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Rider's Story 隣のお兄ちゃん

割引あり

バイク小説短編集 Rider's Story 僕は、オートバイを選んだ
 武田宗徳 オートバイブックス 収録作 


 隣の家にはいつもピカピカの赤い大きなオートバイが停めてあった。ボクがこの町に越してきて、真っ先に目に入ったのが、その赤い大きなオートバイだった。
 
 日曜日、サッカーボールを持って外に出たら、赤いオートバイが道路に出ていた。水浸しになっていた。しばらくすると、お兄ちゃんがボロ布を手に持って出てきた。
「何してるの?」
 ボクはお兄ちゃんに聞いた。
「洗車だよ。洗ってんの。人間と同じで体洗うんだ。じゃないと、こいつ機嫌悪くなっちまう」
「ふーん」
「君、名前は?」
「太一」
「いくつ?」
「十才」
「そうか、よろしくな」
 もっと話したかったけど、お兄ちゃんはそう言ってオートバイを洗い始めたので、ボクはサッカーボールを持って公園へ行った。

 次の日曜日の朝、布団の中で「ブオン、ブオン」という音が外から聞こえてきて目を覚ましたボクは、ハッとしてパジャマのまま急いで外へ出た。顔全体を覆った白いヘルメットをかぶったお兄ちゃんが赤い大きなオートバイに跨って、エンジンをふかしていた。黒い革ジャンと革パンツもかっこよかった。
「お兄ちゃん! 出掛けるの?」


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