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地域の自主性及び自立を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案(第14次地方分権一括法)✨R6.4.4



昨年もこの法律を調査した。初めての法案調査案件だったため、言葉のひとつひとつを理解するところから、だった。

 今回も、あらためて地方分権改革の大きな流れの中でどのように位置づけられているかを、適宜概略しながら解説する。

地方分権改革史と本法律の位置づけ

 地方分権改革とは一言でいうと、法律で定められた事務を執行する権限と、そのための財源を、政府から地方自治体に譲って任せる(権限移譲、財源移譲)ことにより、地方自治体が(主体的に)事業を行えるようにすることにより、地方自治が促進されることを目的とする改革である、と理解している。
 本法律が、地方分権改革の歴史上どのような位置づけにあるのかを理解するために、まず地方分権改革史を概観する。

地方分権改革史の概要

1989年(竹下内閣)頃から始まった行革に関する議論が発端となり、
1993(H5)年(細川内閣)地方分権の推進に関する決議 から地方分権改革がスタートした。
 
地方分権改革史(平成5~令和4)の図(内閣府HP)で表されるように
地方分権改革は大きく2段階(第1次、第2次)にカテゴライズされている。

(参照) 地方分権改革・提案募集方式ハンドブック(令和5年版) 「第4章 これまでの地方分権改革・提案募集方式について」より

第一次地方分権改革(H8~H17)


 
H8(橋本内閣)年 地方分権推進委員会 が第1次~第5次勧告、地方分権一括法(H11~)、市町村合併などを進める中で、最も成果といえるのは機関委任事務の廃止だ。

機関委任事務の廃止
国の直接執行事務とされたもの及び事務自体が廃止されたものを除いて、自治事務法定受託事務という新たな事務区分に整理されました。

地方六団体 地方分権改革推進本部 HPより

 これにより、地方公共団体においては、法令に反しない限り独自の条例の制定が可能となるなど自己決定権が拡充し、地域の事情や住民のニーズを反映させた自主的な行政運営を行うことができるようになった。

 そして、さらに三位一体の改革 によってさらなる地方の自立を目指した。
(会議体が、地方分権推進委員会 ➡ 地方分権改革推進会議 にバージョンアップされた)
三位一体の三位、とは 
 国庫補助負担金
 地方交付税
 税源移譲

の3つを含めての税源配分の在り方を見直す、というものである。
  この改革の目的について以下のような記述がある。

当会議(※地方分権改革推進会議)としては、三位一体の改革により、地方の歳出、歳入両面での国によ る関与を縮減し、住民が行政サービスの受益と負担の関係を選択することが可 能となるような地方財政制度の構築を実現すべきであると考える。 このためには、事務・事業の在り方の見直しによる国と地方の役割分担の適 正化に応じた税財源配分の在り方と、国の財源保障の在り方をともに見直すこ とにより、地方公共団体における受益と負担の関係の明確化を目指すとともに、 地方歳出と地方税収の乖離をできる限り縮小することが必要である。同時に、 国と地方公共団体それぞれの財政責任を明確にすることにより、国・地方双方 の財政の持続可能性を高めるべきである。

三位一体の改革についての意見 平成15年6月6日(太字は筆者による)

 上記太字の部分は、地方分権の主旨として真っ当な考えだと思う。

第二次地方分権改革(H18~現在)

 政府から地方へ対する規制緩和(義務付け、枠づけの見直し)や、政府から地方、また、広域自治体(道府県)から基礎自治体(市町村)へと、権限移譲、財源移譲をすすめる改革である。

本法律の位置づけ

一括法

 「一括法」という言葉は、第一次地方分権改革時代のH11年地方分権一括法が初出である。複数の省庁が所管する法律をひとまとめにしていることから「一括法」と呼ばれる。
 第二次地方分権改革時代には、H23年に初めて本法律「地域の自主性及び自立を高めるための改革の推進を図るための関係法律の整備に関する法律案」が制定され、”第1次一括法”と略称された。これが毎年更新され、第213回国会提出の第14次一括法改正案となった。
 H26(2014)年からは、移譲事務や規制緩和の取組が提案募集方式となった。毎年1月~4月が申請期間に内閣府が窓口となり、緩めてほしい規制などの要望を地方自治体がまとめ、これを申請し、関係する各省庁で可否を検討する。この方式が採用されて初めての法改正は、第5次一括法だった。

法改正は生かされたのか(事後評価の状況)


 昨年、第13次一括法により改正された7法律の一つを取り上げる。

1 罹災証明書の交付に必要な被害認定調査において固定資産課税台帳等の利用を可能とする。(災害対策基本法)
  いままでは、住居に災害被害の認定に、住居の図面などの情報が必要で、それは固定資産課税台帳を見なければならなかった。しかしその台帳が秘密情報扱いだったため、罹災証明に時間がかかっていたのが、今回の法律改正により台帳が利用できるようになるのでスピードアップされる。

 まさに今年、令和6年1月1日に発生した能登半島大震災ではこの規制緩和された法律が適用されたはずである。実際どうであったのか、石川県の罹災証明書申請PDFをみてみたが、申請する県民には固定資産税を意識する必要がない。行政内部で事務処理上スピードアップに効果があったかどうかを調査する必要がある。
 一括法のその後については「制度改正の活用状況調査」が実施されてはいるようだが、この資料によれば令和5年に新規調査対象になっている調査項目はH元年~30年の事案である。また、必ずしもこの調査を行うかどうかは分からない(内閣府・地方分権室担当者による)とのことであった。

第14次一括法によりどう変わるのか。8事項の説明

 改正された法律は8事項(9法律)あり、所管省庁が複数に及ぶため、関係省庁別の章立てとなっている。

 第一章 内閣府関係(第一条・第二条)
 第二章 文部科学省関係(第三条・第四条)
 第三章 厚生労働省関係(第五条)
 第四章 農林水産省関係(第六条)
 第五章 国土交通省関係(第七条―第九条)

法律案及び理由 P1

①里帰り出産等における情報連携の仕組みの構築(母子保健法)


  (現)里帰り先の居住地では、妊婦の居住していた市町村と健康診査等の情報共有の仕組みが無く、里帰り先での妊産婦の相談対応が困難だった。
 ➡(新)オンラインで情報共有が可能になり、里帰り先での相談が可能になる。
   ※この業務は、社会保険診療報酬支払基金または国民健康保険団体連合会に委託される。
         
 

②幼稚園教諭免許状・保育士資格のいずれか一方のみで幼保連携型認定こども園の保育共有等となることができる特例の期限の延長(就学前の子供に関する教育、保育などの総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律、教職員免許法)


  (現)幼保連携型認定こども園で勤務する保育教諭は、幼稚園教諭免許と保育士資格の両方が必要であるが、特例としてどちらか一方の免許・資格をもち、単位取得で片方の免許を取得できる。この特例は令和6年度末まで。
 ➡(新)特例を5年延長し、人手不足の解消、資格取得の計画的取り組みができるようになる。※一部条件あり。

 

公立学校施室整備費国庫負担事業の対象となる事業の実施期間の延長
(義務教育諸学校等の施設費の国庫負担などに関する法律)


 (現)同事業は2か年度以内に完了予定の事業が国庫負担の対象。
 ➡(新)3か年に延長することで、建設業界の週休二日制や令和6年度からの労働時間規制での工事期間延伸に対応でき、地方自治体の財政負担のバランスがとれる。

 ④管理栄養士養成施設卒業者に係る管理栄養士国家試験の受験資格としての栄養士免許取得の不要化(栄養士法)


 (現)管理栄養士受験資格として栄養士免許が必要。
 ➡(新)栄養士免許が不要になるので、受験の負担、都道府県の交付事務の負担が減る。

 

⑤オンラインによる獣医師の届出に係る都道府県経由事務の廃止(獣医師法)

 (現)獣医師は2年ごとに住所氏名勤務先を都道府県経由で農水省に届け出る。紙またはオンライン(令和4年度から)で。
 ➡(新)オンラインであれば直接、農水省に届け出られるので、都道府県の事務負担が減る。

⑥国、都道府県または建築主事を置く市町村の建築物の計画通知に対する審査・検査等に係る指定確認検査機関の活用(建築基準法)

(現)建築に際し、建築主が国/都道府県/特定行政庁建築主事がいる市町村)の場合、審査、検査について、指定確認検査機関※ができず、建築主事しかできなかった。

※指定確認検査機関(していかくにんけんさきかん)とは、建築基準法に基づき、建築確認における確認審査・現場検査等を行う機関として国土交通大臣地方整備局又は都道府県知事から指定された民間企業であり、全国で約130社ある

Wikipediaより引用

(新)指定確認検査機関でもできるようになった。東日本大震災で審査・検査がH26年の3倍に急増したため。

➆宅地建物取引業者名簿などの閲覧制度に係る対象書類の見直し(宅地建物取引業法)

 (現)都道府県は、同名簿や申請書類などを一般閲覧可にする義務があり、令和4年にデジタル臨調のアナログ規制の見直しの方針から、デジタル完結を基本とされたため、紙媒体をPDF化する必要が生じ、都道府県の事務負担が増えた。また、プライバシー情報の対処が課題になっている。
(新)公表する情報を合理化(プライバシーや影響ないものはデータ化から除外)して、都道府県※の事務負担を軽くする。
 
※神奈川県の場合 業者名までは閲覧できる。閲覧のためには事務所まで赴かなくてはならない。紙資料を返却する必要があるようだ

 

⑧生産緑地法に基づく買取申出のあった土地に係る公有地の拡大の推進に関する法律に基づく届出の不要化(公有地の拡大の推進に関する法律=公拡法)


 (現)両法に規定された届出が同じ手続きなので負担。
(新)公拡法の届出が不要になった。

 
以上が8事項である。都道府県の事務負担が減ること、デジタル化により可能となった規制や事務の簡略化などが特徴的ではある。

実現した提案はこの8事項以外にもあり、見送られた提案もある

 法改正が必要だったのが8事項ということで、法改正によらずとも省令の改正や通知などにより提案が実現したものが、令和5年度は155件、できなかったものが21件あった。
  それらの具体的な内容は他の資料、サイトの参照が必要である。
 実現した提案については、重点事項に係る対応結果について(資料2)
   見送りとなった提案については、「令和5年 内閣府と関係府省との間で調整を行う提案についての最終的な調整結果について」 のページで参照できる各省庁に紐づいた各PDFを参照。例えば、内閣府のPDFでいえば、p1の管理番号25(奈良市による、林道の整備に対する地方創生交付金に関する提案)はp3の「対応方針」は” ー ”つまり0回答を示している。省の理由を読んでみたが、できないものはできない、という意味としか理解できなかった(筆者個人の見解)。

地方分権改革のために必要なこととは

 この提案募集方式により、一言でいえば「規制緩和」が実行されていることは事実ではある。しかし、この規制緩和が、本来目指している地方分権改革実現にむけて、どれだけの進捗を実現したのだろうか。
 例えば、本法律案の8事項のひとつ、②幼稚園教諭免許状・保育士資格のいずれか一方のみで幼保連携型認定こども園の保育共有等となることができる特例の期限の延長、について考察してみる。この「特例」そのものをなぜ「通常」としないのだろうか。事実、その特例で運営された結果に効果が認められたから「延長」されているのであり、その特例自体がそもそも不要なのではないか。
 また、保育所(厚生労働省)、幼稚園(文科省)、認定こども園(内閣府)という縦割りを打破するためにこども家庭庁が設立されたはずである。ところが、地方分権改革の一分野である「特別市法制化」は、県から独立し、国と指定都市が直接事務をやりとりする一層制を目指す運動であるが、目指す理由として、保育所と幼稚園では相談窓口が県と市で分かれ、市民の利便性が損なわれていることが挙げられている。認定こども園ではそれが解消されるのか、特別市法制化を推進する川崎市に質問したところ、認定こども園には4パターンあり、幼稚園型、保育園型と区別されるために、窓口が区別される状態は変わらない、という回答であった。これではなんのためにこども家庭庁を設立したのか分からない。
 自治体からの要望により卑近な規制を緩和することは必要ではあるが、それ以上に巨大な省庁が新設され、新たな枠組みが創設されることは膨大な規制を作ることになり、提案募集方式による規制緩和は、砂漠を緑化するために一滴の水を垂らすような行為なのではないだろうか。

 同じような意見を有識者会議で発言している資料があった。

国から地方自治体、都道府県から市町村への権限委譲については一定の進展 を見せている一方、逆に、「現状は地方自治体で個別に実施しているが、本 当は国で一括してやって欲しい」という事案もあると思料する。

2023 年 11 月 15 日 地方分権改革有識者会議(第 56 回)・提案募集検討専門部会(第 161 回) 合同会議の議題に対する意見について 株式会社リコー 代表取締役会長 山下 良則


地方分権改革に本当に必要なこと。それは、細かい権限移譲では追いつかないのではないか。そして、もっと本質的なことは、地方交付税交付金の是非にあるのではないだろうか。

浜田議員の議会質問では、地方交付税交付金が地方分権を阻害しているのではないか、という意見が話された。

地方交付税の計算式のデタラメさや、自主財源だけでは破綻した自治体が地方交付税で生き延びている、という事実をもっと多くの国会議員に知っていただき、地方の自立、活性化を真剣に考えていただきたいと願う。そのために、国会議員だけでなく、心ある国民の理解、普及も欠かせない。

議員だったら質問してみたいこと

①質問であり、要望でもある。令和5年度の法改正で実現した罹災証明発行の際に固定資産税台帳の利用が可能になった規制緩和が、令和6年1月に発生した能登半島地震の被害において、罹災証明発行のスピード化にどの程度の効果があったかの検証は、今後予想される自然災害のためにも重要だと考える。今後、この件に関して事後評価は行われるのか。行うように要望したい。

②今回、特例を「延長」する事項が②と③の二つがある。延長、ではなく恒久的に実施しないのはなぜか。

2023 年 11 月 15 日 地方分権改革有識者会議(第 56 回)・提案募集検討専門部会(第 161 回) 合同会議の議題に対する意見について 株式会社リコー 代表取締役会長 山下 良氏の発言は大変重要だと考える。自治体からの規制緩和の提案を受けるだけではなく、国として大きな枠組みで規制緩和することが大事である。たとえば2対1ルールの導入などが考えられる。政府の見解はいかに。

本法案の調査は以上。

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