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今に続くあの日〜スペイン一人旅日記 コルドバ編その2〜

※このnoteは、2019年5月〜6月にかけてのスペイン一人旅の記録を振り返りつつ綴った旅日記です。

コルドバ滞在2日目は、暑くて長い一日だった。そして、あの日の出来事が今に続いている、そんな日でもある。

この日は朝からヴィアナ宮殿というお庭が有名なお屋敷を訪れることにした。

グラナダといえば、アンダルシア式のお庭に咲いた美しい花々が有名だ。5月上旬にそんなお庭を見学できるパティオ祭りもあるが、わたしが滞在したのは5月末だったので、その時期には間に合わなかった。その代わりに何かパティオを見学できる場所がないかと探した結果、ヴィアナ宮殿という貴族のお屋敷があるということを知り、早速朝から行ってみることにした。

ホテルから市バスに乗り、宮殿へと向かう。この宮殿は12ものお庭があり、どのお庭も丁寧に手入れされ、植物は生き生きと育ち本当に素晴らしかった。

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お庭の真ん中に立派なヤシの木が。葉っぱが美しくて、まるで計算されているかのよう。

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ちょっと待って。これ、わたしが思い描いていたコルドバのイメージ!胸キュンでした。

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美しい花々が見事に咲き誇り、まさにオアシスでした。

ヴィアナ宮殿を訪れた後は、メスキータの方面に歩いて戻り、ローマ橋と呼ばれるコルドバの観光名所の一つを訪れた。

この日は、とても暑かった。

ヴィアナ宮殿からローマ橋までは随分と歩いたが、正直、アンダルシア地方の日差しをなめていた。日本に比べると湿気は少ないものの、強い日差しが体力を奪っていく。

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やっとローマ橋につき歩き始めたものの、橋には影一つない。しかも橋は約330メートルと、思った以上に長かった。

橋を渡って向こう岸に着き、少し写真を撮って再び橋を渡って帰ろうとする頃には、お腹も空いてへとへとになっていた。

へろへろになりながら橋の半ばまで歩いた頃だっただろうか。ふと、肩からさげていたショルダーバッグが一瞬、すん、と重くなった気がした。

なぬ!?と我に返って振り返ると、わたしの真後ろに、日傘をさした長い黒髪の小柄な女性が歩いている。そして、彼女の日傘を持つ腕とは反対の腕が、わたしのショルダーバッグに伸びているのが見て取れた。

その一瞬で、わたしは自分の身に何が起きたのを察した。それから数秒もしないうちに反射的にバッッ!!とショルダーバッグを掴み自分の前に抱え、もう一度振り返ってその女の人を見た。彼女は不機嫌そうな顔でわたしを見つめ、「ノン!」(と聞こえた)と一言つぶやいたと思えば、足早に、またたく間に姿を消した。

…まさか、今のって、これが、スリ…!?

普段なら、ショルダーバッグは必ず自分の前に身につけていたのに、こんな時に限って、後ろ側に持ち歩いていた。毎日、移動の際は神経を研ぎ澄ませていたのに。暑さで朦朧とし、油断した一瞬のうちに起きた出来事だった。

その場で立ち止まり、急いでバッグの中を確認する。幸い貴重品はバッグの奥底に入れていたので取られていなかった。バッグ自体もチャックで閉じるタイプのもので、外ポケットには何も入れていなかったので無傷だった。

それを確認した瞬間、どっと一気に全身から力が抜けていった。

と同時に、貴重品を取られる可能性も充分にあったのだと思うと怖くて身体が震えてきた。狙われていた、その事実がショックで、太陽が照りつける橋を半ば放心状態で渡った。

橋を渡りきった後、日陰を見つけ、急いで友人にLINEでスリ未遂に遭ったとメッセージを送った。友人はすぐに返事を返してくれて、「怖かったよ、、」と気持ちを吐露するとちょっと落ち着きを取り戻した。

貴重品を取られなかったのが幸い、自分は本当にラッキーだった…と心の中で感謝の気持ちを唱えた。

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この日は快晴でとても暑く、橋の石畳の照り返しも強かった。トホホ…

落ち着いて我に返ったら、ぐーとお腹が空いてきたので気持ちを切り替えて昼食を取ることにした。

ランチはふと見つけたレストランで、サルモレホとコルドバの名物、揚げたなすに甘い蜜のかかったものを頼んでみた。

サルモレホはコルドバ生まれのガスパチョのようなとろっとした冷たいトマトスープで、ゆで卵と生ハムが乗っているのが特徴だそう。器まで冷たいスープは、暑くて疲れた身体に染み渡る美味しさだった。トロリと揚がったナスも、甘い蜜との相性が意外に美味しく、新しい味を知ることができた。

ランチの後は、お腹がいっぱいだったので歴史地区をたくさん歩いて散策することにした。気になるところがあれば写真を撮ったり建物を観察してみたり、特に目的地も決めずあてもなくふらりと歩いていた。

そして、何気なく通ったとても細い道で、何だか妙に惹かれる場所を見つけた。ティーハウスのような、日本語だと喫茶店になるのだろうか。外に掛けられたメニューがアンダルシアの柱や窓でよく見かける形で縁取られていて、それがとてもおしゃれだな、と思った。

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建物の中に吸い込まれるように入ってみると、中はけっこう薄暗い。目を凝らしてよく見ると、そこはアラビアンな雰囲気が漂う、落ち着いた雰囲気のティーハウスだった。

ただ、店内はお客さんでいっぱいだった。それに今はお腹がいっぱいでお茶をするにはちょっと早い。でも、これは何だかとっても気になる。また少し街を散策してから、後で来よう。そう決めて、わたしはお店を出ることにした。

それからあっという間に3時間くらいは経っただろうか。思った以上に街をぶらぶらしたせいで遅くなってしまった。先程のお店にたどり着くと、お店はがらりと空いていて、わたしを入れて2、3組程しかお客さんがいなかった。

奥の方の、お店全体が見渡せるテーブルに壁を背にして座る。お店の中は薄暗く、冷房が効いていてとても快適だった。

ちょうど夕食の時間になりつつあったので、まずは冷たいフルーツティーを、軽食にトルティーヤ(スペイン風オムレツ)を頼んだ。紅茶の種類は数十種類ほどあり、食事も軽食も甘いものもあって、雰囲気・メニュー・お味、全てが好みのお店だった。

キリリと冷えたフルーツティーは優しい甘さで疲れを癒やしてくれる。たくさん歩いてちょっと怖い思いもした日だったけれど、このお店も見つけることができたし、本当によかったよかった…

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これまでの人生の29年間。あの時あの場所で、あの出会いがなかったら今のわたしはいないだろう、そう振り返る場面がいくつかある。

あのティーハウスを訪れたのも、そんないくつかのうちの一つだ。

わたしは今、このティーハウスで出会ったパートナーと一緒に日本で暮らしている。そう話すととてもCrazyに思われるかもしれないし、そんな話ってあるのか、と思われるかもしれない。

それが怖くなり、このことをnoteに書くべきかどうかとても迷ってしまい、しばらく旅日記が書けないでいた。

でも、わたしは今毎日がとても幸せで、毎日毎日、あの日のことを感謝している。そんな日常のちょっとした幸せをこれからも大切にしたいし、それを文章として紡いでいけたらどんなに幸せだろうか、そんな気持ちが少しずつ心の中から溢れていった。

スペインを旅していた時も、色んなことを経験し、毎日が幸せで楽しかった。そんな人生の一瞬一瞬を自分の言葉で残していけたら、わたしはもっと幸せだ。やっぱりわたしはそう思う。

そう決心し、彼にもnoteを書いていることを打ち明けることができ、旅の日記を再スタートしました。

コルドバ滞在はまだまだスペイン旅の前半。これからも、スペイン旅の続きから日々のことまで、noteを続けていきたいと思います。



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