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「遺灰は語る」

原題:Leonora addio
監督:パオロ・タビアーニ
製作国:イタリア
製作年・上映時間:2022年 90min
キャスト:ファブリツィオ・フェラカーネ、マッテオ・ピッティルーティ

 「映画の主人公は、1936年に亡くなったノーベル賞作家ピランデッロの“遺灰”である。死に際し、「遺灰は故郷シチリアに」と遺言を残すが、時の独裁者ムッソリーニは、作家の遺灰をローマから手放さなかった。戦後、ようやく彼の遺灰が、故郷へ帰還することに。ところが、アメリカ軍の飛行機には搭乗拒否されるわ、はたまた遺灰が入った壺が忽然と消えるわ、次々にトラブルが…。遺灰はシチリアにたどり着けるのだろうか」
 *公式ホームページより

導入画面

 「2001年宇宙の旅」へのオマージュだったのか、『死』を語る為の装置が図らずも同じになったのかは不明。けれども、生と死の移行期を簡潔に表現し、こちらを引き込んでいく作品の始まりだった。

ピランデッロの遺灰

 1936年にピランデッロが死去後、当時のファシスト政権はノーベル賞劇作家に敬意を表しながらも、ピランデッロが希望していた故郷アグリジェントに遺灰を持ち帰ることを許可さなかった。

遺灰

 遺灰を壺に移し替える作業さえ、モノクロの映像では色彩情報が少ないにも拘わらず寧ろ反対にその内面を伝えるようで印象に残ったシーン。

アッピア街道移動

 権威に弱いアメリカだからその移動を手伝ってくれたのかと、敗戦国への対応にしては丁寧で皮肉を見る。でも、こうして引いてみる時、大切な遺灰を運ぶにはぞんざいにも見えるがこれが当時の精一杯か。
 その後、鉄道に乗り換えてローマからシチリアへ移動する。
 言葉では簡単だが、特別列車でもない一般車両での移送は大変だったに違いない。実際にローマからシチリアのシラク―サへ電車を利用して移動したことがあるが約860kmは現代でも半日がかりだった。

一番笑ってしまった場面

 時代背景を考えるとこのような発言になるだろうことは理解できるが神父さまの拘りに同じカトリック教徒の私は隣りに座っていた有人よりもクスクス笑いをこらえるのに大変だった。

 事実をおさらいするような過去をモノクロで表現し、第二部のおまけで描かれるピランデッロの短編小説が現実のようで仮想空間にもみえる世界をカラー表現。その対象さは印象に残る。
 まるで隙間を一切生んではいけないような過剰な映画作品が氾濫する中で、絵本のページをめくるような静かであってもとても深くこころにメッセージが落ちてくる作品だった。

 実際にピランデッロが遺した遺言。

「Pirandello:“I. Sia lasciata passare in silenzio la mia morte. Agli amici, ai nemici preghiera non che di parlarne sui giornali, ma di non farne pur cenno. Né annunzi né partecipazioni. II. Morto, non mi si vesta. Mi s’avvolga, nudo, in un lenzuolo. E niente fiori sul letto e nessun cero acceso. III. Carro d’infima classe, quello dei poveri. Nudo. E nessuno m’accompagni, né parenti, né amici. Il carro, il cavallo, il cocchiere e basta. IV. Bruciatemi. E il mio corpo appena arso, sia lasciato disperdere; perché niente, neppure la cenere, vorrei avanzasse di me. Ma se questo non si può fare sia l’urna cineraria portata in Sicilia e murata in qualche rozza pietra nella campagna di Girgenti, dove nacqui”」

ピランデッロ:「①私の死後を静かに過ごさせてください。友人に対しても、敵に対しても、私について新聞で話すだけでなく、言及しないように祈ります。②死んだ私は、服を着ません。裸でシーツに包んでください。ベッドには花も必要ありません。キャンドルも灯さないで下さい。③親戚も友人も、誰も私に同行しないでください。荷車、馬、御者、それだけです。 ④私を燃やしてください。そして私の遺灰は、散骨して下さい。たとえ灰であっても、私は残される事を望んでいません。しかし、散骨ができないのであれば、骨壷をシチリア島に持って行き、私が生まれたギルジェンティの田園地帯で荒い石で囲い込んで下さい。」

 物には囚われないピランデッロの思いは誰に届き、そして、その幾つが叶ったのだろう。自身の死が残された家族を苦しめないよう配慮であっても、残された者も、また、死を受け入れる儀式は必要。けれども、こうして意志は永劫に残り続ける。

 美しい映像と音楽、ちらばめられたユーモアを是非楽しんでください。

  

本来のポスター

 日本ではこのポスターで集客出来ないと判断され残念。

 Leonora って誰のことだったのか分からずじまい。

★★★★☆

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