見出し画像

Lorna Shore『Pain Remains』(2022)

アメリカ合衆国のデスコア・バンドLorna Shore。2009年にニュージャージー州で結成される。
バンド名は『バットマン・コンフィデンシャル』シリーズに登場するバットマンのマイナーな恋敵にちなんで名付けられた。

2015年にFit for an Autopsy のギタリストWill Putney のプロデュースにより、『Psalms』でデビュー、続く2017年に『Flesh Coffin』をリリースするも創設メンバーであったBassのGary Herreraが脱退、2018年にはVoのTom Barberまでもが離脱する事になってしまう。
Tomの後任として加入が発表されたのはSigns of the SwarmのCJ McCreeryで、直後にはCentury Mediaから『Immortal』をリリースし、Cattle Decapitation、 Carnifex、 The Facelessと言ったバンドとツアーを回るなどバンドとしても復帰の兆しを見せる。

しかし2019年にそのCJ McCreeryが虐待による訴追を受け、バンドから解雇。それに伴い予定されていた来日公演も白紙に戻る。

後任Voのオーディションには15000人が応募したらしいが、その中で選ばれたのは当時映画制作会社で忙しく働いていたWill Ramos
という若者だった。
彼がYouTubeに上げた動画がメンバーの目に止まり、その凶悪なグロウルがバンドの方向性と完全に一致したとのことで一気にシンデレラストーリーは動き出す。

Willを迎えて発表したEP『...AND I RETURN TO NOTHINGNESS』(2021)収録曲、『To The Hellfire』がリアクション動画などでバイラル・ヒットとなったのは記憶に新しいが、
本作はその勢いのまま制作されたであろうフルレングスアルバム『Pain Remains』。

Pain Remains

Willのグロウルスキルは出力、表現力、どれも圧倒的で、スタンダードなガテラルからピッグスクイール、デスシャウト、スクリームあらゆる悪魔的な声を出せる。
しかもどこかその声は悲しみを帯びていて、怒りや苛つきだけではないホンモノの「感情の混沌さ」が表れている。
デスコアかくあるべし、な一枚。

各方面からの評価も上々なので、なんとかこの機会に来日してほしいと思ってしまう…!

———-
* Will Ramos – vocals
* Adam De Micco – lead guitar
* Andrew O'Connor – rhythm guitar
* Michael Yager – bass
* Austin Archey – drums
———-


■Welcome Back, O' Sleeping Dreamer
獰猛 凶悪 強烈
この曲を表現するときはそんな言葉ばかり羅列される激烈ブラストビートとブレイクダウンを繰り返しながら進行する開幕チューン。
ダイナミックに死の予感を叩きつける強烈な曲。

■Into The Earth
複雑怪奇なテクニカルなギターと超絶高速ビートと終末感漂うクワイヤ、Will Ramosの狂気のピッグ・スクイールが乱れに乱れて混ざり合うカオティックな曲。
とても人間の声とは思えぬ狂痴ヴォイスに脳がぐちゃぐちゃにされる。


■Sun//Eater

高貴なオケが鳴り響く中、高速デスラップと鬼気迫るビートが魑魅魍魎の音像を創り上げる。
焦燥感溢れるギターソロも粒が立っていて素晴らしい。

■Cursed To Die
高速で変拍子を叩く人智を超えたスキルにまず耳が惹かれるテクニカルチューン。
後半はお決まりの下水道でレコーディングしたかのようなガテラルで凶悪なブレイクダウンをガン決めし、最後はメロディアスなギターソロでしめる。

■Soulless Existence
ややBPMを抑えめにして一発の重さにかけると思いきや、後半から疾走。
と、思いきやまた失速して、しっかりと首を振らせてくる。
分厚いギターの刻みリフも新鮮に聞こえる。

■Apotheosis
映画のオープニングのようなクワイヤが鳴り響くと同時に高速ツーバス連打が開始。
地をえぐる程の魂のガテラルが炸裂するが、同時にどこか物悲しい感じがする。
Willがもつ元々の声質が悲哀に満ちたトーンというのもあるが、歌詞が非常に重い…

■Wrath
タイトル通り激怒のグロウルから始まる。
身を滅ぼすような圧倒的な葛藤と矛盾をそのままサウンドにしたような複雑で、残虐で、耽美な曲。
現代のデスコアに必要な成分が全て入っている。

■Pain Remains I: Dancing Like Flames
「世界の終わりのサウンドトラック」の第一章。
Willを一躍有名にした狂気と哀しみのグロウルが堪能できる曲です。
悪魔の唸り声のようなガテラルなのに、切なさも入り混じるこの不思議な感覚に、全米が驚愕した。
完全に人間辞めてるとしか思えない。

■Pain Remains II: After All I've Done, I'll Disappear
テクいギターリフや伸びやかなメロディが交互に響く中、ガテラル、グロウル、ピッグスクイール等七色のデス声であらゆる「痛み」を表現するWillのスキルが凄まじい。
キャッチーなメロディや転調も曲の混沌さに拍車を掛けていてひたすらに圧倒される。

■Pain Remains III: In A Sea Of Fire
ストリングスをふんだんに使った雄大なオーケストレーションを突き破る激怒のブラストとデスシャウト。


総合満足度 84点(悲しみを帯びたガテラルに痛みすら感じるレベル

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?