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ココがいた神宮 ココといた日々

「ココは変わった」

長年彼を見てきたヤクルトファンは皆、そう思った。
2018年、青木宣親が古巣・ヤクルトに帰ってきた。『He's Back』久久に見る青木は、やんちゃ坊主だった20代の青木を思い出せないほど、大人になっていた。年長者としてリーダーシップを発揮する一方、自ら若手に歩み寄り積極的にコミュニケーションを取る。相変わらず笑顔はかわいいし、ユニフォームのホームとビジターを間違えて集合してしまうドジっ子加減もまたいい。でも彼は、大きくなって、大人になって帰ってきた。

青木は、ココともしっかりコミュニケーションを取っていた。ココも、英語でコミュニケーションを取れる青木を慕っていた。
青木はいつも、グラウンドで「ココ、いいよ!」「ナイスバッティング、ココ!」と、ココのことを鼓舞していた。
負けが込むと守備で怠慢プレーをし、自分が打てないとベンチでふてくされる。そうしていつもコーチに怒られていたココを、青木はうまく乗せて、やる気を出させた。
そのうち、ココの態度は変わっていった。デッドボールで怒りを飲み込む。攻守交代ではベンチから出てチームメイトを迎え入れた。沖縄の公式戦で、帰国後初アーチを放った青木をサイレントトリートメントで出迎える発案をしたのはココだ。

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ウラディミール・バレンティン。愛称・ココ。頭の形がココナッツに似ていると、いとこが付けた。今ではフジテレビONEの中継で、フジテレビのアナウンサーまで「ココ」と言ってしまうほど浸透している。

そんなココが、2019年春季キャンプの打ち上げで、スピーチした。たどたどしい日本語だが、聞き取りやすい、いいスピーチだった。
「おてをハイシク!」「よぉ~おっ」パン!
充実したキャンプだったことが分かる、微笑ましい手締めだった。今年、このチームは大丈夫。もう希望しかなかった。

その手締めの裏話が後日、日刊スポーツヤクルト番の保坂恭子記者の記事として紹介された。「通訳の久野くん」、新入団の通訳・久野朗大とココの、このスピーチの裏話だ。

久野くんのプロフィールとともに明かされる、あのスピーチに隠されたエピソード。キャンプを頑張ったココに、監督・小川淳司直々に手締めのスピーチを依頼した。久野くんは頑張ってサポートし、ココとたくさん練習した。しかしココは当日朝、「自信がない」とごね、小川監督に辞退を申し入れる。だが監督は、「通訳をつけてもメモを見ながらでもいいからやりなさい」と帰した。
そんなやりとりがあっての、あのスピーチだったのだ。ココは久野くんの通訳なしに、またメモを見ることもなく、あのスピーチをやり遂げた。やるじゃん、ココ!
もう一度、東京ヤクルトスワローズTwitter公式サイトの、ココのスピーチ動画を見る。そこで、気づく。
冒頭、ココが円陣の中心に移動し、スピーチを始める寸前。

「久野、大丈夫?久野」

明らかに、小川監督の声だ。
今朝、「やっぱりできない」と泣き言を言ってきたココを突っぱねた監督。でもやはり、心配だったのだ。てっきり、自分の提案どおり久野くんの通訳で話すか、メモを読み上げるかしてスピーチすると思っていたココが、今まさにひとりでしゃべり始めようとしている。久野、通訳は?そう驚いて、たまらず4分の1周離れた久野くんに呼びかけたのだ。

小川監督は、ココが青木のようにチームに溶け込む姿を、うれしく、そして頼もしく見ていたのだろう。
その後もココと監督の交流は、度々伝わってきた。

小川監督「4番、レフト、バレンティン」
バレンティン「はい」


◎ヤクルト・小川監督の囲み取材中に報道陣に紛れたバレンティンは「キノウ、ユウヘイ、ホームラン」と質問。指揮官は「良かったね。バレンティンはダメだったけど」と返され「スミマセン…」。すごすごと退散しました。


小川監督とココのキャッチボール(貴重映像)


小川監督は、うれしかったと思う。自分の名前を呼ばれたら「YES」ではなく「はい」とお返事するココ。自分は打てなかったのにチームメイトのホームランにはしゃぐココ。キャッチボールの相手をしてくれるココ。
ココが心を開き、青木のように自分からチームのことを考え、行動している姿が、たまらなかったと思う。こんな4月のほほえましい光景の先に、あんな厳しいシーズンが待っているなんて、まったく予想していなかった。小川監督の苦しみは、よく伝わってきた。それでも小川監督は、こんなココに救われているといいな。そう祈るくらいしか、私にできることはなかった。

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ココさん。元気ですか?福岡の生活は慣れましたか?
福岡では、慶三が待っていてくれましたね。驚きましたよ、背番号まで譲ってくれるなんて。相変わらず優しいね、慶三は。
あなたのことをちゃんと送り出したくて、ツイッターでは「 #SBファンへバレンティンの取説 」なんていうハッシュタグもできました。
ソフトバンクファンの皆様は、我々ヤクルトファンにお礼を言ってくれる、優しい人たちでした。
ソフトバンクファンの皆様に、ちゃんとかわいがってもらってくださいね。
「ヤクルトの応燕歌がいい」なんて言わないで。ね?
今年の交流戦は、ペペドでしたね。でもそれも、中止になりました。
ココさんがいない神宮に、私もいません。でもまたいつか、会えるよね。
会いましょう。それまで元気で、野球しててください。
慶三に迷惑かけちゃだめよ。慶三は、元気かな。ふたりで仲良く、野球してください。
オープン戦では、青木やぐっち、雄平とも再会していましたね。久野くんとも。みんなのこと、忘れないでね。私たちのことも、神宮のことも。

小川監督のことも。
ココ。

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