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【資料④】BTS Universe Story 花様年華〈I’m FINE〉全文書き起こし-2


前回の記事はこちら

BTS【花様年華】参考資料のまとめはこちら



アプリ版のBUストーリーの全文書き起こし記事、第二弾です。

『BTS Universe Story』の詳細は【資料④BTS Universe Story 全文書き起こし-1】の冒頭を参照してください。





花様年華〈I’m FINE〉

◇前提

『BTS Universe Story』はメンバーの行動を選択しながら【花様年華】=BUの公式ストーリーを鑑賞できるゲームアプリです。全ての選択肢は一度枝分かれをしたのち、再び同じストーリーに合流するため、どの選択肢を選んでも最終的な結末が変わることはありません。

当記事では全ての選択肢を書き起こすため、選択⇒合流までの枝分かれしている内容を【パターン①】【パターン②】と表示し、合流後の最初の一文を重複して記載します。

《補足》
関連作品まとめ記事(BTS【花様年華】⑫~⑰関連作品まとめ-MV他)でもお伝えしておりますが、当noteの時系列整理記事には、このゲーム内のみに登場するエピソードは含まれておりません。①単純に数が多く拾い切れないことと、②当noteでの時系列整理に含む/含まないの判断基準を設けることが難しいためです。

このゲーム内のみに登場するエピソードの多くは物語の本筋には大きな影響のない細かな出来事や設定であり、MVやNOTESにおけるどの世界線での出来事かが明確ではないスピンオフ的な内容です。「そんなことが起きてた世界線もあったのね」とシンプルにゲームの展開をお楽しみください。


■境界上の少年 - ジョングク

【ストーリー案内】
”街を彷徨うジョングク。ソクジンはジョングクの心を開くことができるのだろうか?”

工事現場の屋上から飛び降りようとするジョングクを止めるため、ソクジンはジョングクが追い込まれた理由を探す。

(エピソード数:7)

1.出会い

”夜の街を徘徊して喧嘩に巻き込まれるジョングク。ソクジンはジョングクの気持ちを理解するために彼に会うことにする。”

22年4月11日

ジョングクは毎晩のように不良たちとの喧嘩に
巻き込まれた。

初めは偶然の事故だと思っていたが、数回のループを経て
そうではないことに気付いた。

ガラの悪い男
「おい、どこ見て歩いてんだ!?」

ジョングク
「……」

ガラの悪い男
「何だその目は?」

先に肩をぶつけて喧嘩を吹っかけたのは…
ジョングクの方だった。

ドゴッ!
ドゴッ!ドゴッ!

ジョングクはそうしてしばらく暴行を受けた後
工事現場の屋上から飛び降りた。

到底理解できない行動の数々…

ソクジン
「俺が理解できない問題がジョングクにあるのは確かだ。」

何か手がかりはないかと思って
以前のジョングクの姿を思い浮かべた。

ーーー

校内で時々見かけたジョングクは同級生と
馴染めずに1人だったりどこか元気がない様子だった。

ところが…

テヒョン
「ジョングク、今日ソクジン兄さんがおいしいものを
おごってくれるって!」

ホソク
「何食べたい?とんかつとかどう?」

テヒョン
「何でとんかつなんですか。
ジャージャー麺にしましょうよ。

ジョングク、お前もジャージャー麺だよな?」

ジョングク
「えっと… 僕は…とんかつ…ピザか、
ジャージャー麺ピザで。」

ホソク
「とんかつだと思って期待したのに!」

テヒョン
「ジョングク… 結局ピザがいいってことだな。」

ソクジン
「ピザにしよう。」

ーーー

俺たちといる時はふざけることもあったし
よく馴染んでいた。

だからだろうか。

ジョングクの暗い面を知りながら…
あんな風に自分の命を捨てるとは思いもしなかった。

ソクジン
「一緒にいる時ですら俺は友人たちに対して
何も知らなかったんだ。」

ジョングクを救うにはどうするべきなんだろうか。

根本的な解決方法を見つけたかった。

ソクジン
「とりあえずジョングクが夜の街を徘徊する
理由から調べてみよう。」

1つずつ調べていけば答えが見つかるかもしれない。
本人が「生きたい」と思えるようになる方法を。

ラジオの声
「4月もすでに半分が過ぎましたが、
リスナーの皆さんはどう過ごされましたか?

もうすぐ週末、お出かけするなら…」

校門から出てくる生徒たちの集団。
そこに暗い顔をしたジョングクがいた。

軽くクラクションを鳴らしてジョングクの視線を引き、
車から降りた。

ソクジン
「ジョングク!」

ジョングク
「あれ?ソクジン兄さん!どうしたんですか?」

俺だと分かった途端、ジョングクの顔に喜びが広がった。

ソクジン
「元気だったか?かなり背が伸びたな!」

ジョングク
「韓国にはいつ帰って来たんですか?」

ソクジン
「ちょっと前だ。」

ジョングク
「一時帰国ですか?それとも…」

質問攻めをしてきたジョングクの顔が
少しずつ明るくなっていった。

ジョングク
「ところでどうして学校に来たんですか?」

《選択肢》
①お前に会おうと思ってな。
②近くまで来たから寄ったんだ。

【パターン①:お前に会おうと思ってな。】

ソクジン
「お前に会おうと思ってな。」

ジョングク
「僕のこと待ってたんですか?僕がいつ出てくるかも
分からないのに。」

信じられないといった口調でそう言ったものの、
自分に会いに来たと言われて
ジョングクは内心嬉しそうだった。

ソクジン
「家に帰るのか?」

【パターン②:近くまで来たから寄ったんだ。】

ソクジン

「学校のことを思い出して寄ったんだ。
お前にも会えるかなって思って。

運が良かったな。」

ジョングク
「学校のこと?」

ジョングクが少し驚いたような表情を浮かべた。

ソクジン
「家に帰るのか?」

ソクジン
「家に帰るのか?」

ジョングク
「え?あ、はい。」

ソクジン
「それじゃあ乗れ。送るよ。」

ジョングク
「僕の家まで?」

ソクジン
「車ならすぐだろ。行こう。」

ジョングクを家まで送れば少なくとも今日はあんなこと
できないだろう。

ソクジン
「あの日のことを思い出すよ。」

ジョングク
「いつですか?」

《選択肢》
①始業式の日。
②みんなで一緒に校内の

【パターン①:始業式の日。】

ソクジン

「始業式の日がたぶん、俺たちが初めて会った日だよな?」

ジョングク
「そうですね。初日からみんな遅刻して罰を受けて…」

ーーー

19年3月3日
ソンジュチェイル高等学校始業式

生活指導の教師
「お前ら!初日から遅刻か!?」

ジョングク
「……」

生活指導の教師
「しっかりしろよ!」

ユンギ
「……」

生活指導の教師
「それにあいつは何だ?早く来い!

俺に捕まったのが運の尽きだな。
今月はずっと校内のボランティア活動を…

…あれ?キム・ソクジン?」

ソクジン
「はい。」

生活指導の教師
「お前…
…初日だから今回は大目に見てやる!

授業が終わったらまたここに集合だ。
別館の掃除をしてもらう。

綺麗にできれば今日で終わりだが、
できてなかったら罰を追加する。分かったな!?」

生徒たち
「はい…」

生活指導の教師
「それからお前。ミン・ユンギ。
お前はちゃんとした学校生活を送れ。」

テヒョン
「ふう… あやうく1ヵ月やらされるところだった。」

ホソク
「たかが1回遅刻しただけで校内ボランティア活動まで
させるなんてひどいよな。

この学校は厳しすぎる!」

ーーー

初めて会ったときの話を聞いて
ジョングクの表情が目に見えて明るくなった。

学生だった時の話をしていると、
いつの間にかジョングクの家の前に到着していた。

【パターン②:みんなで一緒に校内の】

ソクジン
「俺たちが遅刻してプレハブ教室の掃除をさせられた日…」

ジョングク
「あ、あの日ですか?」

ーーー

始業式の日に遅刻した罰として
俺たちは校内のボランティア活動をしていた。

ありったけの力を込めてモップをかけていたホソクが
突然座り込んでつらそうな声を上げた。

ホソク
「うう… 腰が…
これくらいでいいんじゃないかな?」

テヒョン
「友達が言ってたんですけど、あの先生ってすごく
細かいらしいですよ。

手袋して窓枠まで指でなぞってチェックするんですって。」

ホソク
「ええ… 想像以上だね。」

ナムジュン
「一度で終わるように頑張りましょう。」

ジョングク
「…別に一度で終わらなくてもいいけど。」

テヒョン
「え、お前って掃除好きだったっけ?」

ジョングク
「いや、そうじゃなくて…」

テヒョンの言葉にユンギが笑い、
ホソクも笑みを浮かべながらいたずらっぽく言った。

ホソク
「兄さんたちと一緒にいると楽しいだろ?」

その日以降、俺たちは約束でもしているかのように
時間ができればその教室に集まった。

ある者はダンスを踊り、またある者はピアノを弾き、
俺たちはそれぞれしたいことをしながら
共に時間を過ごした。

ジミン
「ホソク兄さん!すっごくダンスうまいですね!」

ジョングク
「ユンギ兄さんのピアノもよかったです!」

最も幸せな時間だった。
ただ一緒にいるだけでよかった…

ーーー

思い出にひたっていたジョングクは
しばらく幸せそうな表情を浮かべていたが、

ーーー

???
「おい!こんな所で何してるんだ!」

ーーー

その顔はたちまち歪んだ。

ソクジン
「ジョングク、どうした?大丈夫か?」

ジョングク
「何でもありません。」

学生だった時の話をしていると、
いつの間にかジョングクの家の前に到着していた。

学生だった時の話をしていると、
いつの間にかジョングクの家の前に到着していた。

ジョングク
「兄さん、乗せてくれてありがとうございました。」

ソクジン
「ああ、またな。」

別れの挨拶を交わしたが、
俺は念のためジョングクが家に入るまで
見守ることにした。

ジョングクは一瞬ためらってからベルを押した。

「あら、ジョングク。」

ジョングク
「…ただいま、母さん。」

〈Episode 1. End〉


2.少年の居場所

”ソクジンはジョングクと過ごしたいと願うが、ソクジンにはどうしても外せない大事な先約があった。”

「あら、ジョングク。」

ジョングク
「…ただいま、母さん。」

ジョングクは小さな声で言った。

「…もう帰って来たの?どうしましょう…」

ジョングク
「……」

ジョングクの母はどういうわけか
困ったような反応を見せた。

「お父さんの親戚が突然やって来たから
おうちで食事会をすることになったの。

ジョングク、もう少しどこかで時間をつぶしてくれない?」

ジョングクが答えるのを待たずに
インターフォンが切られた。食事会にジョングクの席は
ないとでも言うかのように…

ジョングクは切られたインターフォンの前で
壁を蹴り続けていた。

ソクジン
「学校にも家にもジョングクが心を開ける
相手はいないのか。

だから毎晩夜の街をうろついているんだろうか?」

ソクジン
「ジョングク。」

ジョングク
「あれ、兄さん。まだ帰ってなかったんですか?」

ソクジン
「どうして入らないんだ?」

ジョングク
「お客さんが来てるらしいんです。だから入りづらくて…」

ジョングクは自分の意思で
家に入らなかったように言い繕った。

だから俺も知らないふりをして再度尋ねた。

ソクジン
「そうか。それじゃあ今からどこ行くんだ?」

ジョングク
「まあ… 僕は大丈夫だから兄さんも早くかえってください。」

今日の夜は重要な集まりがあったし、
ナムジュンも助けに行かなければならなかったが…

ソクジン
「今のジョングクを1人にしておくのはまずいな。

ジョングク、それなら…」

《選択肢》
①俺の家に来ないか?
②どこか行きたい所はないか?

【パターン①:俺の家に来ないか?】

ジョングク

「え?兄さんの家?」

俺は困惑しているジョングクの腕を引っ張った。

ソクジン
「ああ、お前が喜びそうなものもあるぞ。」

ジョングク
「何ですか?」

【パターン②:どこか行きたい所はないか?】

ソクジン

「兄さんと遊びに行こう。どこか行きたい所があれば
言ってくれ。」

ジョングク
「今からですか?」

ソクジン
「いいだろ?今すぐ家に帰らないといけない
わけじゃないんだし。」

俺がそう言うと、ジョングクはしばらく迷ってから
口を開いた。

ジョングク
「それじゃあ… 海に行きたいです。」

ソクジン
「海?」

ジョングク
「はい。兄さんたちと一緒に行ったあの海に。」

一緒に行った海。

ジョングクも俺みたいに
あの日を懐かしんでいるようだった。しかし…

ソクジン
「今晩は約束があるからそんなに遠くには行けないんだ…
ジョングク、あそこは…」

ジョングク
「冗談ですよ。今から行くには遠すぎます。」

俺が困った反応を見せると、ジョングクが先に
意見を取り下げた。

ソクジン
「また今度みんなで行こう。

その代わり、今日は俺の家に来ないか?
お前が喜びそうなものもあるぞ。」

ジョングク
「何ですか?」

ジョングク
「何ですか?」

ソクジン
「後で見せるからとりあえず乗ってくれ。」

ソクジン
「あ、ジョングク!ちょっと待ってくれ!」

俺はジョングクより先に部屋に入り、
壁に貼っていた地図をメモを急いで剥がした。

ソクジン
「入っていいぞ。」

慣れない場所に来て躊躇っているのか、
ジョングクは扉のそばにじっと立っていた。

ジョングク
「わあ… 兄さんの家、素敵ですね。」

俺はジョングクを呼んで箱を指さした。

ソクジン
「ジョングク、これ。」

学生時代に撮った写真だった。

ジョングク
「わあ。」

箱を受け取ったジョングクが写真を見始めた。

ジョングク
「兄さん、電話が鳴ってますよ。」

ーーー

〈通知:午後5時30分 ソンホ財団発足式〉
〈場所:MHセントラルホテル ジェイドルーム〉

ーーー

ソンホ財団は母方の祖父の遺産で運営されている
奨学財団だった。

ソンジュ市の様々な関係者が参加する今日の発足式は
父が俺を正式に紹介する場でもあった。

ジョングクを1人にしておくことができなかったので
とりあえず家に連れてきたが、

発足式に参加しないわけにもいかず、
困難な状況に陥ってしまった。

ソクジン
「発足式が終わってからジョングクを連れて
ネリガソリンスタンドに行くか?

いや、それだと間に合わないかもしれない。」

俺が移動経路を時間について考えていると、
隣にいたジョングクが恐る恐る尋ねてきた。

ジョングク
「兄さん、どうかしたんですか?」

ソクジン
「ジョングク、あのな…」

《選択肢》
①ここで待っててくれないか?
②一緒に行かないか?

【パターン①:ここで待っててくれないか?】

ソクジン

「実は今日大事な集まりがあることを
すっかり忘れてたんだ。
今から行かないといけないんだけど…

もしよければ待っててくれないか?
すぐに帰ってくるから。」

ジョングク
「ここに1人で?いいんですか?」

【パターン②:一緒に行かないか?】

ソクジン

「実は今日大事な集まりがあることを
すっかり忘れてたんだ。
今から行かないといけないんだけど…

一緒に行かないか?すぐに終わると思うから。」

ジョングク
「いえ、僕は家に帰ります。」

ソクジン
「いや、一緒に行くのが気まずかったらここで
待っててもいいし。

すぐに帰ってくるから。」

ジョングク
「ここに1人で?いいんですか?」

ジョングク
「ここに1人で?いいんですか?」

ソクジン
「大丈夫だ。どうせ誰もいないし。」

ーーー

〈着信:ジュノおじさん〉

ーーー

タイミング良く電話をかけてきたのは
父の秘書兼補佐官だった。

俺はその人のことをジュノおじさんと呼んでいた。

ソクジン
「はい、ジュノおじさん。」

「ソクジン、今日発足式があること忘れてないよな?」

ソクジン
「はい、覚えてます。」

「遅れるんじゃないぞ。」

ソクジン
「すぐに出発します。」

「それじゃあまた後でな。」

俺は電話を切ってジョングクに視線を向けた。
ジョングクは頷いて待っているという意思を伝えてきた。

ソンホ財団 発足式

ホテルのロビーは大勢の人で賑わっていた。
辺りを見渡してみると、見知った顔が大勢いた。

ソクジン
「父の隣を10年以上守っているジュノおじさん。
あの人はソンジュ市の副市長…」

あの人はヨンジン建設の社長、
あの人はムニョン大学の教授…

それにチェイル高校の校長も。

ソクジン
「校長とはあまり顔を合わせたくなかったのに…」

ソ・ヒョンジョン
「こんばんは。」

校長
「おお、これはこれは。ご無沙汰しております。」

居心地が悪かったが、
父のそばにいなければならなかったので
校長との再会は避けられなかった。

ソ・ヒョンジョン
「議員!奨学財団の発足おめでとうございます。」

キム・チャンジュン
「ご臨席いただきありがとうございます。」

ソ・ヒョンジョン
「ご子息がムニョン大学に入学なさったとか。
母校に入られてさぞ嬉しいことでしょう。」

キム・チャンジュン
「まだまだです。」

ソ・ヒョンジョン
「ご謙遜を。ソクジン君が立派に育ったことは
みんな知っていますよ。

ソクジン君、今後の進路はどう考えているのかしら?」

ソクジン
「進路?俺は…」

《選択肢》
①まだ決まってないんだけど…
②立派な人間になりたい。
③父のような人間にならないと。

【パターン①:まだ決まってないんだけど…】

ソクジン

「えっと… 進路は…」

予想外の質問を受けたため、咄嗟にそれらしい答えが
思い浮かばなかった。

ソクジン
「俺はそれを決められるんだろうか?

まだ考え中です。」

キム・チャンジュン
「ふむ…」

ソ・ヒョンジョン
「あら、突然ごめんなさいね。困惑させてしまったかしら。」

他の参加者は笑っていたが、父の表情は強張っていた。

ソ・ヒョンジョン
「議員。1つご提案してもよろしいですか?」

【パターン②:立派な人間になりたい。】

ソクジン

「進路とは言えないかもしれませんが、
立派な人間になりたいと思っています。」

子供の頃から父に言われ続けていた「立派な人間」…

ソ・ヒョンジョン
「立派な人間… 素晴らしいですね。」

他の参加者は笑っていたが、父の表情は強張っていた。

ソ・ヒョンジョン
「議員。1つご提案してもよろしいですか?」

【パターン③:父のような人間にならないと。】

俺は父の機嫌を損ねないような返答をすることにした。

ソクジン
「僕は父のような人間になりたいと思っています。」

ソ・ヒョンジョン
「あら!議員、さぞ嬉しいことでしょう。」

俺の答えが気に入ったのか、父の口元が緩んだ。

ソ・ヒョンジョン
「議員。1つご提案してもよろしいですか?」

ソ・ヒョンジョン
「議員。1つご提案してもよろしいですか?」

キム・チャンジュン
「もちろんです、副市長。」

ソ・ヒョンジョン
「地域社会の発展のために話し合う場を定期的に
持つのはいかがでしょうか?」

チョ・ジンミョン
「おお、素晴らしいアイデアです。」

ソ・ヒョンジョン
「地域の著名人をお呼びして講演をお願いするのも
いいでしょうし。」

キム・チャンジュン
「話を進めてみます。ソン補佐官、頼んだ。」

ソン・ジュノ
「かしこまりました。」

司会者
「以上でソンホ財団の発足式を終了いたします。」

発足式が終わり、参加者たちは食事場所への
移動を開始した。

ソクジン
「父さんには怒られるかもしれないけど、
そろそろネリガソリンスタンドに
行かないといけない時間だ。」

その上、ジョングクが家で待っていると考えると
焦りが強くなった。

何人もの人たちに囲まれている父の代わりに、
俺はジュノおじさんの方へ歩を向けた。

ソクジン
「おじさん、僕先に帰りますね。」

ソン・ジュノ
「もう帰るのか?食事は?」

ソクジン
「実はグループ課題があるんです。」

ソン・ジュノ
「分かった。お父さんに挨拶してから帰りなさい。」

ソクジン
「父さんは忙しそうなので…」

ジュノおじさんは俺の言葉を聞いて父の方を一瞥し、
やがて頷いた。

ソン・ジュノ
「分かった。私が伝えておこう。」

俺は会場を後にし、ナムジュンがいるガソリンスタンドに
向かった。

〈Episode 2. End〉


3.海辺の思い出

”高校時代の思い出話に花を咲かせるソクジンとジョングク。そんな2人の前に意外な人物が現れる。”

兄さんから渡された箱の中に特に目につく写真があった。

ーーー

「海だ~!」

海を見たホソク兄さんと
テヒョン兄さんが歓喜の声を上げて駆け出した。

すると、それを見た他の兄さんたちも負けじと
走り始めた。

ユンギ兄さんはどうして走るんだと注意しながらも、
その口元には笑みが浮かんでいた。

テヒョン
「ジョングク~!」

後ろの方にいた僕を呼びながら、兄さんたちが
手を振っていた。

僕は答えずに手だけを大きく振り返した。

僕は他人にはなかなか感情をさらけ出すことが
できなかったが、
おかしなことに兄さんたちと一緒にいる時だけは
僕も知らない自分の姿を見ることが多かった。

ホソク
「ジョングク!早くおいでよ!」

ユンギ
「行ってこい。」

兄さんたちに呼ばれ、つい駆け出した今のように…

ホソク
「いいな~!胸がドキドキする!」

ナムジュン
「来てよかっただろ?」

テヒョン
「海に入ったらだめですか?」

ナムジュン
「濡れたらどこで乾かすんだ。」

テヒョン
「でもせっかく海まで来たのに…
本当に見るだけでいいんですか?

ジミンはどうだ?」

ジミン
「僕も海に入るのはちょっと…」

テヒョン
「ええ、みんなつまらないな~」

ホソク
「わ!」

テヒョン
「うわ!兄さん、押さないでくださいよ!」

ホソク
「どうして?入りたいんでしょ?」

テヒョン
「兄さ~ん!」

僕は一歩離れた場所でその様子を見つめていた。

ユンギ
「お前は入らないのか?」

ユンギ兄さんが近付いてきて
尋ねたが、僕は首を横に振った。

海もきれいだし兄さんたちも楽しそうだったけど、
なぜかそこに僕の居場所はない気がした。

ホソク
「ここに行きませんか?」

暑さにやられて日陰で休んでいると、
ホソク兄さんが携帯電話を見せて口を開いた。

携帯電話の画面には、海辺に置かれた巨大の岩の
写真が表示されていた。

ホソク
「この岩に上って、海に向かって夢を叫んだら叶うっていう
伝説があるらしいんです。」

ユンギ
「こんな陽射しの中行くのか… 俺はパス。」

ユンギ兄さんが背を向けて拒否を示したが、

テヒョン
「俺は行く!」

やる気あふれるテヒョン兄さんのせいで、
僕たちは陽射しを受けて熱くなった砂浜を踏みしめながら
3.5kmの距離を歩くことになった。

ホソク
「おかしいな。絶対この辺りなんだけど…」

テヒョン
「何もないですよ?」

僕たちが到着した所には何もなかった。

みんなとてもがっかりしたのか、
そのまま座り込んでしまった。

ジョングク
「……」

岩がないという言葉を聞いて元気がなくなったのは
僕も同じだった。

それでも、兄さんたちほどがっかりはしていなかった。
一緒にこの道を歩いてきただけでも十分だった。

僕は兄さんたちの隣に座らず、埠頭の手すりに上った。

いつも手すりの上に乗って歩いたり、
描かれた線を踏んで遊ぶのが好きだった。

バランスを取ることに集中していると
他のことを考えずに済むし、
どこにも属していない境界線が
僕の居場所のような気がしたからだ。

僕が手すりの上をふらふら歩いていると、
誰かが腕を引っ張ってきた。

ユンギ
「……」

ユンギ兄さんだった。

ジョングク
「兄さん、どうかしましたか?」

ユンギ
「やめろ。」

ジョングク
「落ちたりしませんよ…」

ユンギ兄さんは僕が手すりに乗って遊んでいるとよく
腕を引っ張った。

兄さんがそうするのを見て、
他の兄さんたちも注意してくるようになった。

僕はその手が嬉しかった。

そこはお前の居場所じゃないからこっちに来いって
言ってくれてるような気がしたから。

もしかしたら、その手を楽しみに
してたから手すりの上を歩いたのかもしれないという
考えが頭をよぎった。

ーーー

ナムジュンを救って急いで戻ってきたが、
すでに夜が更けていた。

ソクジン
「ジョングク…!」

ジョングクはベッドにもたれかかって眠っており、
その周辺には写真が散在していた。

ソクジン
「思ったより遅くなったな…」

すやすやと眠っているジョングクの
顔を見ると、安堵の気持ちと
申し訳なさが同時にこみ上げてきた。

ソクジン
「ジョングク、ちゃんとベッドで寝ろ。」

ジョングク
「…あれ?兄さんいつ帰ってきたんですか?」

ソクジン
「もっと寝てもいいぞ。」

ジョングク
「いえ、帰らないと。
いま何時ですか?」

ソクジン
「今は… 22時ちょっと過ぎだ。」

キム・チャンジュン
「書斎に来てくれ。」

ソン・ジュノ
「かしこまりました。」

キム・チャンジュン
「ソクジンは帰ってきたか。」

ソン・ジュノ
「帰ってきたはずです。」

キム・チャンジュン
「ソクジンにも来るように伝えてくれ。
あいつも財団の仕事を知っておく必要があるからな。」

ソン・ジュノ
「それが… いま来客がいるようです。」

キム・チャンジュン
「来客?」

ソン・ジュノ
「玄関に知らない靴がありました。」

キム・チャンジュン
「学校の課題があると言っていなかったか?」

ソン・ジュノ
「はい。グループ課題だそうですが…
家でやるものだったようです。」

キム・チャンジュン
「ふむ…
私が行こう。少し待っていてくれ。」

ソン・ジュノ
「…はい。」

俺の部屋がある2階に父が来ることはほとんど
なかったため、
俺は安心してジョングクと話をしていた。

でも…

ソクジン
「あ… 父さん。」

父は床に散在している写真を見つめた。

まずいと思って散らばった写真を一か所に集めていると、
父か口を開いた。

キム・チャンジュン
「こうして時間を無駄にするために
発足式を抜け出したのか?

課題があると嘘までついて。」

俺を責める父の冷たい視線を受けて
息が詰まりそうになった。

父は中途半端な姿勢で立っていたジョングクにゆっくりと
視線を移した。

その瞬間、子供の頃の記憶が蘇ってきた。

ーーー

9年10月10日

9歳の時だった。

俺は大人たちに追われている
友人を俺の部屋にかくまった。

幼い頃のソクジン
「もう大丈夫だよ。俺の部屋には入ってこな…」

俺が言い終える前に、部屋の扉が開いた。

キム・チャンジュン
「君がチェ社長の息子か?出なさい。迎えが来たぞ。」

幼い頃のソクジン
「父さん、やめて。連れて行かないでよ!」

キム・チャンジュン
「ソクジン、立派な子どもになるんだ。」

父の顔は気味が悪いほど無表情で、つい体が強張った。

友人
「ソクジン!」

友人が涙を流しながら俺の名を呼んだが、
俺は何もできなかった。

父は友人を扉の向こうにいた人たちに引き渡し、
そのまま扉を閉めた。

翌日、俺の隣は空席だった。
友人は転校したと聞かされた。

ーーー

ソクジン
「どうしよう… 何て説明すれば…」

俺が躊躇っていると、ジョングクが俺より先に
口を開いた。

ジョングク
「…こ… こんばんは。」

しかし父はジョングクを見ようともせず、
答えを急かすかのように俺の方ばかり見つめていた。

過去の記憶を重なり、俺は息が詰まりそうになった。

ソクジン
「えっと…」

自然にふるまおうとしたが、
あの時のように体は強張るばかりだった。

ジョングクはそんな俺を見て、急いでかばんを持った。

ジョングク
「ちょうど遊びに来ていたんです。
そろそろ帰ろうと思っていたところでした。

兄さん、僕帰りますね。」

ソクジン
「まだ1人にするわけにはいかない…」

ジョングクを追わなければならなかったが、
父の冷たい視線のせいで足が動かなかった。

〈Episode 3. End〉


4.境界線

”またしても4月11日に戻ったソクジンは、再会したジョングクから意外な話を聞かされる。”

ソクジン
「追いかけないと。まだジョングクを1人に
するわけにはいけない。」

父の視線で体中が強張っていたが、
このままじっとしているわけにもいかなかった。

ソクジン
「…動くんだ。
父さん… 僕… 少し出てきます。

ジョングク!」

俺は急いで外に出たが、ジョングクはすでに
いなくなっていた。

ソクジン
「こんなはずじゃ…」

僕はしばらくさまよっていた。ふと足を止めると、いつも
時間をつぶしていた路地に来ていた。

ジョングク
「いつも間にこんな所に…
ふう…」

兄さんの心遣いはありがたかったけど、
やっぱり行くべきではなかった気がする。

ジョングク
「僕のせいで兄さんに迷惑かけちゃったな…」

以前もこんな気分になったことがあった。

ジョングク
「ユンギ兄さんは僕のせいで退学までさせられたし…
どうして僕はいつも周りの人に迷惑をかけるんだろう。

兄さんに連絡を…」

《選択肢》
①ユンギに連絡する。
②ソクジンに連絡する。

【パターン①:ユンギに連絡する。】

ユンギ兄さんに電話しようと思って
携帯電話を持っていた僕はすぐにうなだれた。

ジョングク
「兄さん… 僕の電話に出てくれるかな?
ウザがられたりしないかな?」

数日前に偶然見かけたユンギ兄さんの姿を思い出した。

ーーー

22年4月7日

いつものように夜の街を徘徊していた。
すると、どこからか聞き慣れたピアノの音が流れてきた。

ジョングク
「まさか…」

僕が音の方へ進んでいくと、
ショーウインドウが割れた楽器屋の中でユンギ兄さんが
ピアノを弾いていた。

やがて、演奏を辞めた兄さんは
しばらくその場に座っていた。

やっと立ち上がったかと思うと、
危なっかしい歩き方で店を出ていった。

僕はユンギ兄さんがいたピアノの前に座った。

記憶を探りながらたどたどしい手つきで
ピアノを弾いていると…

いつの間にか兄さんが戻ってきていた。

まるであの教室のように。

ーーー

ジョングク
「ユンギ兄さんは元気かな?」

あの日以来、ユンギ兄さんのことを
時々思い出すようになったが、
兄さんに連絡する勇気は到底出なかった。

ジョングク
「……」

真っ暗な夜空には何も浮かんでいなかった。

【パターン②:ソクジンに連絡する。】

ーーー

〈兄さん、僕のせいで…〉

ーーー

僕がメッセージを作成していると、
ソクジン兄さんから電話がかかってきた。

ジョングク
「もしもし。」

「ジョングク、どこだ?今から行くから!」

ジョングク
「大丈夫ですよ。あと… 今日はありがとうございました。」

「……」

真っ暗な夜空には何も浮かんでいなかった。

真っ暗な夜空には何も浮かんでいなかった。

僕はこれからどこに行けばいいんだろう。

思い付く場所はどこもなかった。いや、これ以上何も
考えたくなかった。

道路の端に立つと、車のヘッドライトの先で
目がくらんだ。

ソクジン
「ジョングク!」

このまま一歩前に進むだけで
全てを終わらせることができる。

ジョングク
「一歩だけ前へ…」

「ジョングク!よせ!」

遠くの方でソクジン兄さんが呼ぶ声が聞こえた。
そして全てが遠ざかっていった。

22年4月11日

ジョングクを最後まで守るべきだった。

父と対面したジョングクは避けるように家を出ていき、
俺が追いかけた時にはすでに…

ジョングクは車の前に飛び出した後だった。

俺はまた友人を救えなかった。9歳のあの日のように。

ソクジン
「…家に連れてくるのはだめだ。
他の方法を考えよう。」

ジョングク
「兄さん、電話が鳴ってますよ。」

ーーー

〈通知:午後5時30分 ソンホ財団発足式〉
〈場所:MHセントラルホテル ジェイドルーム〉

ーーー

ソクジン
「今回は不参加だ。」

ジョングク
「何かあるんじゃないんですか?」

ソクジン
「大丈夫、大したことじゃないさ。
それよりどこに行こう?やりたいこととかないのか?」

ジョングク
「特に…」

ソクジン
「それじゃあ兄さんが通っている学校でも見に行くか?」

ジョングク
「わあ、すごく大きい学校ですね。」

ジョングクは桜が満開の
キャンパスを初めて見るかのように
あちこち見物していた。

ソクジン
「少しは気分も和らいだみたいだけど… 声をかけてみるか?

ジョングク。」

《選択肢》
①学校はどうだ?
②何か悩みはないか?

【パターン①:学校はどうだ?】

ジョングク

「学校?
…楽しいですよ。」

ソクジン
「友達はいっぱいできたか?」

ジョングク
「はい、まあ…」

ジョングクは平然と答えたが、下校時の暗い表情が
気にかかった。

ソクジン
「最近他の奴らには会ってるか?ユンギとかホソクとか…」

【パターン②:何か悩みはないか?】

ジョングク

「悩み?」

ソクジン
「ああ。勉強のこととか友達のこととか…
うまくいってないことはないか?」

ジョングク
「はい、大丈夫です。」

ソクジン
「最近他の奴らには会ってるか?ユンギとかホソクとか…」

ソクジン
「最近他の奴らには会ってるか?ユンギとかホソクとか…」

ジョングク
「兄さんたちですか?」

ソクジン
「うん。みんなどうしてるのか気になってな。」

ジョングク
「ホソク兄さんとテヒョン兄さんはバイトしてます。
他の兄さんたちは… 分からないですね。」

そう答えるジョングクの表情が暗くなったように見えた。
何かまずいことでも聞いたのだろうか。

ソクジン
「どうしてだ?兄さんたちとも連絡しないと。」

ジョングク
「…僕のせいじゃないですか。」

ソクジン
「どういうことだ?」

ジョングク
「ユンギ兄さんが僕のことをかばったからじゃないですか。」

ソクジン
「ジョングク…」

《選択肢》
①お前のせいじゃない。
②そんな風に考えるな。

【パターン①:お前のせいじゃない。】

ジョングク

「いえ、僕のせいです。

僕がいなければユンギ兄さんが
先生に刃向かうこともなかったし…」

ソクジン
「いや、あれは仕方なかったんだよ。」

ジョングク
「それでも謝るべきだった…
ごめんなさいっていう言葉すら伝えられませんでした。」

ソクジン
「…そんなこと考えてたのか。

俺がもう少し気を付けるべきだった。ごめんな。」

【パターン②:そんな風に考えるな。】

ジョングク
「どう考えればいいんですか?僕のせいだったのに。」

ソクジン
「違う…」

悪いのは俺だという勇気は到底なかった。

ジョングク
「ソクジン兄さん?」

ソクジン
「俺がもう少し気を付けるべきだった。ごめんな。」

ソクジン
「俺がもう少し気を付けるべきだった。ごめんな。」

ジョングクには俺の言葉が理解できなかっただろうが、
それ以上何も言わずに笑っていた。

〈Episode 4. End〉


5.それぞれの場所

”ソクジンは何があってもジョングクを守ると決意する。ジョングクもそんなソクジンに心を開き始める。”

20年6月11日

その日は授業参観日だった。

教室にいたくなかった僕は後先考えずに
「あそこ」へ向かった。

プレハブ教室の外でもピアノの音が聞こえてきた。

ジョングク
「ユンギ兄さんだ。」

僕は扉を開けて静かに座った。

ジョングク
「心地いいな。」

僕が入ってきたことに気付いているはずだが、
兄さんはそのまま演奏を続けた。

それはまるで僕がここにいてもいいという
許可のように感じられた。

僕は兄さんのピアノの音が好きだった。

兄さんの演奏を聴いていると
何だか気持ちが穏やかになるから。

そんなはずはなかったが、
ユンギ兄さんが僕の気持ちを知って
慰めてくれているような気がした。

そうしてしばらく聴いていると、
扉が荒々しく開かれ、演奏が止まった。

生活指導の教師
「おい!こんな所で何してるんだ!」

扉の方に目を向けると、怒りを爆発させている生活指導の
教師が中に入ってきた。

生活指導の教師
「お前たち!授業にも出ないで…!」

僕は有無を言わさずに頬を殴られ、
その場に倒れた後からは上から暴言が浴びせられた。

その時だった。

ユンギ兄さんが教師の肩を押して
僕の前に立ちふさがった。

生活指導の教師
「お前、今… 先生に手を出したな?

ミン・ユンギ、覚悟しておけ。」

教師は意味深な言葉を残して教室を出ていった。

ジョングク
「兄さん、僕のせいで…」

ユンギ
「大したことじゃない。」

ジョングク
「……」

兄さんはどうして僕を助けてくれたんだろう。

誰かにかばってもらったのはその時が初めてだった。

その時に見た兄さんの背中は
ずっと忘れられない気がした。

なぜか笑みがこぼれた。
頬が腫れているのか、顔がずきずきと痛んだ。

ユンギ
「どうして笑ってるんだ?」

ジョングク
「分かりません…」

痛みの走る頬に手を当てても僕はずっと笑っていた。

そんな僕を呆れた顔で見ていた兄さんが
やがて笑顔を浮かべた。

ジョングク
「兄さん、授業に戻るんですか?」

兄さんは答えずに僕の隣に座り込んだ。
僕たちはしばらくの間そうして無言で座っていた。

兄さんともっと近くなれた気がして
その日は1日中浮かれていた。

ところが、翌日からユンギ兄さんは学校に来なくなり、

2週間後、退学処分を受けた。

ジョングクはユンギが退学させられたのは
自分のせいだと考えていた。

ソクジン
「そうじゃないのに。」

しかし、俺たちがバラバラになった
本当の理由を話すには、

まだ勇気が足りなかった。

下を向いて歩いていると、ジョングクが俺を呼び止めた。

ジョングク
「わ、兄さん!これ見てください。」

振り返ると、桜の花びらが風になびいていた。

ジョングクはその光景をしばらく見つめていた。

20年9月30日

兄さんたちは知らなかっただろうが、
僕は1日も欠かさずに教室に行っていた。

慣れ慣れなくて居心地が悪かった空間…
そこにいつの間にか当然のように僕の居場所ができて、

僕はそれがとても嬉しくて時間ができるたびに
そこへ向かった。

僕が自然体でいられるのはそこだけだったから。

でもあの日。

教室の扉を開けた時、
そこにいたのはホソク兄さんだけだった。

兄さんは教室に残っていた僕たちの私物を片付けていた。

ホソク
「そろそろ出よう。」

兄さんは僕を見て淡々とそう言った。

その時、僕は悟った。

一緒だった日々は思い出となり、
もう二度と戻ってこないことを。

ジョングクの表情が再び暗くなった。

落ち込んだ気持ちを慰めるため、
俺は海の話をしてみることにした。

ソクジン
「…海に行かないか?前よく行ってたあの海。」

ジョングク
「海…?」

ソクジン
「あの時みたいにみんな一緒に。」

ジョングク
「ユンギ兄さんは行きたいって言いますかね?
それにジミン兄さんが今どうしてるか誰も知らないのに。

本当にあの時みたいにみんなで行けるんですか?」

その時、目の前に巨大な桜の木が現れた。
照明を受けてかすかな光を放つ桜の花が美しかった。

ソクジン
「一緒に写真撮ろうぜ。」

ジョングク
「写真?」

ソクジン
「ああ、記念だ。」

写真の中で俺たちは笑っていた。

ソクジン
「今は2人しかいないけど、いつか全員で笑える日が
来ますように。」

学校の見物を終えた後も、俺はジョングクと一緒にいた。

ジョングク
「兄さん、電話ですよ。」

ソクジン
「大した電話じゃないから気にするな。」

父の秘書、ジュノおじさんから
何度も電話がかかってきたが、俺は出なかった。

俺はジョングクと一緒に時間を過ごした。

ソクジン
「ジョングク、また明日。」

ジョングク
「はい。兄さん、気を付けて。」

22年4月12日

発足式に行かずにジョングクと一緒にいたのは
良い選択のようだった。

ジョングクはその日屋上から飛び降りず、
ナムジュンの事故も無事に阻止した。

それでも心配だったので、俺はあと数日
ジョングクのそばにいることにした。

俺がジョングクを待っていると、

チョ・ジンミョン
「久しぶりだな。キム・ソクジン君。」

聞き慣れた声が俺の耳に入った。

振り返ると、校長が立っていた。

ソクジン
「お久しぶりです。」

チョ・ジンミョン
「ここで会うとは思わなかったな… また会えて嬉しいよ。
ところで、何か用かね…?」

《選択肢》
①ただの通りすがりだと言う。
②学校のことを思い出したので来てみたと言う。

【パターン①:ただの通りすがりだと言う。】

ソクジン

「用事があってたまたま前を通っただけです。」

チョ・ジンミョン
「そうか。また今度学校にも寄っていくといい。
後輩たちに挨拶するのを兼ねてな。」

ソクジン
「はい、分かりました。
それじゃあ僕はこれで…」

【パターン②:学校のことを思い出したので来てみたと言う。】

ソクジン

「学校のことを思い出したので来てみました。」

チョ・ジンミョン
「おお、それは嬉しいね。
先生のことを忘れずに来てくれたのか。」

ソクジン
「やっぱり気まずい…
それじゃあ僕はこれで…」

ソクジン
「それじゃあ僕はこれで…」

チョ・ジンミョン
「ところでキム・ソクジン君。
昨日の発足式の件なんだが。」

ソクジン
「え?」

チョ・ジンミョン
「当然来ると思っていたが来なかったようだな。
何かあったのか?」

思いもよらない質問だった。

チョ・ジンミョン
「なぜ来なかったんだ?」

《選択肢》
①正直に話す。
②言い訳をする。

【パターン①:正直に話す。】

ソクジン

「友人に急用ができたので参加できなかったんです。」

チョ・ジンミョン
「友人?」

その時、ちょうど校門を通り過ぎたジョングクが
おずおずと近付いてきた。

ジョングク
「こんにちは…」

校長はジョングクに向かって
うなずいてから言葉を続けた。

チョ・ジンミョン
「そうか… まあそういうこともあるだろう。
だがなソクジン君。
次からは何が重要か慎重に考えて行動しなさい。

…ではまたな。」

ソクジン
「…はい。」

【パターン②:言い訳をする。】

ソクジン

「他に大事な用があったんです。」

チョ・ジンミョン
「そうなのか?」

その時、ちょうど校門を通り過ぎたジョングクが
おずおずと近付いてきた。

ジョングク
「こんにちは…」

校長はジョングクをまじまじと見つめてうなずいた。

チョ・ジンミョン
「発足式より大事な用か… なるほど。
次はちゃんと会えるといいな。」

ソクジン
「…はい。」

ソクジン
「…はい。」

チョ・ジンミョン
「お父様にもまた連絡した方がよさそうだ。」

校長が意味深な笑みを浮かべた。

ソクジン
「俺がジョングクと会ってたことを話すつもりか?

学生時代も俺たちが一緒にいることを
快く思ってなかったしな。

父さんは役に立たない人間関係なんか必要ないって
考えてるから…」

チョ・ジンミョン
「それでは気を付けて帰りなさい。」

白髪交じりの校長は俺たちの姿が小さくなるまで
しばらく見つめていた。

嫌な予感がした。

〈Episode 5. End〉


6.不安な気持ち

”父からの追及を受けたソクジンは嘘をついてしまう。ジョングクに会いに行った彼にホソクが渡したものは…”

22年4月12日

今日は父の顔とても疲れているように見えた。

身長はほぼ同じになったが、父はいまだに巨大な
灰色の壁のように思えた。

キム・チャンジュン
「昨日、なぜ発足式に来なかった。」

《選択肢》
①正直に話す。
②嘘をつく。

【パターン①:正直に話す。】

ソクジン

「実は…
友人に急用ができたので参加できなかったんです。」

キム・チャンジュン
「友人…?」

ソクジン
「バレてないか…?」

しばらく無言だった父が口を開いた。

【パターン②:嘘をつく。】

ソクジン

「えっと…
学校の教授から急に仕事を頼まれて。」

キム・チャンジュン
「教授ということは… お前の学科の学科長か?」

ソクジン
「…はい。」

キム・チャンジュン
「学科長がお前に仕事を頼んだだと?」

ソクジン
「…はい。
バレてないか…?」

しばらく無言だった父が口を開いた。

しばらく無言だった父が口を開いた。

キム・チャンジュン
「私がお前に望んでいるのは立派な息子になること。
ただそれだけだ。」

ソクジン
「はい。」

キム・チャンジュン
「難しいことではないと思うが。」

ソクジン
「……」

キム・チャンジュン
「行きなさい。」

俺は軽く黙礼してその場を後にした。

父が受話器を持って通話ボタンを押す音が聞こえた。

キム・チャンジュン
「ソン補佐官、来てくれ。」

扉を開けて入ってくるジュノおじさんを見て、
その場しのぎの嘘がバレるのではないかと不安になった。

ソクジン
「校長ともばったり出くわしたし…」

もう少しちゃんと考えて言い訳を
するべきだったという後悔が押し寄せてきた。

俺の不安とは裏腹に、ナムジュンとジョングクは
無事だった。

ジョングクはもう問題ないのだろうか。

父もこのまま大きな問題にせず
見逃してくれるだろうか。

様々なことが気になったが、何も起きないと信じて
進むしかなかった。

ソクジン
「ジョングクがいつでも頼れる存在がいれば
あんな極端な選択をせずに済むかもしれない。

俺はジョングクにとって… そんな存在になれるだろうか?」

22年4月15日

今日も校門の近くに車を停めてジョングクが下校するのを
待っていた。

しばらくすると、他の生徒に混じって
ジョングクの姿が見えた。

ソクジン
「ジョングク、ここだ!」

その日以降、俺は下校時間に合わせて
頻繁にジョングクに会いに行った。

ジョングク
「こんなに毎日来て大丈夫なんですか?」

ソクジン
「もちろん。俺が来たくて来てるんだから。」

照れくさくなったのか、
ジョングクが目をそらして笑った。

そろそろ気を許してもいい頃はずだが、
ジョングクは相変わらず俺の顔色を窺っていた。

ソクジン
「ジョングク、今日は何する?」

《選択肢》
①食事にするか?
②友達とはどんなことしてるんだ?

【パターン①:食事にするか?】

ソクジン

「食べたいものとかあるか?」

ジョングク
「えっと… とんかつ。」

ソクジン
「とんかつ?そういえば裏門の方にある店が
おいしかったな。」

ジョングク
「はい、その店です。兄さんそこ好きだったじゃ
ないですか。」

ソクジン
「そんなこと覚えてたのか?だからそこに行きたいって?」

ジョングク
「いえ、ただ…」

ソクジン
「お前はピザの方が好きじゃなかったか?ピザにしようぜ。」

ジョングクは俺の言葉を聞いて
少し嬉しそうな表情を浮かべた。

ジョングク
「…いいんですか?
じゃあピザにします。」

ソクジン
「分かった。食べたら図書館に行かないか?
俺ももうすぐ試験期間なんだ。」

俺の提案を受け入れたのか、ジョングクがうなずいた。

【パターン②:友達とはどんなことしてるんだ?】

ソクジン

「学校が終わった後、友達と何してるんだ?」

ジョングク
「えっと… ネットカフェに行くこともあるし、
時々サッカーもします。」

ジョングクの言葉を聞いた俺は嬉しくなって答えた。

ソクジン
「最近おもしろいゲームはあるか?」

ジョングク
「兄さんゲーム下手じゃないですか。」

ソクジン
「お前が教えてくれたらいいだろ。」

ジョングクは無言で目をそらした。

ソクジン
「…分かった。じゃあ俺は隣で見物してるよ。」

俺の提案を受け入れたのか、ジョングクがうなずいた。

俺の提案を受け入れたのか、ジョングクがうなずいた。

22年4月19日

ソクジン
「おかしい…」

下校時刻はとっくに過ぎていたが、
ジョングクの姿がなかった。

「この電話番号は現在使われて…」

ソクジン
「どういうことだ?何かあったのか?」

嫌な予感に襲われていたその時、
どこからか俺の名前を叫ぶ声が聞こえてきた。

「ソクジン兄さん!」

声のする方を見ると、ホソクが
学校の向かい側にあるツースターバーガーから
出てくるところだった。

ホソク
「わ、久しぶりですね!」

ソクジン
「そうだな。久しぶりだ。」

ホソク
「兄さんが来たっていう話は聞いてたけど、
学校の前で会うとは思いませんでした。

ここで何してるんですか?」

《選択肢》
①人を待ってるんだ。
②急用があってな。

【パターン①:人を待ってるんだ。】

ソクジン

「人を待ってるんだ。」

ホソク
「人?もしかしてジョングクですか?」

ソクジン
「何で分かったんだ?」

ホソク
「ちょっと待ってください。兄さんに渡すものがあって…」

【パターン②:急用があってな。】

ソクジン

「ホソク、悪いが急用があるんだ。また今度な。」

万が一ホソクに先に出会ってしまったら
ややこしくなるのではないかと思い、
俺はその場を離れようとした。

ホソク
「ちょっと待ってください。兄さんに渡すものがあって…」

ホソク
「ちょっと待ってください。兄さんに渡すものがあって…」

ポケットを探っていたホソクが
折りたたまれた紙を取り出した。

ホソク
「さっき、店にジョングクが来たんです。」

ソクジン
「ジョングクが?」

俺は驚きを抑えながらホソクの言葉に耳を傾けた。

ホソク
「急に転校することになったそうです。」

ソクジン
「転校?どこにだ?」

ホソク
「分かりません。もっと良い学校としか
言ってませんでした。」

ソクジン
「こんなこと今までなかったのに… まさか俺のせいか?」

ホソク
「兄さんにこれを渡してくれって
ジョングクに言われたんです。」

一緒に見た桜の木を描いた絵だった。
下には「ありがとう」と書かれていた。

ソクジン
「変えられてしまった電話番号。突然の転校。」

ホソク
「兄さん?どうしたんですか?急に表情が…」

ソクジン
「俺の予感が外れてるといいんだけどな…

…わざわざありがとう。」

ホソク
「…兄さん?大丈夫ですよね?」

心配するホソクを帰して、俺はしばらくその場に
立ち尽くしていた。

〈Episode 6. End〉


7.境界上の少年

”行方をくらませたジョングクを探し回るソクジン。今回のループでの選択は正しかったのだろうか。そして今度こそジョングクを救い出せるのだろうか。”

22年4月20日

俺は不安な気持ちを抱えたままチェイル高校の行政室を
訪れた。

せめてジョングクがどこに行ったか
だけでも知りたかった。

行政室長
「どうかされましたか?」

ソクジン
「こんにちは。」

《選択肢》
①要件を言う。
②昔の生徒だと言う。

【パターン①:要件を言う。】

ソクジン

「ここに通っていたチョン・ジョングク君の
転校理由が知りたいのですが。」

行政室長
「生徒の情報ですか?
それは個人情報なのでお教えできません。」

ソクジン
「それじゃあどの学校に転校したかだけでも
教えていただけませんか?」

行政室長
「それもお伝えできかねます。」

ソクジン
「分かりました…」

結局、学校では何も得られなかった。

22年4月30日

【パターン②:昔の生徒だと言う。】

ソクジン

「この学校に通っていたキム・ソクジンと申します。」

行政室長
「あ… はい。」

ソクジン
「覚えていらっしゃいませんか?
僕が転校してきた時にたくさんサポートして
くださいましたよね?」

行政室長
「…キム・ソクジン?
ああ、はいはい!覚えてますよ。

結構前に卒業されたはずですがどういったご用件ですか?」

ソクジン
「在校生の情報についてお尋ねしたいんですが。」

行政室長
「それは難しいですね…」

ソクジン
「親しかった後輩と突然連絡がつかなくなって
しまったんです。

とても心配で… 他に方法もないし… 何とかなりませんか?」

行政室長
「本当はだめですが… お名前は?」

ソクジン
「ありがとうございます!
1年生のチョン・ジョングクです。」

行政室長
「あ、いた。

寮がある学校に行ったみたいですね。校則が厳しいから
連絡がつかないのかな?」

ソクジン
「寮がある学校?どこですか?」

行政室長
「そこまではお教えできません。個人情報なので。」

ありもしない愛想を最大限絞り出したが、
ジョングクの転校先は寮がある学校
ということしか分からなかった。

22年4月30日

22年4月30日

ジョングクの行方を探し始めて数日が経った。

ソクジン
「父さん、お呼びですか?」

キム・チャンジュン
「ああ、そこに座りなさい。

ソン補佐官、ソ・ヒョンジョン副市長が提案した
会合はいつだと言ったかな?」

ソン・ジュノ
「来月の1週目の土曜日です。」

ソクジン
「ああ、この前の発足式の時に出た話か。」

ジョングクと一緒にいたため発足式には行かなかったが、
以前のループですでに聞いた話だった。

キム・チャンジュン
「ソクジンも参加しなければならないからな。頼んだぞ。」

俺が静かに父の話が終わるのを待っていたその時。

キム・チャンジュン
「そういえば、この前の件はうまくいったか?」

ソン・ジュノ
「チェイル高校の生徒のことでしょうか?」

ソクジン
「…生徒?」

ソン・ジュノ
「あの生徒のことでしたら解決しました。」

その瞬間、これまでの謎が全て解けた。

なぜジョングクが何も言わずに突然転校したのか、
そんな彼の行方がつかめなかったのは
誰のせいだったのか…

ソクジン
「全て… 父さんの仕業だったんだ!」

その事実に気付いた瞬間、心臓の鼓動が速くなった。

キム・チャンジュン
「よし。次の予定はどこだったかな?」

ソン・ジュノ
「ご案内いたします。」

父とジュノおじさんが俺のそばを通り過ぎた。

ソクジン
「父さんが… ジョングクを転校させたんですか?」

そう聞きたかったが、口にすることは到底不可能だった。

わざと言葉を濁して警告してきたのだ。
怒りをあらわにしたところで意味はないだろう。

ソン・ジュノ
「ソクジン、この前の発足式に
参加しなかったせいで我々がとても
困ったのは分かっているか?」

ソクジン
「はい、おじさん。次は必ず参加します。」

今はただ… 早くジョングクを見つけたかった。

ソクジン
「…選択を間違えたんだ。」

いつでもジョングクを見つけ出せる
存在になりたかったが、
むしろジョングクを遠ざける結果になってしまった。

ジョングク… 大丈夫か?

「もしもし!ソクジン兄さん!?」

ソクジン
「…ああ、ホソク。」

「兄さんどうしよう!ジョングクが…」

ホソクの声は不安げに震えていた。

「ジョングクがいなくなったそうです。
ジョングクと連絡できませんか!?」

ソクジン
「…どういうことだ?」

「ジョングクと同じクラスだった生徒が
今日言ってたんですけど…

先生からジョングクと連絡が取れる生徒はいないかって
聞かれたそうなんです。

ジョングクが… 行方不明になったって…」

22年4月25日

男性生徒
「なあ、今日の授業ってグループごとにやるのかな?」

女子生徒
「そうらしいよ。2人1組だって。」

男子生徒
「それじゃあ1人余るぞ?うちのクラス奇数だから。」

母はこの学校の「寮」が気に入ったそうだ。

ジョングク
「僕がいなくなってせいせいしたかな。」

僕は相変わらず同じだった。

学校、家、寮。
どこにも僕の居場所なんてなかった。

教師
「グループ課題なのに1人余る?
それじゃあ1組だけ3人でやろう。

ジョングクはどこがいい?」

ジョングク
「どこがいい…」

ーーー

「ジョングク、みんなで海に行こう。」

ーーー

僕が行きたい所は…

22年4月11日

目を開けると、また4月11日だった。

ソクジン
「どうしてループが回ったんだ?」

ナムジュンの問題は解決したし、他の友人の不幸は
まだ起きる時ではなかった。

ソクジン
「まさかジョングクが?」

寮のある学校に転校したジョングクに
何かあったのかもしれない。

ソクジン
「みんなで海に行こうって言ったのに…」

俺はまたその約束を守ることができなかった。

ジョングクに何があった?どこで間違えたんだ?

ジョングクには支えが必要だったし、
俺ならそんな存在になれると思っていた。

だが… 俺は失敗した。

ソクジン
「俺のやり方が間違っていたのか?
それとも、俺じゃだめなのか?

もしも…」

ジョングクの傷を癒す存在、一緒にいるべき存在が
俺じゃないのなら…

もしそうだとした、ジョングクを救えるのは一体
誰なのだろうか。

〈The End〉



■視線の先 - ユンギ

【ストーリー案内】
”自ら生きることを諦めようとするユンギに最も必要なことは何だろうか。”

何度も命を諦めようとするユンギを救うため、孤軍奮闘するソクジン。ユンギが生きる希望を持てる何かを見つけなければ。

(エピソード数:7)


1.感覚の残留

”予測すらできないユンギの悲劇。ソクジンはユンギの先手を打つため、新たな手がかりを見つけ出そうとする。”

22年5月2日

ユンギがいなくなった。

ソクジン
「ハア… ハア… どこに行ったんだ?」

作業室を出ていく時、ユンギは
重そうなかばんを持っていた。

ソクジン
「この前みたいにガソリンを隠し持ってるのかも。
早く見つけないと。」

ユンギはループのたびに予想外の行動を起こした。
そしてそれは今回も例外ではなかった。

俺はそんなユンギから少しも目を離さないよう
必死になった。

しかし…

ソクジン
「あ、すみません。」

角を曲がる時に通行人とぶつかり、ユンギを
見失ってしまった。

ユンギ
「……」

ユンギがいなくなったのは一瞬の出来事だった。

ソクジン
「あそこに行ったのか?」

俺が最も近いモーテルに足を向けたその時…

「わああ!火事だ!!」

モーテルの窓から黒煙が上がっていた。

焦った俺は他の人の制止を振り切って
モーテルの中に飛び込んだ。

煙が出ている部屋の前に着いたが、
扉は固く閉ざされていた。

ソクジン
「ユンギ!」

ありったけの力を込めても扉は全く開かなかった。

ソクジン
「ユンギ!頼むから返事をしてくれ!」

いくら必死に呼んでもユンギは答えなかった。

ユンギ
「……」

外が騒がしい。

誰かが俺を呼んでいるようだった。

ユンギ
「そんなはずない。」

耐えがたい熱気が全身を包み込み、
苦痛の中で俺の意識は次第に遠のいていった。

ユンギ
「これで終わりだ…」

22年4月11日

目を開けると案の定そこは自分の部屋だった。

頭の中が複雑になっていた。俺は今回もユンギを
止められなかった。

ソクジン
「今回はどうして変わったんだ。」

初めは俺が間違った方法で関わったからだと考えていた。

しかしユンギは、俺が何も行動しない時でも
毎回異なる時間、異なる場所で自分を追い詰めた。

ソクジン
「ナムジュンと違ってユンギの事故には相手も
状況も関係ない。

考え方を変えないと。」

もしかしたらユンギの問題は
ユンギ自身に起因しているのかもしれない。

ソクジン
「あらゆる不確定要素がユンギの心の中にあったから
事故を防げなかったのなら…」

ユンギのことを完璧に理解すれば
防げるのではないかと思った。

ユンギはどんな目でこの世界や
自分自身を見つめているのだろうか。

一体どうすればユンギの気持ちを理解できるのだろうか。

机の上に置かれた箱の中からビデオカメラを取り出した。
高校時代にずっと持ち歩いていたものだった。

ソクジン
「この中に手がかりがあるかもしれない。」

以前のユンギはどうだったか確かめたいと思った。

ビデオカメラを起動すると、
当時の俺たちの姿が映し出された。

ーーー

ホソク
「あれ、ジミンはどこに行ったんだろう?」

テヒョン
「ジミンならトイレに行きましたよ。」

ホソク
「そうなの?それじゃあみんなで…
いたずらしてみようか?」

ユンギ
「あんまりいじめてやるなよ。」

ホソク
「いじめじゃないですよ~ ただの愛情表現ですって。」

ーーー

楽しそうなテヒョンとホソクを撮影している画面の片隅に
ユンギの姿が映った。

ユンギは皆の後ろで夢中で何かを書いていた。

ソクジン
「紙に何を書いてるんだろう?
楽譜かな。」

プレハブ教室でユンギが演奏していた
曲の中には自作曲もあったが、
ユンギは新曲を作るたびに楽譜を手で直接書いていた。

ソクジン
「今も曲を書いてるのかな。
そういえばユンギの作業室にも
ピアノが1台あったはずだ。」

俺が考え込んでいると、映像が終わっていた。

ソクジン
「他の映像も見てみよう。
これも教室で撮ったやつだな。」

ーーー

テヒョン
「あ、ナムジュン兄さん!」

ユンギ
「珍しいやつが来た。」

テヒョン
「何だか疲れてません?」

ナムジュン
「まあ… 寝不足でな。」

画面のナムジュンの疲れた顔を見て
この映像を撮影した日を思い出した。

眠ったナムジュンの邪魔をしないように
静かにしていたが、結局
全員一緒に眠ってしまった日だった。

テヒョン
「机くっ付けましょうか?」

ナムジュン
「いや、いい。」

テヒョン
「どうしてですか。横になった方がぐっすり眠れますよ!」

テヒョンとナムジュンがもめていると、

ユンギ
「ほら。」

ユンギが先に机を並べてナムジュンを呼んだ。

ナムジュン
「突っ伏して寝るだけでいいのに…
兄さん、ありがとうございます。」

テヒョン
「ユンギ兄さん、僕も!机でベッドを作ってくださいよ。」

ーーー

映像を見ている間ずっとユンギに集中していたが、
ユンギはほとんど遠くの方に立っているか画面の外にいて
声が聞こえるだけだった。

写真でも同様だった。

ユンギが1人で写っている写真は
数えるほどしかなかった。集合写真で何とか顔を
見ることができたが、

それでもカメラから目をそらしているものが
ほとんどだった。

ソクジン
「…困ったな。」

そうして写真を見続けていると、

ーーー

「ここにあることは秘密ですよ。いいですね?」

「…まったく。」

ーーー

ビデオカメラからテヒョンとユンギの声が聞こえてきた。
映像はずっと続いていた。

ソクジン
「他に何かあったっけ?」

カメラは眠っているナムジュンの
向こうにいるテヒョンとユンギに向けられていた。

ーーー

テヒョン
「ここにあることは秘密ですよ。いいですね?」

ユンギ
「…まったく。」

「秘密って何のことだ?」

俺の問いかけに、
ピアノの方に立っていたテヒョンとユンギが
同時に振り返った。

テヒョン
「いや~?何でもありませんよ?」

ユンギ
「何を隠してる。」

テヒョン
「兄さん、シッ!」

ーーー

映像はテヒョンがユンギの言葉を慌てて遮る場面で
終わっていた。

ソクジン
「教室に… 2人が何かを隠したのか?」

テヒョンの不自然な表情が気になった。

大したことではないかも
しれないが、今は些細な手がかりでも欲しい状況だった。

ソクジン
「2年も経ってるからもうないかもしれないけど…
とりあえず教室に行ってみるか。」

俺はユンギに関する手がかりが少しでも見つかる
ことを願った。

〈Episode 1. End〉


2.かすかな記憶

”手がかりを探してプレハブ教室に来たソクジンは過去を回想する。”

22年4月15日

ソクジン
「すごく久しぶりだな…」

昔の映像を見てやって来たためか、
何とも言えない気持ちになった。

ここは今でも倉庫として使われているようだった。

乱雑に積まれた物やたまった埃、
そして久しぶりの木の香りまで。

ソクジン
「相変わらずだな。」

どこから調べようか?

《選択肢》
①窓際を調べる。
②机のかたまりを調べる。
③落書きされた壁を調べる。

【パターン①:窓際を調べる。】

窓際はジミンが好きな場所だった。

机の上でうつ伏せになって
陽射しを浴びていたジミンの姿が鮮明に浮かんできた。

昔はここにホソクの植木鉢があった。
ホソクが持ってきたのだろうかと推測するだけだった。

もしかしたらと思って窓を開けようとしたが、
埃がたまっているためなのかなかなか開かなかった。

ようやくほんの少しだけ開いたものの、
それ以上は開きそうになかったため閉めることにした。

窓際にはこれ以上調べるものはなかった。

次はピアノの方に行ってみようか?

【パターン②:机のかたまりを調べる。】

俺は乱雑に置かれた机のかたまりの方に向かった。

俺は比較的きれいな机を後ろに追いやり、
埃まみれになっている古い机を調べた。

ソクジン
「俺たちが座っていた机も残ってるかな?」

その時、古い落書きを1つ発見した。

ーーー

〈背が伸びますように!〉

ーーー

ソクジン
「みんなと身長の話をたくさんしたな。」

同じくらいの身長のジョングクとジミンが
互いに背中を合わせてどちらが高いか
比べていたことを思い出した。

俺は落書きをそっと撫でてみた。

ここにはこれ以上調べるものはなかった。

次はピアノの方に行ってみようか?

【パターン③:落書きされた壁を調べる。】

教室の片隅の壁は落書きで埋め尽くされていた。

合格祈願や片思いの相手の名前、
日付、そしてもはやまともに読めなくなった多くの名前。

そういえばどこかに父の名前もあったはずだが…

ソクジン
「探してみよう。」

ーーー

〈全てはここから始まった。〉

ーーー

父の名前と共に書かれている意味不明な落書きを読んで
俺は振り返った。

壁の前には高く積み上げられた箱があった。

ソクジン
「この箱もそのままだったのか。」

箱を触ると手に埃が付着した。

ソクジン
「…今はもっと大事なことが他にあるよな。」

ユンギとテヒョンが言っていた「秘密」を早く
見つけなければならない。

次はピアノの方に行ってみようか?

次はピアノの方に行ってみようか?

ホソクが「ミン・ユンギの指定席」と呼ぶほど、
ユンギはいつもピアノの近くにいた。

俺は埃だらけのピアノの蓋を開けた。

ソクジン
「音は… 出るかな。」

長い間放置されていたためかピアノからは弱々しい音しか
出なかった。

ソクジン
「ユンギはどんな曲を弾いていたっけ?
ジョングクにも時々教えていたのに。」

椅子の上に並んで座っていたジョングクとユンギの姿が
見えるような気がした。

俺は慣れない手つきで鍵盤を叩いてみたが、
すぐにやめた。

ソクジン
「ここに何かを隠したとしたら… どこだろう?」

《選択肢》
①ピアノを調べる。
②ピアノの周辺を調べる。

【パターン①:ピアノを調べる。】

俺はピアノを入念に調べた。

ソクジン
「あ、ピアノの椅子!」

椅子の蓋を開けてみたが、そこには何もなかった。

俺はしばらく悩んでから
ピアノの上蓋を慎重に持ち上げた。

中には埃まみれの弦しかなかった。

ソクジン
「ピアノじゃないのか?」

俺はピアノを隅々まで調べたが、
「秘密」だと呼べるほどのものは
どこにも見つからなかった。

結局何も見つからなかった。

【パターン②:ピアノの周辺を調べる。】

ピアノの周辺には何もなかった。
埃のかたまりが落ちているだけだった。

ソクジン
「もしかしたらピアノの後ろに…」

俺がピアノの側面をつかんで押してみると、
何とか壁からピアノを引き離すことができた。

しかし、ピアノの後ろには
埃のかたまりと誰かが捨てたキャンディの棒、そして…

壊れたシャープペンシルしかなかった。

結局何も見つからなかった。

結局何も見つからなかった。

俺はその間ずっとユンギを1人に
していたような気がして不安になった。

ソクジン
「ユンギのところへ行こう。」

俺は特に何の成果もないままプレハブ教室を後にした。

ユンギの作業室の前で車を停め、中の様子を探ってみた。

ソクジン
「…中にいるみたいだな。」

俺は開けっ放しの窓からユンギがいることを確認し、
家から持ってきたビデオカメラを取り出した。

ずらりと並んだ再生リストを触りながら
どれから見ようか悩んでいたその時、

ソクジン
「ユンギだ…」

ユンギの顔が映っているサムネイルが
あったため、俺はすぐに再生ボタンを押した。

ーーー

ユンギ
「それ大丈夫ですか?」

ソクジン
「うーん… 大丈夫だと思う。」

ユンギ
「ちょっと…」

制服を着た幼いユンギの顔が映し出された。

しかし、画面はすぐに他の場所に向けられた。

ーーー

ソクジン
「いつの映像だ…?」

停止ボタンを押さなかったためか、
画面が揺れてからユンギと俺の声が聞こえてきた。

その声に耳を傾けていると、
忘れていた記憶が1つ蘇ってきた。

ソクジン
「あ、この日…」

いつだったか、ユンギと2人で下校した日の記憶だった。

〈Episode 2. End〉


3.外れた本心

”ソクジンはユンギとの思い出を回想し、考えに耽る。しかし、その瞬間にもユンギはさらなる悲劇を迎えようとしていた。”

家に帰ろうとしていたその時、
校長から呼び出しがかかった。

「ソクジン君。
放課後、校長室まで来てください。」

ソクジン
「まあ大したことじゃないだろう。」

そう自分自身に言い聞かせ、俺は重い足取りで向かった。

俺は校長室の扉の前で少しためらってからノックした。
ところが、中には人の気配がないようだった。

ソクジン
「誰もいないのか?」

俺が扉を開けると、校長室の中が見えた。

ソクジン
「席を外してるみたいだ… 待った方がいいかな?」

俺はそのまま逃げようかとも考えたが、
後で厄介なことになりそうだったため、
そこで待つことにした。

ソクジン
「早く来ないかな。」

校長室には湿っぽいにおいが
漂っており、じっとしているだけでも居心地が悪かった。

チョ・ジンミョン
「ソクジン君、先に来ていたか。待たせて悪かったね。」

間もなく校長が戻ってきた。俺は重い気持ちのまま
うなだれた。

何となく家に帰りたくない日があった。

ユンギ
「…家に帰ったところで…」

会話など1つもない。

普通は家が最も落ち着ける場所なのだろうが、
俺は違った。

学校でも特にやることなどなかった。

あの教室に行くこと以外は…

ユンギ
「…誰もいないな。」

俺は教室の中を見渡した後、ピアノの方へ向かった。

いつもと違って静かな教室はあまり慣れなかったが、
嫌ではなかった。

ユンギ
「……」

俺は楽譜を1つ手に取って譜面版に載せた。

演奏に合わせて踊ると言って
とにかく速い曲を注文してくるやつも、

知っている歌を弾いてくれと
ねだってくるやつもいなかった。

ジョングクが隣に立ってじっと見つめていた姿を
思い出した。

ユンギ
「……」

なぜか鍵盤の上になかなか手を置けなかった。

ソクジン
「疲れたな。」

校長に呼び出された理由は予想通りだった。

「ユンギの行動を報告しろ。」

少しでもうかつなことを言うと
どうなるか分からないので、俺はできるだけ口を
開かないようにした。

しかし…

「お前は皆を騙している。」
「偽善者。」

友人たちと一緒に笑っている時でも、
誰かが俺の耳元でそうささやいてくる気がした。

できるだけ時間を稼いでいるが、
それほど長くはもたないだろう。

ソクジン
「どうすれば守れるんだろうか。
どうすれば…」

俺がそう呟きながら扉を開けると、

ユンギ
「どうするって何を?」

目の前にユンギが立っていた。

ソクジン
「あ… お前しかいないのか?」

ユンギ
「はい。」

ソクジン
「帰るのか?」

ユンギ
「はい。」

ソクジン
「そうか…」

ユンギ
「兄さんは?」

ソクジン
「…じゃあ俺も帰ろうかな。一緒に出よう。」

俺が慌てているのをユンギに悟られていないことを
願った。

幸いにもユンギは何も言わずに先に廊下に出た。

ソクジン
「……」

校舎を出るまで、2人の間に会話はなかった。

ソクジン
「何だか気まずいな… 俺が先に話しかけてみるか?」

《選択肢》
①ユンギ、腹減ってないか?
②良い天気だな!

【パターン①:ユンギ、腹減ってないか?】

ユンギ

「俺は別に。」

ソクジン
「そうか… まあ俺もなんだけどな。はは。」

話しかけようと思って何も考えずに口を開いたが、
会話はあっさりと途切れてしまった。

ソクジン
「腹が減ってるならハンバーガーでもおごろうかと
思ったけど…」

校門の前にあるツースターバーガーが頭をよぎった。

ソクジン
「とりあえず食べていこうって言うべきだったか?」

ユンギ
「兄さん。」

【パターン②:良い天気だな!】

突然の俺の言葉を聞いてユンギが空を見上げた。

ユンギ
「良い天気?」

その日は霧がかかっていた。

俺は何も考えずに口を開いたことを後悔して、
すぐに話題を変えた。

ソクジン
「さっきはピアノを弾いてたのか?」

ユンギ
「いえ、楽譜を眺めてただけです。」

なぜという問いかけにユンギは答えなかった。

自分ばかり話しているような気がしたため、
俺も口を閉ざした。

ユンギ
「兄さん。」

ユンギ
「兄さん。」

気まずい雰囲気に何とか耐えていたその時、
ユンギが話しかけてきた。

ソクジン
「どうした?」

ユンギ
「電話が鳴ってるみたいです。」

ユンギにそう言われて確かめてみると、どこからか
微弱な振動が伝わってきた。

かばんに入っている携帯電話を取り出すためにジッパーを
開けたその時、

ビデオカメラが地面に落ちてしまった。

ぐずぐずしている間に着信が途絶えてしまったので、
俺はビデオカメラを拾い上げた。

ユンギ
「それ大丈夫ですか?」

ビデオカメラは、角にできた傷を除けば
問題ないように見えた。

ソクジン
「うーん… 大丈夫だと思う。
壊れてないよな?電源を入れてみるか。」

ビデオカメラの液晶画面を点けると、
すぐ隣にいたユンギの顔が映った。

落とした時にボタンが押されたのか、
録画状態になっていた。

ユンギ
「ちょっと…」

ソクジン
「待ってくれ。異常がないか確かめるためだよ。」

ユンギ
「他の場所を撮ってください。」

ソクジン
「あ… 撮ろうと思ってたわけじゃないんだ。」

気まずくなった俺は急いでビデオカメラを下ろした。
電源を切ることを忘れたまま。

ユンギはポケットに手を突っ込んでゆっくり歩いていた。

ソクジン
「この沈黙が気まずいって思ってるのは俺だけなのか?」

運動場を横切ろうとしたその時、ユンギが口を開いた。

ユンギ
「…何かあったんですか?」

ソクジン
「えっ?どうして?」

ユンギ
「さっき表情が暗かったから。」

ユンギはこうして鋭い質問をよく投げかけてきた。

ソクジン
「何か… はは、何でもないよ。」

心臓が強く脈打ったが、正直に話すことはできなかった。

どう言い訳しようか悩みながら
笑ってごまかそうとしていると、
ユンギが俺をじっと見つめてこう言った。

ユンギ
「兄さんも下手ですね。」

ソクジン
「何が?」

ユンギ
「笑うこと。」

しばし沈黙が流れ、ユンギが再び口を開いた。

ユンギ
「兄さんが最後に… 心から笑ったのっていつですか?」

ソクジン
「どういうことだ…?」

ユンギ
「心から笑ったのはいつなんですか。」

それ以降は雑音がひどく、会話が聞こえなかった。
やがて映像が終了した。

ソクジン
「何て答えたっけ…」

答えたかどうかもよく覚えていなかった。

ソクジン
「心から笑ったのはいつ…?
どうしてそんなことを聞いてきたんだろう。」

当時の俺は、校長との件が気付かれるのではないかと
いつも緊張していた。

それでもうまく隠せていると思っていたのだが…

ソクジン
「もしかしてユンギだけじゃなくて
他のみんなにも気付かれていたんだろうか。」

そんなことを考えていたその時。

「火事だ!!」

誰かの悲鳴が聞こえた。

ユンギの作業室から火の手が上がっていた。

ソクジン
「どうして…?理由は何だ?」

ユンギが出てくればすぐに見える位置に
車を停めていたが、

映像を見ていたためユンギに注意を傾けられなかった
俺のミスだった。

ソクジン
「今回は作業室だった…!」

俺はようやく建物の中に飛び込んでいった。

「ユンギ!」

手を打つのがまた遅くなってしまった。
結局今回も… お前を救えなかった。

火の手は瞬く間に建物全体へと広がっていった。

鍵のかかった扉を必死に開こうとしていたその時、
どこからかガラスの割れる音が聞こえてきた。

〈Episode 3. End〉


4.思い出の考察

”ソクジンはユンギのことを理解するために、近くで彼を監視するようになる。”

22年4月11日

ジョングクが工事現場の建物の屋上から降りてきた。

すぐにユンギがジョングクのもとを訪れ、
2人はナムジュンのコンテナに向かって歩き出した。

ソクジン
「今回は一緒にいるから安心だな。」

俺は遠ざかっていく2人を
しばらく見つめてから振り返った。

数日後。

ユンギの作業室に向かう途中で見知った顔を目にした。

ソクジン
「ジョングク?
休みのはずだけど、どこに行くんだろう?

ジョングク!」

ジョングク
「あれ、ソクジン兄さん?」

ソクジン
「元気だったか?どこに行くんだ?」

ジョングク
「えっと… ふらふらしてました。」

俺の質問を受けてジョングクは目をそらした。

ソクジン
「行くあてはないのか。」

このまま放っておけば
あてもなく彷徨うことは知っていたので、
1人にしておくわけにはいかなかった。

ソクジン
「今からユンギのところに行くんだ。」

ジョングク
「ユンギ兄さん?」

ソクジン
「一緒に行かないか?」

ジョングクは迷っているようだった。

ソクジン
「ジョングクはユンギとよく一緒にいたはずだけど…」

ジョングク
「分かりました。行きましょう。」

ジョングク
「……

僕も入っていいのかな…」

作業室には酒の匂いが充満しており、
転がっている酒瓶と一緒に
兄さんが死んだように眠っていた。

ジョングク
「ユンギ兄さん… 大丈夫ですよね?」

ソクジン兄さんは無言で酒瓶を片付け始めた。

ユンギ兄さんの寝息しか聞こえないほど作業室は
静かだった。

なぜかプレハブ教室での思い出がしきりに蘇ってきた。

ーーー

テヒョン
「ジョングク!1回でいいから見せてくれよ~」

ジョングク
「だめです!」

僕はスケッチブックを持ってプレハブ教室の中を
ぐるぐる回っていた。

テヒョン
「どうせ見ることになるんだからいいだろ!」

絵をみせてほしいと言う
テヒョン兄さんに追われていたからだ。

ジョングク
「来ないでください!」

走る元気がなくなったため教室の外に逃げようと思って
扉を開けると、

ジョングク
「うわっ…!」

ユンギ兄さんが立っていた。

ジョングク
「兄さん、ちょっとどいてください!」

テヒョン
「兄さん!ジョングクを捕まえて!」

ユンギ
「慌ただしいな… どうしたんだ。」

テヒョン
「捕まえた!ちゃんと見てやるからさ!」

兄さんはスケッチブックを頭の上に持ち上げて
巧みに逃げ回り、
僕はその後を必死に追いかけるしかなかった。

ユンギ
「……テヒョン。」

テヒョン
「え?」

ユンギ兄さんに呼ばれ、
テヒョン兄さんがぴたっと動きを止めた。

その隙を突いて飛びかかったが、
スケッチブックを取り戻すことはできなかった。

ユンギ
「それ持ってきてくれ。一緒に見よう。」

もしかしたら助けてくれるのではないかと期待したが、
ユンギ兄さんの言葉に力が抜けた。

浮足立ったテヒョン兄さんが大急ぎでピアノの前まで
駆け付けた。

ジョングク
「兄さん、本当に何もありませんって。」

テヒョン
「何もないなら見てもいいだろ!
兄さんも見たいですよね?」

ユンギ
「見せてみろ。」

僕が全てを諦めて兄さんたちの様子を
呆然と見つめていると、

ユンギ
「ジョングク、ほら。」

突然、僕に向かってスケッチブックが飛んできた。

テヒョン
「ああ!どうして返すんですか!
苦労して手に入れたのに!」

僕は追いかけてくるテヒョン兄さんから
逃げるために急いで廊下に飛び出した。

ジョングク
「ユンギ兄さん、ありがとうございます!」

ーーー

ユンギは深く眠り込んでいるのか、
起きる気配がなかった。

ソクジン
「このまま時間を無駄にするわけにはいかない。
教室にでも行ってみよう。」

次の行き先を決めた俺は、考え込んでいるジョングクの
肩を叩いた。

ソクジン
「今日はもう帰ろう。」

ジョングク
「僕はもう少しここにいます。ユンギ兄さんが起きるまで…」

ソクジン
「そうか?それじゃあ…」

俺はジョングクをユンギのもとに残して作業室を出た。

プレハブ教室に戻ってきた俺は、
テヒョンとユンギが隠した「秘密」を
見つけるために教室の中をくまなく調べた。

ソクジン
「他の場所は全部調べたみたいだけど…
ピアノをもう一度見てみるか。」

《選択肢》
①ピアノの下にある隙間を探る。
②ピアノの下に手を入れてみる。

【パターン①:ピアノの下にある隙間を探る。】

床とピアノの間にある隙間は暗くてよく見えなかった。

俺は仕方なく床に顔を付けて携帯電話のライトを点けた。

ソクジン
「何かあるな。」

ライトを動かしてみると、床に紙が落ちていた。

ソクジン
「どうやって拾おう。
何か方法を考えないと…」

【パターン②:ピアノの下に手を入れてみる。】

何かがあることを祈りながら俺は袖をまくって腕を
延ばしてみた。

ソクジン
「う… 狭いな…」

俺は必死に床を探りながら手を押し込んだ。

ソクジン
「いてっ!」

木のとげが手に刺さってしまった。
これ以上手を入れて探るのは難しいようだ。

ソクジン
「何か方法を考えないと…」

ソクジン
「何か方法を考えないと…」

《選択肢》
①ピアノの下に棒を入れてみる。
②ピアノを動かす。

【パターン①:ピアノの下に棒を入れてみる。】

俺は悩んだ末に、プレハブ教室の片隅から
古いモップの柄を持ってきた。

ソクジン
「これで取り出せるといいんだけど…」

俺はモップの柄を何度も振ってみたが、

ソクジン
「ゴホゴホ…!」

埃が舞うだけだった。

だがこのまま諦めるわけにもいかず、
俺は柄をもう少し深い場所まで押し込んでみた。

ソクジン
「取れた!」

柄に引っかかって出てきたのは1枚の紙だった。

ソクジン
「何だこれ?
〈1年 数学 氏名:キム・テヒョン 12点〉?」

【パターン②:ピアノを動かす。】

ソクジン

「下を確かめてみよう。」

俺は大きく深呼吸してから力を込めてピアノを動かした。

床を引っ掻く音が聞こえ、
埃に覆われておらず、他の部分とは色が異なる
床が現れた。

俺は床に落ちていた紙を拾い上げた。

ソクジン
「〈1年 数学 氏名:キム・テヒョン 12点〉?」

ソクジン
「〈1年 数学 氏名:キム・テヒョン 12点〉?」

テヒョンの悲惨な数学の解答用紙だった。

ーーー

テヒョン
「ここにあることは秘密ですよ。いいですね?
いや~?何でもありませんよ?」

ーーー

ソクジン
「ああ、テヒョンが言ってた秘密って
これのことだったのか…」

俺は一気に力が抜けてその場に座り込んだ。

ソクジン
「ふう…」

その時、視点が低くなったおかげで
ピアノの底面に付いている小さな取っ手が見つかった。

ソクジン
「…こんな所も開くのか?」

俺はここに何かがあることを願いながら
取っ手を引いてみた。

ソクジン
「お?」

埃を舞い散らせながら底面の蓋が開き、
ピアノのフレームの間から色褪せた楽譜が見えた。

俺は楽譜の中のとある一節に惹きつけられた。

書かれていた文字を読んでいると、
下校時の映像に録音されていた
ユンギの言葉が蘇ってきた。

ーーー

ユンギ
「兄さんも下手ですね。
笑うこと。

兄さんが最後に心から笑ったのっていつですか?」

ーーー

これはその時の質問の答えだった。

ーーー

19年3月20日

ジミン
「それじゃあホソク兄さんは部活の部長になったんですか?」

ホソク
「ふふ、そう!」

テヒョン
「おお~、部長!」

ホソク
「そう呼びたいなら入部しないと、入部を。」

ナムジュン
「部員はどれくらい集めたんだ?」

ホソク
「そこまで多くないからもっと集めないと。
ユンギ兄さん、うちの部に入りませんか?

兄さんならと・く・べ・つ・に!
試験なしで入部を許可しますよ。」

テヒョン
「兄さん、ユンギ兄さんに部長の言うことを聞けって
パワハラしてませんか?」

ホソク
「あれ、バレた?」

ユンギ
「またふざけてるのか。」

ーーー

みんなと笑っていたユンギの顔が鮮明に蘇ってきた。

ソクジン
「あの時はみんな笑ってたのに…」

いつから笑えなくなったんだろうか。
俺が全てを台無しにしたあの日からだろうか…

ソクジン
「俺のせいだ…」

俺は楽譜を持って立ち尽くしていた。

教室を出る頃には、すでに日が傾いていた。

〈Episode 4. End〉


5.いつも通りの境界の中で

”ソクジンは偶然を装ってユンギの前に現れる。ユンギはそんなソクジンに意味深な言葉を投げかける。”

22年4月15日

今日も作業室の前で見張っていると、ユンギが出てきた。
ふらつきながら歩く姿が何とも頼りなかった。

ユンギの後を追いかけようか?

《選択肢》
①行方を見守る。
②付いて行く。

【パターン①:行方を見守る。】

コンビニに向かっているようなので
俺はしばらく見守ることにした。

ソクジン
「すぐに出てくるだろう。
今日は危険な物も持っていないみたいだし…

ん?どこに行くんだ?」

ユンギはコンビニを通り過ぎて前に歩き続けた。

ソクジン
「念のため付いて行こう。」

遠ざかっていくユンギの後を追うため
俺は早足で付いていった。

俺の足音が聞こえたのだろうか。
ユンギが突然立ち止まった。

ソクジン
「バレる…!」

俺は急いで車の後ろに隠れた。するとその時、

ソクジン
「お?」

ユンギは路地にある屋台に入っていった。

ユンギ
「焼酎1杯ください。」

【パターン②:付いて行く。】

やはりユンギを1人にしておくのは危険なので、
俺は距離を取って後を追いかけた。

通行人
「どこ見て歩いてんだ?」

ユンギ
「そっちがぶつかってきたんだろ。」

通行人
「ガキのくせに生意気だな。」

ユンギ
「さっさと行けよ。」

ユンギは通行人とトラブルを起こしそうになったり、

ユンギ
「……」

何かを考えているのか、道端でしばらく立ち尽くす
こともあった。

ソクジン
「不安だ…」

そうして道を徘徊していたユンギは
とある居酒屋に入っていった。

ユンギ
「焼酎1杯ください。」

ユンギ
「焼酎1杯ください。」

居酒屋の店長
「今日はちゃんと金持ってきたか?」

ユンギ
「持ってきましたよ。」

会話を聞くと、どうやらユンギがよく訪れる
居酒屋のようだ。

ソクジン
「もしかしたらユンギのこと
理解できるチャンスかもしれない。」

俺はユンギに気付かれないように
後ろの方のテーブルに座った。

ユンギは立て続けにグラスを空にしていった。

ソクジン
「ずっと1人にしてるわけにはいかない…」

俺は勇気を出してユンギの前に座った。

ソクジン
「ユンギ。」

突然呼びかけたにも関わらず、
ユンギは全く驚く様子もなく俺を見上げた。

ソクジン
「久しぶりだな。」

ユンギは何も答えずに笑みを浮かべ、再び顔を下げた。

ソクジン
「どうやって話を始めたら自然だろうか?」

《選択肢》
①歩いてたら偶然見かけたから入ったんだ。
②酒を飲みに来たらお前がいたんだ。

【パターン①:歩いてたら偶然見かけたから入ったんだ。】

ユンギ

「どこに行こうとしてたんですか?」

ソクジン
「少しふらふらして家に帰ろうと思ってた。」

ユンギは何も答えず、自分のグラスを差し出した。

【パターン②:酒を飲みに来たらお前がいたんだ。】

ユンギ

「1人ですか?」

ソクジン
「1人で飲んじゃだめか?
お前も1人だろ。」

ユンギは何も答えず、自分のグラスを差し出した。

ユンギは何も答えず、自分のグラスを差し出した。

うまくごまかせたようだ。

ユンギ
「元気でしたか?」

ソクジン
「ぼちぼちだ。」

ユンギ
「あの時来ればよかったのに。」

ソクジン
「あの時?ナムジュンの家に集まった時のことか?」

ユンギ
「久しぶりに会えるからってジョングクが…
いや、忙しかったんでしょうね。」

ソクジン
「ごめんな。ジョングクは元気か?」

ユンギ
「さあ。」

ソクジン
「…お前は?」

ユンギは目をそらしてグラスに酒を注いだ。

ソクジン
「お前は元気だったか?」

ユンギ
「……
見ての通りです。」

ソクジン
「嘘つけ。
最近どう過ごしてるのか全部知ってるとは言えないしな…」

居酒屋の店長
「グラスです。」

ちょうどグラスが渡され、俺はユンギの新しいグラスに
焼酎を注いだ。

ソクジン
「……」

ユンギ
「……」

だが、久しぶりに再会したからだろうか。
周囲の人々が騒いでいる中、
静かなのは俺たちだけだった。

気まずい沈黙を破ろうと思い、俺は昔の話を始めた。

ソクジン
「ユンギ。一緒に下校した日のこと覚えてるか?」

ユンギ
「…?」

ソクジン
「高校の時だ。」

ユンギ
「いつですか?」

ソクジン
「お前と俺がプレハブ教室で出くわして、
一緒に帰ったことがあるんだけど…」

ユンギ
「……
それがどうかしたんですか?」

ソクジン
「あの時お前が言ってたことを思い出したんだ。
心から笑ったのはいつかって。」

ユンギ
「よく覚えてますね。」

ソクジン
「覚えてたっていうより映像のおかげだけどな…
ふと思い出したんだ。

それでなんだけどな。
あの時お前に聞かれたこと… 俺もお前に聞きたいんだ。」

ユンギの反応を予想できないため
緊張したが、ようやくつかんだチャンスを
逃すわけにはいかなかった。

ソクジン
「お前が最後に… 心から笑ったのはいつだ?」

ユンギはしばらく黙っていた。

ユンギ
「…さあ。」

ソクジン
「ちょっと考えてみてくれ。思い出せないか?」

ユンギ
「そんなこと思い出したところで何になるんですか?
思い出したからっていま何かが変わるわけでもないのに…」

ぶっきらぼうな言い方よりも、
なかなか本音を見せないことが悲しかった。

ユンギに俺と同じ答えを望んでいたわけではなかった。

ソクジン
「ただ、俺が方法を見つけられるように
お前の気持ちを教えて欲しいと
打ち明けることができたらどれほど楽だろうか。

もしくは、もっと前に戻って俺が勇気を出して友人たちを
守っていたら。

そしてユンギが退学しなければ。
そうなっていれば俺たちは今頃…」

ユンギ
「どうしてそんな顔するんですか?」

その言葉を聞いて我に返ると、
ユンギがじっと俺を見つめていた。

昔、下校している時に見た眼差しだった。

ソクジン
「いや… 久しぶりに会ったのにつまらない話ばっかり
しちゃったな。

何でもな…」

あの時のように笑ってごまかそうとしたその時、
ユンギが俺の言葉を遮った。

ユンギ
「兄さんは相変わらずですね。」

ソクジン
「え?」

ユンギ
「顔を見れば何かあることくらいすぐに分かるのに、
口では何でもないって言うところ。」

図星を突かれ、俺は何も言うことができなかった。

〈Episode 5. End〉


6.視線の先

”家に帰ってきたソクジンはビデオカメラを再度確認し、映像の中で以前は気付かなかったユンギの姿を発見する。”

22年4月15日

家に着いた後も、ユンギの言葉が頭の中に
ずっと響いていた。

ーーー

ユンギ
「顔を見れば何かあることくらいすぐに分かるのに、
口では何でもないって言うところ。」

ーーー

ソクジン
「うまく隠せてると思ってたのに…
どうして分かったんだ。」

俺がこれまで見てきたユンギは、
周りのことに無関心な男だった。

あらゆることから常に距離を置こうとしてると
思ってたのに…

ソクジン
「…ユンギのこと誤解してたみたいだな。」

俺は再びビデオカメラを点けた。

今なら、これまで見過ごしていた
ユンギの姿に気付くかもしれないと思った。

ソクジン
「ユンギが映ってる映像… これだ。」

再生した画面の中に、ピアノを弾いているユンギの
後ろ姿があった。

あの日俺たちの教室には…
俺とユンギ、そしてジョングクだけだった。

ーーー

ユンギはいつものようにピアノの前に座っていた。

静かな教室にピアノの音色が響き渡ると、
机に座っていたジョングクが立ち上がった。

ジョングク
「……」

ジョングクはそっとユンギの隣に立った。

ユンギも邪魔には感じなかったのか、
そのまま演奏を続けた。

すると突然…

ジョングク
「…?」

ユンギが演奏を止めた。

ジョングク
「兄さん、どうかしましたか?」

ユンギ
「ジョングク、弾いてみるか?」

ーーー

ソクジン
「何だかおかしいな…
どうして突然ピアノを弾くか聞いたんだ?」

何か見過ごしていることがあるのではないかと思い、
俺は映像を巻き戻した。

立ち上がったジョングクが、
邪魔にならないようにそっとユンギの隣に立って…

ーーー

ジョングク
「……」

無意識のうちに爪を噛んだ。
そして…

ユンギ
「ジョングク、弾いてみるか?」

ジョングク
「弾いてもいいんですか?」

ユンギ
「当然だろ。俺のピアノじゃないんだし。
弾きたかったら自由に弾いていい。」

ジョングクが破顔し、噛んでいた爪を口から離した。

ユンギ
「座れ。何が弾きたい?」

ジョングク
「ピアノは弾けないんですけど…」

ジョングクが不慣れな手つきで鍵盤を押し、
ユンギはそんなジョングクを見守りながら1つ1つ音を
教えていった。

ーーー

ソクジン
「理由もないのに弾かせたわけじゃないはずだ。」

いつの間にかジョングクの爪を噛む行為が止まっていた。

ソクジン
「意味もなくピアノを弾かせたわけじゃない。」

それはジョングクのために言ったんだ。

俺は写真が入っている箱をもう一度開けてみた。
どの写真を見ようか?

《選択肢》
①教室で撮影した集合写真。
②テヒョンとジミンの写真。
③ツースターバーガーで。

【パターン①:教室で撮影した集合写真。】

俺は教室で撮影した集合写真を撮り出した。

ユンギは一歩後ろに下がって
窓際にもたれかかっていたが、
カメラを見ずに別の場所へ視線を向けていた。

他の写真も見てみようか?

【パターン②:テヒョンとジミンの写真。】

テヒョンとジミンがカメラに向かって笑顔を
浮かべている写真だ。

写真の片隅でユンギが腕を組んで立っていた。

ソクジン
「カメラを見ないのは相変わらずだな。」

他の写真も見てみようか?

【パターン③:ツースターバーガーで。】

ホソクが働いているツースターバーガーに
遊びに行った時の写真だ。

制服を着たホソクの周りにみんな集まって
一緒に撮った写真。

俺も笑顔を浮かべていた。

ユンギは…

かすかに笑みを浮かべていたが、視線は他の場所へ
向けられていた。

他の写真も見てみようか?

《選択肢》
①見る。
②見ない。

【パターン①:見る。】

どの写真をみようか?

《選択肢》
①教室で撮影した集合写真。
①テヒョンとジミンの写真。
①ツースターバーガーで。   ⇒繰り返し

【パターン②:見ない。】

混乱していた頭が冷静になってきた。
写真の中のユンギは…

《選択肢》
②常に一歩後ろに立っていた。
②カメラを見ていなかった。

【パターン①:常に一歩後ろに立っていた。】

常に一歩後ろに立っていたユンギ。

そのため、仲間外れにされていると思ったことがあった。
近付きにくいと思ったこともあった。

しかし、一歩後ろでユンギが見つめていたのは…

一緒にいる俺たちだった。

【パターン②:カメラを見ていなかった。】

ユンギは常に他人から目を背けようとしていると
思っていた。

写真の中ではいつも他の場所を見ていたから。

でもようやく分かった。ユンギが見ていたのは
他の場所ではなく、

一緒にいる俺たちだった。

一緒にいる俺たちだった。

考えてみればユンギは…
俺たちのことをよく分かっていた。

なぜなら…

《選択肢》
①ジョングクに対してあんな行動を取ったり…
②俺の本心を見抜いたのだから。

【パターン①:ジョングクに対してあんな行動を取ったり…】

ジョングクの爪を噛む癖。

ユンギはその癖を指摘せずに
ピアノを弾かせることでやめさせた。

ソクジン
「ジョングクのことをよく分かってるからこそできたんだ。」

ユンギが本当に無関心で何も気にしていなかったのなら、
あんな行動をするはずがなかった。

ユンギは無関心ではなかった。

【パターン②:俺の本心を見抜いたのだから。】

俺が心から笑っていないことに誰か気付いただろうか?

数年ぶりに再会した俺が本心を隠していることも
ユンギはすぐに見抜いた。

ソクジン
「それだけ俺のことを見てきたから
よく分かってるってことだろう。」

ユンギは無関心ではなかった。

ユンギは無関心ではなかった。
むしろ俺たち全員のことを見ていたのだ。

そしてユンギも間違いなく…

ーーー

ホソク
「兄さんならと・く・べ・つ・に!
試験なしで入部を許可しますよ。」

テヒョン
「兄さん、ユンギ兄さんに部長の言うことを聞けって
パワハラしてませんか?」

ホソク
「あれ、バレた?」

ユンギ
「またふざけてるのか。」

ーーー

ソクジン
「一緒にいる時は笑うことができた。」

全てを諦めようとするユンギを
これ以上引き留められないと思っていた。

ユンギは誰にも心を開かない。
だからユンギの気持ちを理解するのは不可能に
見えたからだ。

でもユンギを笑顔にした俺たちなら…

ソクジン
「ユンギを救えるんじゃないだろうか。
…いや、救えるはずだ。」

必ず救い出す。俺たちが一緒にいれば…
笑い合えるから。

〈Episode 6. End〉


7.1人ではない理由

”毎日のようにユンギに会いに行くソクジン。今度こそユンギを救えるかに見えた。”

22年4月22日

その日以降、俺は毎日ユンギのもとを訪れた。

ソクジン
「ユンギ。」

ユンギ
「また来たんですか?」

ソクジン
「またって何だよ。兄さんは悲しいぞ。」

ユンギ
「兄さん大学生なんでしょ。
大学生ってそんなに暇なんですか?」

ソクジン
「兄さんだってこう見えて忙しいんだ。
お前に会うために時間を割いてるんだよ。」

ユンギは面倒そうにしながらも
俺を追い返そうとはしなかった。

少しずつ会話も増えていき、共に過ごす時間にも
慣れていった。

ソクジン
「このまま無事に済んでくれれば…」

今度こそユンギを救えるという希望が見えてきた。

22年4月24日

ところが、近くで見守っていたユンギの生活は酒と徘徊
だけだった。

以前のようにピアノを弾くこともなく、
曲を作ることもなかった。

作業室を訪れてユンギの気持ちを
なだめるのも意味がないように思えた。

悩んだ末に、俺はプレハブ教室で見つけた
楽譜を見せることにした。

ソクジン
「この文章覚えてるかな?これを見てまた作曲を
再開してくれるといいんだけどな。

ユンギ、ほら。」

ユンギ
「何ですか?」

俺は持ってきた楽譜をユンギに差し出した。

ユンギ
「これは…」

20年6月25日

退学が通知された日。

俺はプレハブ教室を目指して一心不乱に走った。

そして誰もいないその場所で
狂ったようにピアノを弾いた。

ユンギ
「……」

よく分からない怒りは一向に鎮まらなかった。

俺はかばんから楽譜を取り出し、
ピアノの中に押し込んだ。

ユンギ
「……」

そして誓った。もう二度とピアノを弾かないと。

ユンギ
「どこで見つけたんですか?」

今度はどこで間違えたんだろうか。
楽譜を見せたユンギの表情は冷たく固まっていた。

ソクジン
「何日か前に学校に行ったんだ。
ピアノの下で…」

ユンギ
「あそこを見つけたんですか?」

ソクジン
「たまたまな。お前の楽譜だろ?」

ユンギの手から落ちた楽譜が床に広がった。

ユンギは険しい表情で俺に言った。

ユンギ
「帰ってください。」

ソクジン
「え?
ユンギ、突然どうした?」

ユンギ
「早く帰ってください。」

ソクジン
「そんなこと言わずにちゃんと話そう。」

ユンギ
「話すことなんかないです。」

それ以降、ユンギは俺のことを避けるようになった。

22年4月25日

ソクジン
「頼むから出てくれ。」

何度目の電話だろうか。

作業室には破れた楽譜と酒瓶が散在していた。
肝心のユンギの姿がなかった。

ソクジン
「俺が間違ってたのか?
うかつに接近してしまったから?

どうすればいいんだよ!」

ーーー

ユンギ
「早く帰ってください。
話すことなんかないです。」

ーーー

ソクジン
「まさかそんなことはないだろう。そんなことは…」

俺は不吉な予感を必死に振り払って記憶を探った。

ソクジン
「この前… ユンギはどこに行ったんだ?」

ユンギの後を追っていたら誰かとぶつかって…

ソクジン
「確信はないけど…
…行ってみるしかないな。」

俺は記憶を頼りに急いで駆け出した。

ソクジン
「何階だった?思い出せ… 早く!」

心臓は破裂しそうなほど拍動しており、冷や汗も流れた。

ソクジン
「最上階じゃなかった。2階だったっけ?
いや、もう少し上だった気がする…」

俺は一気に3階まで駆け上がったが、
廊下に並んだ扉を見て気が遠くなりそうな感覚に陥った。

ソクジン
「どうやってユンギがいる部屋を見つけ出そう?」

《選択肢》
①ユンギの名前を呼ぶ。
②他の方法を考える。

【パターン①:ユンギの名前を呼ぶ。】

ソクジン
「ユンギ!」

俺は並んだ扉を叩きながら大声でユンギの名を呼んだ。

ユンギが扉を開けて出てきてくれると期待していた
わけではなかった。

逆に開かない扉を探さなければならなかった。

ソクジン
「ユンギ!」

壊れそうな勢いで俺がノブを回すと、

「何だよ!?」

ユンギではない誰かの声が聞こえた。

ソクジン
「この部屋じゃない。」

そうして他の部屋も確認していき、
俺は最後の部屋の前に立った。

ソクジン
「どうか間に合ってくれ!」

俺は消火器を持って鍵のかかった扉をこじ開けた。

ソクジン
「ユンギ!」

ところが、部屋には誰もいなかった。

ソクジン
「そんな…」

【パターン②:他の方法を考える。】

1階に下りて受付に聞いてみるか?
大声で名前を呼んでみるか?

ソクジン
「いや、1部屋ずつ確認してたら手遅れになる。」

他の方法を考える必要があった。

考えに耽りながら廊下を歩き回っていた俺は
消火器を目にした。

俺は躊躇せずに火災報知機の非常ベルを鳴らした。

「何だ!?」
「火事か!?」

大勢の人が部屋から飛び出してきた。

ソクジン
「1階に避難してください!」

俺は通り過ぎる人々の顔を素早く確認したが、
ユンギの姿はなかった。

扉が開いていない部屋のうち、俺は廊下の奥にある部屋に
目を向けた。

ソクジン
「……」

見慣れた場所だった。

ソクジン
「あそこだ… 過去のループでユンギがいた場所…!
ユンギ!」

俺は隅に置かれていた消火器でドアノブを数回叩いた。

ソクジン
「どうか間に合ってくれ…!
ユン… ギ?」

部屋には誰もいなかった。

ソクジン
「そんな…」

ソクジン
「そんな…」

今回はここじゃないのか?

ソクジン
「一体どこで間違えた?」

楽譜を渡したことか?それとも俺が介入したせい?

また何かを間違えたと直感したが、
やはり原因は分からなかった。

ソクジン
「もう少し詳しく調べるべきだった。くそ…

ユンギの事故は場所も時間も毎回
違うってことを知りながら…」

俺が後悔していたその時だった。

「火事だ!!」

誰かの叫び声が響き、向かいのモーテルから
火の手が上がった。

ソクジン
「そんな… 嘘だろ…」

どうすればこの悲劇を食い止められるのだろうか。

ソクジン
「やっぱり俺の力じゃ無理なのか?」

どこからかガラスが割れる音が聞こえてきた。

〈The End〉



ーーー


お疲れ様です。

ゲームアプリ内の展開に沿ってジョングク、ユンギがメインとなるエピソードを書き起こしました。全51話のエピソードを3つの記事で投稿したかったので、当初の予定では第二弾でジミンのエピソードまで行くつもりだったんですが、現時点でまさかの4万字超え(!)のため一旦区切ります。


次回の記事ではジミン、ホソクがメインとなるエピソードを書き起こします。



〈次回〉

※更新はTwitter(@aya_hyyh)でもお知らせします。

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ありがとうございます💘