の内容については、電子提供措置が不要。

② 有価証券報告書又はその添付書類に、電子提供措置が必要な情報を盛り込んで、電子提供措置開始日までにEDINETに登録すると、その資料については電子提供措置は不要(但し、現行のスケジュールに照らすと、有報が作成されるのは後ろのタイミングなので、実務的な利用可能性は高くないのではないか)。

(2)電子提供措置の期間

始期:株主総会日の三週間前の日、又は招集通知発送日のいずれか早い日。

終期:株主総会の日後3か月を経過した日

(3)電子提供措置の方法

法令上定めはなく、省令で定められることが予定されているが、自社ウェブサイトと、金融商品取引所のウェブサイトに掲載することが想定されている。

自社サイトのサーバーダウンによる株主総会手続の瑕疵に対する、制度的なバックアップ。

(4)書面交付請求

電子提供措置を取る旨の定款の定めがある株式会社の株主は、電子提供措置として提供すべき事項について、書面の交付を請求できる。

この書面交付請求は、一度行うと、撤回がない限り、その後のすべての株主総会・種類株主総会の招集に際して有効なものとして扱われる。

会社は、書面交付請求を行った株主のうち、請求を行った日から起算して1年以上経過している株主に対し、電子提供書面の交付を終了する旨を通知し、1カ月以上の異議期間を設けて催告をすることができる。

期間内に申し出ない株主については、期間経過時に、書面交付請求は効力を失うことになる。

異議催告ができる期間の起算点は、交付請求を行った株主ごとに異なるため、株主ごとにこれを管理する必要がある。その管理コストと、書類準備のコストとの天秤で、電子提供と合わせて書面も全株主に交付してしまうことも考えられる(フルセットデリバリー)。
この場合、電子提供措置事項のうち法務省令で定める事項の全部又は一部については、交付書面の記載対象外とする旨の定款の定め(325条の5第3項)を活用して、書類に記載する内容を簡略化することが考えられる。

(5)電子提供措置の瑕疵

電子提供措置は、期間中「継続して」株主が閲覧できる状態にしておかなければならないので、一時的であっても、株主がアクセスできない状態があると、瑕疵があったということになる。
電子提供措置期間開始日から株主総会開催日の前までの間に瑕疵がある場合には、招集手続の瑕疵として、決議取消事由に該当するのが原則。

但し、短期間の障害の場合にまで招集手続きの瑕疵となると、法的安定誠意が阻害されるので、以下の要件を全て満たす場合には、中断は、電子提供措置の効力に影響を及ぼさないこととされている。

① 中断が生じることについて、会社の善意無重過失、又は正当事由があること。

② 中断時間の合計が、電子提供措置期間の10分の1を超えないこと。

③ 提供措置開始日から株主総会の日までの期間中に中断が生じたときは、当該期間中に中断が生じた時間の合計が、当該期間の10分の1を超えないこと。

④ 会社が、中断を知った後速やかに、その旨、中断が生じた時間、中断の内容について、電子提供措置に付して電子提供措置を取ったこと。

バックアップとして、証券取引所のホームページにも掲載している場合には、自社ホームページに障害が発生したとしても救済される方向で検討されている。

4.経過措置

上場会社等、電子提供措置が義務付けられる会社については、施行日を効力発生日として、電子提供措置を取る旨の定めを設ける定款変更決議をしたものとみなされる。

なお、書面交付請求に関し、電子提供措置事項の一部の不記載に関する定款変更は、みなしの対象ではないため、別途株主総会決議が必要。

電子提供措置の定めは登記事項であるが、登記期間は、施行日から6カ月間。但し、他の登記をその間にする場合には、その際に同時に登記を行う必要がある。

定款変更決議をしたものとみなされた会社が電子提供制度により招集を行うことになるのは、施行日から6か月経過後に開催する株主総会。それまでは従前どおり。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?