見出し画像

「バカ塗りの娘」

監督:鶴岡慧子
制作国:日本
製作年・上映時間:2023年 118min
キャスト:小林 薫、堀田真由、坂東龍汰、宮田俊哉、木野 花

 「「私、漆続ける」その挑戦が家族と向き合うことを教えてくれた――青木家は津軽塗職人の父・清史郎と、スーパーで働きながら父の仕事を手伝う娘・美也子の二人暮らし。家族より仕事を優先し続けた清史郎に母は愛想を尽かせて出ていき、家業を継がないと決めた兄は自由に生きる道を選んだ。美也子は津軽塗に興味を持ちながらも父に継ぎたいことを堂々と言えず、不器用な清史郎は津軽塗で生きていくことは簡単じゃないと美也子を突き放す。それでも周囲の反対を押し切る美也子。その挑戦が、バラバラになった家族の気持ちを動かしていく―。」*H.P弘前観光コンベンション協会より

 漆製品を芸術品としてのみ見るのか、日常使いの食器の一種類と見るのかでも作品鑑賞の入り口で篩があるよう。
 私個人でいうと実家では漆器をハレとケで使い分けながらも日常にも漆器は生活に入っていたこともあって、現在の生活でも吸い物椀をはじめとして箸やトレーに漆器を使っている。
 確かに食洗器には入れられない漆器は扱いに若干特別感は拭えないが、それを超えて使用感が良くて面倒さは我慢範囲内。
 そうした背景もあって私の中では漆器に光があたった作品にとても興味があった、それも三大漆器ではない津軽漆器。

父の作業を学習の娘

 タイトルにある津軽塗のことを指すバカ塗りは、完成までに四十八工程を要し「バカに塗って、バカに手間暇かけて、バカに丈夫」と言われるほど“塗っては研ぐ”を繰り返すそう。
 私は勝手に、この作品の工程や周辺が丁寧に描かれているところを観たかった。ドキュメンタリー作品よろしくそれだけでも魅せる部分は多い筈。

津軽塗見本

 だが、監督の意図がそこに無く娘の美也子が跡を継ぐことでバラけかかった家族がまとまったことを描くのであれば作品の様相は変わる。

 観終わった後に友人と同意見だったのは、兄や母を描くよりは祖父をもっと描いて津軽塗を伝えて欲しかった。祖父から父、そして、娘へ流れる系譜が描かれていないと二人で話した。

 兄が幼い頃に作った箸はもっと膨らませることが出来ただろうに、と残念だった。祖父の含蓄ある言葉も同様で私には大切に見えた部分は埋もれていた。特に母親との再会場面は不要。 

 全編弘前ロケが行われたそう。桜を通して確かに季節は感じられた。でも、それを超えるところが見当たらない。地元の方々が喜ぶだけなのか。
 作品は殆どBGMが入らない。そのこと自体は普段択んで観ている作品にも多い事柄で問題は無いが、敢えて音楽や音が入らない効果は何だったのだろう。耳を澄ませてようやく聞こえる作業音レベルでも入れて欲しかった。
 台詞の助長さが音もない世界で単調を呼ぶだけ。

 映画の感想はこうして容易に出来るが、監督さんが作品を作り上げることは大変なことは承知。映画を作りあげるって難しい。

 津軽弁で驚きを表現する「わいは」が分からず帰宅して調べる。
 小林 薫さんと木野 花さんが並ぶシーンは本当にお二人だけでそこに厚みが加わる。

★☆
 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?