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琥白の記録書④

前回⇢③

2月19日 水曜日 天気:晴れ

もう、花粉が飛びはじめているみたい。クラスの花粉症の人が嘆いているのが聞こえた。段々と春になってきているんだな。
今日は、初めて千暁さんと2人で話をした。

「あれ、千暁さん。どうしたの? 」

廊下に立っている千暁さんに声をかけた。既に空は茜色に染まっている。

「琥白さん。追試を受けてる友人を待ってるんだけど…なかなか出てこなくて」

そっか、今日の放課後だったっけ小テストの追試。氷知から「先に帰ってて」って言われたのはこれか。

「琥白さんこそ、何でこんな時間まで残ってんだ? 」

「委員会の仕事が少し残っててね。折角だし氷知を待とうかな」

そう言うと彼は、もうすぐ暗くなるしな と微笑んだ。私のことを心配してくれてるんだな。優しい。

「そうだ。この前の遊園地の件、椛織ちゃんも行きたいって。今日の夜にでもグループ作っておくね」

「本当か!? 」

耳をほんのり赤くしながら、食いつく千暁さん。良かったね。

「日にちとか時間も決めないとね」

軽く返事をしながら視線を逸らす。何か遊園地で進展があれば良いけど…私たちがこれ以上踏み込んでもね。あとは千暁さん次第かな。

そんなことを考えていると、教室の扉が音を立てた。数人の生徒が出てくる。

「あれ、琥白…なんでここに? 」

生徒に混じって出てきた氷知が目を丸くした。

「委員会の仕事が長引いたから、千暁さんと話をしてたんだ」

「じゃあ、俺はここで。また明日な」

1人の男子生徒を連れて、千暁さんが手を振る。そっと振り返すと、氷知が言った。

「一緒に帰ろう」

「うん! 」

千暁さんと話したことはあるけど、1対1で話したのは初めてだったな。やっぱりお兄ちゃん気質の良い人だ。もし、私に兄ができるなら千暁さんみたいな人がいいな。じゃあ、今日はここまで。

2月26日 水曜日 天気:曇りのち晴れ

少しずつ暖かくなってきた。今年も梅や桜を見るのがたのしみだ。…まだ気が早いかな。
今日はなんだか、懐かしい夢を見た。

これは夢の中。何となくだけど、そう認識できた。中学校の校舎、すっかり葉桜になった桜の木。多分、中学1年生の頃の記憶。

この頃、氷知が急によそよそしくなった。何か悩みでもあるのかと、本人に聞いてみたりしたけど、曖昧な返事で。でも、その理由はすぐに分かった。

目の前にいる学ラン姿の氷知は、すごく真剣でまっすぐ、私を見ている。

「俺…琥白が好きだ。だから、恋人になってほしい」

直球、ストレートな言葉が彼らしい。記憶だと分かっているのに、脈が速くなる。当時は困惑したな。だって、ずっと"幼馴染"だったから。

「返事は今度でもいい。だから、考えてほしい」

そう言い、去っていった。この日の夜は眠れなかったな。ずっと心臓の音が全身に響いていたから。多分、それが返事なんだろうと次の日、彼の家に行った。

そこで目が覚めたんだよね。懐かしいな。私たちも高校生だ、時間の流れは速い。氷知も言うように、あっという間に大人になって、そのうち結婚するのかな。

千暁さんの片思いを近くで見てるから、こんな夢を見たんだろうな。昔の思い出に浸るのもいいけど、来週はついに遊園地に行くんだ。そっちも楽しまないと。じゃあ、今日はここまで。

琥白の記録書④終わり

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