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【野口武悟教授インタビュー】 読書バリアフリー法施行による読書環境の変化とオーディオブックの可能性

障がいの有無に関わらず、すべての人が読書による文字・活字文化の恩恵を受けられるようにすることを目的に2019年に施行された「読書バリアフリー法」。以来、公共図書館や学校での読書環境にはどんな変化があったのでしょうか。障がいのある人に対する図書館サービスのあり方について研究している専修大学文学部の野口武悟教授に、読書バリアフリー法施行後の公共図書館の現状と読書バリアフリーに対するオーディオブックの可能性について伺いました。

野口武悟さんプロフィール
専修大学文学部教授。筑波大学大学院図書館情報メディア研究科博士課程修了、博士(図書館情報学)。専門は図書館情報学(主に、読書バリアフリー、子どもの読書活動、電子図書館等の研究)・人文社会情報学(図書館学)。 現在、放送大学客員教授、文部科学省子供の読書活動推進に関する有識者会議委員、 NPOブックスタート理事、日本特別ニーズ教育学会理事なども務める。 主な著書に『学びの環境をデザインする学校図書館マネジメント』(悠光堂、2022年)、『変化する社会とともに歩む学校図書館』(勉誠出版、2021年)、『改訂図書館のアクセシビリティ:「合理的配慮」の提供に向けて』(樹村房、2021年)など。子どもの読書、障がい者サービス、電子書籍サービスなどについて研究している。

施行から4年。未だ音声コンテンツの提供は3割のみ

――読書バリアフリー法が施行されてから4年が経ちました。現状はどのような様子でしょうか?

野口: 公共図書館では、建物にスロープをつけたり段差をなくしたりといった設備面のバリアフリー化は、実は法律ができる前からかなり進んでいました。現時点での課題は、コンテンツの充実と周知活動にあると感じています。
参考になるデータとして、全国公共図書館協議会の調査結果をご紹介します。これによると、全国の公共図書館における音声コンテンツの所蔵率は、カセットテープで30.6%、音声デイジーで26%、落語やオーディオブックを含む「その他の障がい者向け録音資料」で18.4%です。一番多いカセットテープですら3割の図書館でしか提供できていないのが実情です。しかも所蔵タイトル数は、カセットテープで656、音声デイジーで367、その他の障がい者向け録音資料280が平均で、決して充実しているとはいえません。

――コンテンツの充実が進まない理由はどこにあると思われますか?

野口: 図書館サービス全体においていえることですが、読書バリアフリーがまだまだ基盤サービスとして捉えられていないところにあると思います。どちらかというと、オプション的サービスとして捉えられてしまっている。私は日本図書館協会の障がい者サービス委員会に所属していますが、委員会のメンバーがよく言うのは、「障がい者向けサービスはサービスの基本なんだ」ということです。でも残念ながら、全体としてはまだそこまで認識が進んでいない。とはいえ、この4年で読書バリアフリーに対する関心はずいぶん高まった印象があります。読書バリアフリーをテーマにした研修会もずいぶん増えていますし、国や各都道府県レベルの補助事業も増えています。この流れが定着していくことを期待しています。

――サービスの周知に対してはどのようなご意見をお持ちですか?

野口: 図書館側の誤解としてよくあるのが、「障がいがある方なら図書館が障がい者向けのサービスを提供していることを全員が認識している」と思っていることです。でも視覚障がいの場合、先天性の方は支援教育の中で読書の方法を学んでいる場合が多いですが、中途で障がいを持った方はそういう情報を得る機会がないことも多い。すると、図書館に行って音声サービスを利用するという発想そのものを持たない方もいるわけです。そういった状況を認識して、サービスを知ってもらうための活動にもっと取り組む必要があると思います。

読書バリアフリーは誰もに関わること

野口: ここまで、障がい者向けの読書バリアフリーという観点でお話してきましたが、図書館がさまざまな読書スタイルを充実させることは、なにも障がいのある方だけのためではないんです。

例えば、文科省のデータによると2021年度で特別支援教育を受けている小・中学生の割合は全体の5.6%にあたります。30人クラスに1〜2人は支援教育を受けている子がいる割合で、この10年で2倍以上に増えています。こういった子のなかには集中して本を読むことが難しい子やディスレクシアと呼ばれるような文字の読み書きに困難がある子も多く、子どもたち全員の読書機会を確保するという意味で、読書バリアフリーは必要な取り組みです。

もっと言うと、人生100年時代になってくるなかで、加齢とともに目が見えにくくなる方も当然いらっしゃいますよね。そんなときにも自分に合った読書スタイルの図書サービスがあれば、有意義な時間を過ごせます。読書バリアフリーに対して、「いつか自分も使うかもしれない」と思えば、サービスの必要性がより認識しやすくなると思います。

読書スタイルもダイバーシティな時代

野口: これまでは「読書=黙読」が当たり前でしたが、耳で「聴く読書」や点字ユーザーの「触る読書」など、多様な読書スタイルが当たり前の社会になれば、読書の楽しみ方はより広がります
GIGAスクール構想で、義務教育を受ける生徒は一人一台電子端末を持つことが当たり前になりました。すでに手元にある電子端末を使えば、電子書籍やオーディオブックなどの音声メディアがすぐに活用できる環境にあります。

今は読書離れが問題視されていて、例えば高校生の半数は1ヶ月の間に一冊も本を読まないと言われますが、ここでいう読書は黙読が前提です。これが、個々人が好きな読書スタイルを選べるようになったら大きく状況は変わるはずです。従来の読書スタイルにこだわり続けるのではなく、聴く読書が好きな人はそっちをメインに読書するような、そんな社会になっていけばいいと思います。

――多様な読書環境を整備するため、図書館ではどんなことができるのでしょう?

野口: これまでは、コンテンツを充実させるために、それぞれの図書館が音訳者を養成して、デイジーの制作や対面朗読サービスなどを行なっていましたが、もっと既存のコンテンツを利用した方がいいと思います。
例えばデイジーのような障害のある方向けに特化して制作されたコンテンツは国立国会図書館のサービスやサピエ図書館にもあるし、公共図書館が市販のオーディオブックサービスをもっと取り入れたっていいはず。一部の図書館では、民間企業と契約してオーディオブックの配信サービスを開始していますが、そういった取り組みがもっともっと進んでいくといいですね。読書バリアフリー法の中には人材育成という観点もあるので、まずはそういったサービスがあることを図書館で働く多くの人たちが知る機会をつくることから始める必要があります。
オーディブックなどを使った「聴く読書」は、点字のように特別なスキルが必要なく、誰でも気軽に利用できるというメリットがあります。紙の読書スタイルに抵抗感のある人が図書館が利用するきっかけづくりとしても大変意義のある取り組みだと感じます。


誰もが自分に合った読書スタイルを選べる社会に

バリアフリーというと障がいを持つ方のためのものという考えになりがちですが、読書のバリアフリーは誰もが関わるかもしれないものというお話にハッとさせられました。

オトバンクは「SDGs読書プロジェクト」を掲げ、他の企業と提携し、公共図書館や学校図書館へのオーディオブック提供に取り組んでいます。
障がいの有無だけでなく、自身の好みも含め、誰もが自分に合った読書を選択できるように、今後もオーディオブックの拡大に努めてまいります!

⚫︎公共図書館へのオーディオブック導入に関するお問い合わせはこちら

▼オーディオブック配信サービス「audiobook.jp」について


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