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ミッドナイト・シュ・ラ・バー

 こんな真夜中のファミレスで、何やってんのあんたら。
「お客様、ご注文は」
 俺の声を完全に無視する、ボックス席に向かい合わせのカップル二組。その異様な雰囲気に俺以外のバイトは近寄ろうともしない。俺は再びうんざりと声を張り上げた。
「お客様」
「お前」
 俺の声と男の声が重なった。
「お前がカズコをたぶらかしたんかコルァ」
 古くさいサングラスをかけた男が凄む横で、ショートカットの地味な女が小さくなっている。
「なァに言ってんのよォ。その女が色仕掛けでも使ったに決まってんじゃない」
 真っ赤な口紅が付いた煙草を乱暴に消す女の横で、安物のポロシャツを着た男が落ち着かない様子で座っている。
「何だとコルァ」
「何よォ」
「タケシさん、あの……」
 何か言いたげな地味女。
「ボク達、真剣なんだ。わかってくれアケミ」
 唐突に宣言するポロシャツ男。
「ふざけんなコルァ」
「ちょっとォマサオー、あれよ? あれの何処がいいってのよォ」
 サングラスがポロシャツにつかみかかる。口紅女が地味女を睨みつける。

 プライドが許さないだけだ。浮気相手が自分より格下だから。
 俺は急に馬鹿らしくなった。

「俺の女に手ェ出したら、わかっとるんじゃろうなコルァ」
「コロッケセットですねっ!」
 俺はサングラス男の語尾を捕まえた。
「あ? 何を言っとるんじゃコルァ」
「コロッケセット、追加ですね」
「ええ加減にせぇよコ……」
 サングラスがまた凄もうとして慌てて口をつぐんだ。言ってもコロッケが増えるだけだとわかったのだろう。
「ちょっとォ何よォ」
「ヨーグルトパフェですね!」
 口紅女がぐっと言葉に詰まる。
「あの、ボク達本当に真剣なん……」
「ナンカレーですね!」
 ポロシャツ男も黙り込んだ後、地味女が泣きそうな顔で喋り始めた。
「あの……実は、お腹に赤ちゃんが」
「子持ちししゃもですねっ!!」

 声を出す者はもう誰もいなかった。気まずく淀む空気の中で俺は更に声を張り上げた。
「ご注文を繰り返します!」


2006年12月16日 お題:5人以上の人物を描写し話をさせること

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