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バルセロナ北部、岩山モンセラットへ 〜スペイン一人旅日記〜

※この記事は、2019年5月〜6月にかけてスペインを一人旅した際の記録です。

スペイン・バルセロナの中心部から電車に乗って1時間程のところに、モンセラットという山がある。バルセロナ滞在の3日目、私はその地へ日帰りで行ってみることにした。

バルセロナ現地の言葉・カタルーニャ語で「のこぎり山」という名のモンセラット。山の上には修道院があり、スペインの中でもサンティアゴ・デ・ラ・コンポステーラに並ぶキリスト教の聖地と言われているそうだ。

朝早くから電車に乗り、途中で登山鉄道に乗り換える。急な勾配をゴトゴトと電車が進むにつれ、眼下の街がどんどん小さくなっていく。そしてあっという間に、岩がごつごつとそびえ立つ山に囲まれていた。

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随分高いところまで来た。街の建物がミニチュアみたいに小さい。駅にたどり着いたらどんな景色が待っているんだろう。電車が急坂を登る度、胸が高まっていく。

そうして目的地・モンセラットへ到着。駅の改札を出てすぐそこには岩山に囲まれた大広場が見える。目の前には、見たことのない壮大な景色が広がっていた。

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ゴツゴツと出っぱった岩が、今にも落ちてきそうだ。その岩山の中腹に、修道院や博物館、ホテルがある。標高700m〜800mとそれほど高くはないが、バルセロナ市内より少し肌寒く、空気が澄んでいてとても心地よい。

この地に位置するサンタ・マリア・モンセラット修道院は、カタルーニャ地方のカトリックの聖地として知られている。

その理由の1つ目は、19世紀のスペイン独立戦争の時のこと。ナポレオンがスペインに侵略してきた際、地元の民兵がこの修道院に立てこもり最後まで抵抗した場所として知られているからだそうだ。

2つ目は、フランコ政権当時、自宅以外で話すことが禁止されていたカタルーニャ語を使い続け、ミサを行っていたこと。

そして3つ目は、「黒いマリア様」と呼ばれる黒色の聖母マリア像が祭られていること。右手に持った球に触れると願いが叶うと言われているそうで、そのマリア様に触れるため、長蛇の列ができるそうだ。

(詳細はこちら。公式サイトはスペイン語と英語しかないのですが、写真だけでもマリア様の様子が伝わってきます)

また、この修道院にはヨーロッパ最古と言われている少年聖歌隊があり、一日に2回、ミサの後にその歌声が披露される。

今回の訪問の目的は、その少年聖歌隊の歌声を聞きたいということが一番だった。

今はもう音楽には全く携わっていないけれど、私自身、幼少期は街の少年合唱団に所属し、高校では合唱部に入部し音楽一色の青春時代を過ごした。

音楽の道はなかなか厳しいものだった。特に高校の合唱部は大変なスパルタ部活動で、卒業時にはもう合唱はコリゴリ、というところまで来てしまい今に至る。

それからというもの、歌ったり楽器を演奏したりする意欲は無くなってしまったけれど、歴史ある本場の少年聖歌隊の歌声を、必ずや生で聴いてみたい。そんなことから、このモンセラットの地の訪問を決めたのだった。

ミサは午前11時から始まる予定だった。その1時間前に無事に到着し、大聖堂の中へ入ってみる。すると、中は観光客でごった返し、誰もが美しい大聖堂をカメラに収めるべく、シャッター音が鳴り響いていた。椅子もほぼ人で埋まっていたが、どうにか一人で座れそうな場所を確保し座ることができた。

山の中に、こんなに美しい教会があるなんて。その大きさと美しさに飲み込まれてしまいそうだった。

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大聖堂の中の様子。写真真ん中の窓のような大きな部分に黒いマリア様が祭られている。その右下にイエス像がある。珍しい教会の造りだ。

私も写真を撮って、しばらく大聖堂の中をじっと鑑賞する。そうこうしている間にミサが始まった。神父さんが現れ、しーっ!静かに!と聴衆に向かって合図する。私はキリスト教信者ではないのとカタルーニャ語が分からないため神父さんが一体何を話しているのか理解できなかったが、大切な宗教のお祈りに耳を傾ける。

そして、しばらくすると10名ほどの少年聖歌隊が現れた。声変わりをする前の年齢の少年たちの合唱が始まり、大きな大聖堂全体に美しい歌声が響き渡る。まるで声が天井から降ってきているかのようで、建物全体が柔らかく包まれていくのを感じた。

ミサの終了後、少年聖歌隊の歌声の美しさと大聖堂の荘厳な雰囲気に飲み込まれ、しばらく動くことができなかった。地元の方々が数百年もこの地を守ってこられたのだと、時の長さに思いを馳せる。

そうだ、この地に安全に来られたのだから、その感謝を伝えるためにもやっぱり黒いマリア様にご挨拶しないと。気持ちを改め、大聖堂の外へ出る。

すると、広場にはマリア様の像に会う人々で長蛇の列ができ上がっていた。文字通りディズニーランドのような長蛇の列だったが、ためらわずに並ぶことにした。

ゆっくりゆっくりと列が進むにつれ、大聖堂に近づき、いつの間にか大聖堂の中へと入っていく。しばらく進むと、大聖堂の右側にマリア様の像に続く長い廊下が見えた。その先へ一歩踏みしめるごとに幅が狭くなり、灯りが暗くなっていく。空気もピンと張り詰めていく気がする。その感覚から、今私はとても大切な場所へ足を進めているのだと実感がわいてきた。

そして幾つか階段を登り、ようやく黒いマリア様の像までたどり着くことができた。触ると願いが叶うと言われている、マリア様が右手に持つ球にそっと触れる。ここまで来れたことへの感謝の気持ちを唱えた。

黒いマリア様が佇むその姿とその空気から、この地でいかにこの像が大切にされているかを感じた。純粋に、今ここに来れたことがありがたかった。

この時点で並び始めてから1時間30分は経っていたが、そんな時間は気にならないくらい、嬉しかった。

そしてマリア様にお目にかかれた後は、その余韻に浸りつつ大聖堂の広場を散策した。

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広場には、至るところにオブジェやその説明書きが並んでいた。でも、ここはカタルーニャ地方。スペイン公用語のスペイン語ではなくカタルーニャ語で書かれているため、理解するのがなかなか難しかった。

もっとキリスト教に関する知識を持ち合わせていれば、オブジェの意味することや、教会の造りをもっと理解できたろうにな、と少し反省。

そして教会の敷地内を散策した後は、隣接しているホテルのレストランで昼食を取ることにした。レストランはまるで洞窟の中にいるかのような雰囲気で、テーブルも広くゆったりと食事をすることができた。

岩山の中腹にそびえ立つ修道院、モンセラット。バルセロナ市内からのアクセスも良く、修道院や博物館、ホテル、食堂など施設も充実していて想像以上に便利で快適な旅になった。

この地を訪れたことに感謝し、またバルセロナへと戻ったのでした。



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