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Rider's Story 何もない小さな湖

割引あり

バイク小説短編集 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ
 武田宗徳 オートバイブックス 収録作品

 男は、その平べったい町から逃げるようにオートバイで飛び出した。

 この町が嫌いになったわけではない。住み慣れた自分の町だ。愛着もあるし、どちらかと言えば好きなのだろう。山も海も近いし、きれいな川も流れている。都会ではないが、交通の便もいいし、買い物も十分満足できる便利な町だ。
 しかし、彼は時々この町にいると息が詰まりそうになる。この町での生活、いつもの変らない日常に苦しくなるのだ。

 深呼吸のできる場所へ、日常から脱出して息抜きをするために、彼は国道をオートバイでひた走る。見慣れた景色から離れるのに、最低でも一時間は走らなければならない。彼は先を急ぎ、アクセルを開けた。早く息苦しさから、解放されたかった。

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