スターライト・ザ・ウサギ! 第二話

シーン①

 山猫花魁の三人は笑顔で今日のゲストを招き入れる。

博徒「それでは本日のスペシャルゲスト!」
酒盗「我らがコズプロのスーパールーキー!」
葉巻「日輪アルカだニャン!」

 アルカが登場した途端、ユーザーアクティビティが跳ねあがった。

猫A『ア、アルカ!?』
猫B『落ち目で場末の猫カフェになんで!?』
猫C『同じ事務所だからだろ』『猫を拾ってやれって社長に言われたんだ』

葉巻「みんな酷いニャー!」

 山猫花魁のフォロワーとは思えないコメントが仮想世界を飛び交う。アルカは笑顔で手を振る。

アルカ「皆さん初めまして! 後輩のアルカです!」「驚いている野良猫さん多いですよね?」

猫A『そりゃそうだ』
猫B『場末の汚い猫カフェですがどうぞよしなに…』

葉巻「汚いのはお前らのコメントだニャ!」
アルカ「あはは…みんなは私と先輩の試合とか見たい?」

猫A『見たい! けど怖い!』
猫B『山猫が負けたらコズプロの世代交代が明白に…』
猫C『ボロ負けする山猫は…ちょっと見たいが』

博徒「裏切り猫どもおおおォォォ!!」
アルカ「ふふ。生放送にすぐ集まるんだから」「みんな先輩が好きだよね」

 アルカは笑顔の裏側で、思考と策を巡らす。

アルカ(ここは先輩の放送枠)(枠主を弄るのはファンの特権だ)(小悪魔なアルカは抑えつつ、後輩キャラを通そう)

 幸せそうな表情で、アルカは山猫花魁を持ち上げる。

アルカ「今日は私の我儘に先輩が仕方なーく付き合ってくれました」「面倒見のいい先輩を持って幸せです♪」

猫A『嘘だろ…ウチの猫がアルカになつかれてる…』
猫B『アラサーになってもニャンコ言葉で頑張ってきた成果』
猫C『来るぞ山猫×アルカ!』

 盛り上がる野良猫たち。
 アルカが山猫に視線を送ると、頷き合って息を合わせる。

博徒「それではもう一匹のゲスト!」
葉巻「コズプロ期待の新人! 灰兎(仮)だニャー!」

 派手なエフェクトと共に登場する灰兎(仮)——もとい兎喜子。
 野良猫は大いにざわついた。

猫A『え…何コイツ…』
猫B『経年劣化すげぇ…』
猫C『中身は誰だ? アルカに同期いないよな?』

 憶測とドン引きのコメントが飛び交う。
 腹を括った兎喜子は、愛想よく挨拶する。

兎喜子「コ、コンニチワウサ!」「アルカの友達の灰兎(仮)だウサ!」

猫A『語尾ウサなんだ!』
猫B『ってか声固いな!』
猫C『場末のカフェだから気楽にいこうよ』

兎喜子(う…野良猫のみなさん優しい…!)

 安易に語尾を『ウサ』にしてみたが、拒絶はされなかったようだ。
 アルカは灰兎(仮)に抱き着いて撫でてやる。

アルカ「今日デビューの新人ちゃんです!」「新人でも生放送に呼んでくれる先輩マジ天使だよね!」
兎喜子「そ、その通りだウサ! 猫型天使だウサ!」
アルカ「ハイみんな! 山猫花魁に拍手~!」

 手を叩くエモートやコメントが流れる。
 逆に山猫花魁は戸惑った。
 アルカの策でファンの対応がテンプレから外れて来たからだ。

葉巻(あ、あれ!? いつもと野良猫の反応が違う!?)
酒盗(しまった! 生意気で小悪魔なアルカによる褒め殺し!)
博徒(推しが褒められればファンも喜ぶのは定石!)
三人(このまま放送を支配するつもりだ!)

 弄られるのがメイントークだった山猫花魁はこの展開に後れを取る。
 それを見逃すアルカではない。
 今日のスケジュールパネルを開き、スムーズに放送進行を始める。

アルカ「今日は灰兎(仮)と先輩のガチバトル!」「トップ100ゲーマーの先輩たちに、無名新人の灰兎(仮)が挑みます!」
博徒「そ、そうだニャ! 今日は兎狩りの時間だニャ!」
酒盗「相手が新人でも無慈悲!」
葉巻「我らの超絶テクで瞬殺だニャ!」

猫A『うーん、これは何時もの山猫』
猫B『アルカが上げた株を二分で落とす』
猫C『頑張れ新人! 俺たちが応援するぞ!』

博徒「みんな酷いニャー!」

 …と言いつつ、「よし! 何時もの流れになってきた!」とガッツポーズする博徒。
 だが視聴者が兎喜子を応援するだけでも上々だ。
 兎喜子は自分への応援コメントを読んで、胸の高鳴りを抑えきれずにいた。

兎喜子(や、やった! 私でもバーチャルアイドルとして応援してもらえてる!)

 アルカの話術のおかげだが、嬉しいものは嬉しいのだ。
 アルカは兎喜子の緊張が解けてきたのを確認し、空を指さす。

アルカ「それでは舞台を移します!」「対戦するゲームは――トウキョウト・フリーランニングⅦ!!」

 シーン②

 猫カフェが崩れ、ビルが轟音を立てて生えてくる。
 エフェクトを放ちながら仮想世界が再構築され、ゲームの舞台が整っていく。兎喜子はスタート地点である渋谷109のビルの屋上にワープした。

兎喜子(渋谷109の上! 何時も仕事してる範囲内だわ!)

 ガッツポーズする兎喜子。
 東京タワーの頂上に配置されたアルカは、マイクを片手にゲームルールを解説する。

アルカ「舞台は東京!」「ランダムに配置されたスタート地点から」「道中に配置されたガジェットを拾いつつ有利に進め」「東京タワーを目指します!」「選べる初期装備は汎用のものから一つだけ!」「運と判断、そしてプレイヤースキルが試されます!」

 プレイヤーには3分の準備時間が与えられる。
 スプリングを装備する兎喜子を見た野良猫たちは、揃って冷や汗を流す。

猫A『うわぁ…スプリング選んじゃったか…』
猫B『初速が遅い、操作緻密すぎ、反応シビアの三重苦ガジェット』
猫C『しかも魔の渋谷109スタートかよ…』

 野良猫の誰もが山猫花魁の勝利を疑ってない。
 開始まで残り1分。
 山猫花魁はチームチャット内で最終確認をする。

 三人が選んだのは飛行できるジェットパック。
 ランドセルの様に背負い、水蒸気を噴射して跳ぶガジェットだ。
 障害物を無視して直線距離を移動できるのが強みである。

 博徒、葉巻、酒盗の三人は最低限の時間で作戦を練る。

博徒「渋谷109から直線に出る為には」「悪名高き渋谷スクランブル交差点に降りる必要がある!」
葉巻「エネミーの出現率は現実の人口密度に比例する!」
酒盗「世界最高の人口密度を誇る渋谷スクランブル交差点は魔境!」

三人「ここで叩く!!」

 開始5秒前。
 アルカは東京タワーの頂上で旗を掲げる。

アルカ「それではトウキョウト・フリーランニングⅦ――スタートです!」

 二匹の山猫がゴールを無視し、兎喜子の最短ルート妨害へ急行する。
 山猫花魁の勝利は揺るぎない。
 野良猫の誰もがそう予想する中――
 一陣の暴風が、渋谷の空を貫いた。

大勢の野良猫『…は?』

 空からの定点カメラで観戦していた野良猫の多くが、兎喜子の姿を見失う。博徒と葉巻も、初心者を侮る野良猫も、兎喜子が姿を消したことを認知するまで若干の時間を要した。

葉巻(う、嘘!?)
酒盗(消えた!?)

 唯一この展開を予想していたアルカだけが、拳を振り上げた。

アルカ「スタートダッシュに成功したのは、灰兎(仮)!!」「魔の渋谷109から対岸のビルまで跳躍し」「スクランブル交差点をショートカット!」

猫A『馬鹿な!?』
猫B『スプリングの初速は時速15㎞! 跳躍は5mが限界だぞ!?』
猫C『ってか今どこ!?』

 定点カメラから電子マップに移動する野良猫たち。
 ビルディングを足場に縦横無尽に跳ぶ兎喜子を捉えた。

猫A『じ…時速90㎞!?』
猫B『まだ上がってる! 100㎞を超えた!』
猫C『加速率が尋常じゃない! 飛行エネミーも追いつけないぞ!』

 酒盗と葉巻は必死に追うが間に合わない。
 兎喜子は既に遥か彼方だ。
 六本木六丁目の十字路に到達した兎喜子は、最短ルート上に良く知るガジェットを発見した。

兎喜子(あ…スパイダーマフラー!)

 兎喜子の愛用するもう一つのガジェット。
 これさえあれば、もっと速く跳ぶことができる。

兎喜子(装着完了! 絶対に負けない!)

 しかし装着に費やした僅か0,5秒の間に、リーダーの博徒が動いた。

博徒「スペシャルガジェット発動!〝軍隊蜂〟swarm of bees!!」

 モノローグ:スペシャルガジェット〝軍隊蜂〟。
 ターゲットに20秒間、巨大蜂のエネミー群を正面から襲わせるスペシャルガジェット。
 最強のホーミング性能を持ち、一匹でも直撃すればスタンペナルティを喰らう!:モノローグ終

 凄まじい数で襲い掛かる軍隊蜂。
 余裕を見せていたアルカも笑顔を失った。

アルカ(不味い! 先生、一度停止――!)

 だが兎喜子は止まらない。
 最高速度で巨大蜂の前に跳躍し――残像を生みながら、空中で進路を変えた。

猫たち『嘘ぉ!?』

 兎喜子はスパイダーマフラーの伸縮と粘着の性能を生かし、ビルの壁にマフラーを貼り付け、無理やり空中で進路を変えたのだ。

兎喜子(ルート確認! 跳べる!!)

 飛び交う巨大蜂の群れの隙間は辛うじて人間一つ分。
 ビルから鋭角に車道へ跳び、車道から信号を足場に跳び移り、軍隊蜂の群れを躱す。
 数センチのミスで衝突する状況を、兎喜子は空中回転しながら次々と突破していく。

アルカ「…わぉ」

 アルカでさえ絶句する絶技。
 ゴールラインを突き抜けた兎喜子は最後にバランスを崩し、転がりながら東京タワーに激突した。

兎喜子「ぎゃふん!」

 目を回した兎喜子だが、慌てて顔を上げる。

兎喜子「ど、どう!?」「勝った!?」

 兎喜子の問いに反応はない。
 全く更新されない野良猫のコメント欄と、硬直して動かない山猫花魁に、不安を覚える兎喜子だったが――
 次の瞬間。

 東京全域が激震した。

猫たち『は…はあああああ!!?』

兎喜子「ひぇ…!?」

猫A『渋谷から東京タワーまでを98秒で走破だとぉ!?』
猫B『日本レコードと2秒しか変わらねえ!!』
猫C『こちら検証班! チートは確認されず!』
猫D『コズプロに…とんでもない新人が現れた!!』 

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