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スポーツ写真に於ける背景ボケの効能と撮影手法について 〜 被写界深度コントロールの理論と実践

どうやったら写真の背景をボカせるか? たまにそういった類の質問を受けます。それらを念頭に置いて、このnoteを書いています。また、この記事は2024年4月3日に行われたJ2リーグ第8節 清水エスパルス vs 徳島ヴォルティスの試合で撮った私の作例を載せています。IAIスタジアム日本平(通称アイスタ)での作例としても参考になれば幸いです。

背景ボケとは

英語で"blur"と言ったり、日本語そのままに"bokeh"とも言われるボケ。写真表現に於ける効能は、

  • 被写体を背景から浮き上がらせる

  • 主題を強調すると同時に、構図内の情報量を整理する

  • 主題へ視線誘導する

その手法は、

  • 被写界深度を浅くする(レンズの絞りを開ける = F値をより小さくする)

  • 構図の取り方(被写体と背景の距離をしっかり取る)

  • レンズの望遠端を使う(焦点距離が長いほどボケやすい)

この3点に集約されるかと思う。基本的に、センサーサイズやレンズ口径が大きいほど、ボケやすく、ボケ感が強くなる。一方、手持ちの機材がAPS-Cやマイクロフォーサーズ規格のカメラだったり、F5.6やF6.3始まりの望遠レンズでも、工夫すれば十分ボケ感を得られます。尚、被写界深度が重要なパラメーターになるので、絞り優先モードまたはマニュアルモードでの撮影になります。動体を捉えるスポーツ写真の場合、露出設定(シャッター速度)も死活的に重要なため、絞りと露出を同時に設定できるマニュアルモードが望ましい。

具体的には、以下のHPが詳しいので、併せて参照ください。

作例

ここから作例を載せながら、ワンポイントを記していきます。撮影設定はマニュアルモードで、F4 + 1/2000秒に固定、ISOだけオート設定でした。

児玉駿斗 選手

構図上、被写体である児玉選手を手前に捉え、奥行きをしっかり取ったうえで、ガチピンを当ててやる。そうすると、背景(この場合は、アイスタのバックスタンド)はトロトロにボケてくれる。この日は激しい雨が降ったため、観客のほぼすべてがオレンジのポンチョを着用していたので、こうした幻想的な背景ボケを得ることができた。もうひとつの効果は、観客のプライバシー保護。輪郭が完全に消えることで、個人を特定できるような絵柄にはならない。これも重要な絵作りのポイント。

石尾崚雅 選手

トップスピードでプレスバックしてくる石尾選手を捉えたカット。浅い被写界深度のなかで崚雅だけにAFを合わせることで、主題を背景から浮き上がらせた。構図に入っている主審と永木選手は後ボケとして背景の一部になっている。これは主題を強調し、主題へ視線を誘導させるために必要な絵作り。また、1/2000秒という高速シャッターを切っているので、雨粒や飛び散る汗が止まって映り込むことで、心象的なカットになった。手ブレが全くないため、崚雅の輪郭がくっきりと浮かび上がっていること。これが狙いです。

髙田颯也 選手

ベンチメンバーだった髙田選手。ピッチ脇でのアップに向かう途中の姿を捉えたカット。これも背景から完全に切り離すことで、颯也だけにフォーカスできた。注意点は、背景にエスパルス・オレンジのバナーがあること。全体的に暖色系の色味に引っ張られてしまうと、選手の肌が黄色被りしてしまう。肌はできる限り白く描写したいので、暖色と寒色のバランスを取ることが大事。これは色温度をどこに合わせるかという問題で、ホワイトバランスというパラメーター調整になります。

田中颯 選手

これはピッチ脇でアップする田中颯選手を捉えたカット。手前の中野桂太選手は前ボケ、奥のバックスタンドは後ボケとして、構図のなかに取り込んだ。ピントを颯の顔だけに当てることで、こうした絵柄になる。感覚的だが、被写界深度は「面」であることが分かるだろうか。このことを理解すると、写真の絵作りは飛躍的に進歩するでしょう。また、颯とバックスタンドは非常に長い距離があったため、背景は完全にボケている。これも距離感の取り方で、背景ボケの度合いが変わる証左です。

児玉駿斗 選手

再び児玉選手。ここでは望遠の圧縮効果を知って欲しい。DMFとして出場した駿斗のポジションはアンカー。GKのホセもかなり前目に位置取りしている。そこから清水ゴール裏までは50メーター以上の距離がある。これだけの奥行きを取れると、圧縮効果で背景はさらにボケてくれる。結果として、駿斗が完全に背景が切り離され、浮かび上がって見える。望遠端を使い、被写体と背景の距離をしっかり取ることで、この効果が得られます。

エウシーニョ 選手(徳島)
カルリーニョス・ジュニオ 選手(清水)

2020年 と2021々の2シーズン、清水で同僚だったエウソンとカルリ。二人をワンカットで収めることができた。通常、こういう場合は一段か二段絞り込むのだが、ここでは敢えて絞りは不変。結果として、両者にピントを合わせることができた。AF自体はエウソンに当たっています。つまり、被写界深度というのは点であり面であるということ。しかし、アイスタは美しい絵作りができるスタジアム。バックスタンドはエスパルスオレンジで染まり、芝の緑もビビッドに映える色合い。そこに立つ「オレンジ戦士」と「青と緑の戦士」。ここまで色彩に富むスタジアムの場合、彩度とコントラストについても追い込んだ設定にしたいですよね。それはまたいつか別のnoteで。

棚橋尭士 選手

PKを蹴る瞬間の棚橋選手を捉えたカット。背景に映り込む清水の3選手は後ボケとして、前景に映り込む電光掲示板は前ボケとして、構図のなかに配置した。あとは、尭士だけにガチピンと当ててやることで、主題と副題の切り分けができる。シャッターを切る時、構図をどうやって整理するか、被写界深度とピントをどうはめ込むか、この2点に集中する。もっと言えば、前ボケや後ボケをうまく取り込むことができれば、被写体は自然と強調されるというわけ。そうした意味に於いて、どういう背景ボケを作り出すかが、絵作りの重要な要素になる。

一方、これは作品性に特化できるアマチュアならではのポイント。スポンサー広告や企業ロゴをはっきり写し取りたいオフィシャル撮影、コマーシャル撮影だと、まったく違う撮影方法になるだろう。被写界深度が浅すぎると、ピントワークがシビアになるため、高い歩留まりが要求されるプロの世界だと、1段か2段は絞り込んでシャープな絵を量産することが必要になる。「撮れませんでした」は許されない世界なんで。

渡大生 選手

徳島側の2Fスタンドを見上げる渡選手。芝のピッチが完全にボケて、緑色のカーテンのように魅える。これは僕がこだわっている絵作り。光りをうまく取り込みながら、背景ボケ+望遠圧縮効果と組み合わせることで、被写体を際立たせ、心象的なワンカットに仕上げる。ポカスタのバックスタンドで長年、取り組んできた絵作りがパターン化できるようになった。これが正しいかどうかは分からない。プロからすればアマチュアの遊びだと馬鹿にされるかも知れない。ただ、自分なりの表現方法を持ちたいと思い、試行錯誤してきた。

これからどんな絵作りに進化できるのか。ベースにあるのは、徳島のために戦ってくれるアスリートを美しく描き、躍動や感動を撮り伝えたいということ。徳島の人間として、ヴォルティスと写真、この両者に出会えたことは自分の幸せです。いつもご覧頂き、ありがとうございます。

注意

掲載した写真は、特に断りのない限り、すべて私が撮影したものです。目的の如何を問わず、無断使用、二次利用を禁じます。よろしくお願い致します。

The pictures shown here are taken by myself unless otherwise noted. Copyright is revered. No secondary use of the pictures are allowed. Thank you for your understanding.