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フランスから、食関連ニュース 2020.10.07

今週のひとこと

4年前に出版した「パリ、カウンターでご飯」でも紹介した、パリのマレ地区にある篠塚大シェフのビストロ「レ・ザンファン・ルージュ」で久々の食事を楽しんできました。「パリ、カウンターでご飯」の出版の際には、篠塚シェフと、また彼の師でもあり、ビストロノミーというムーブメントを起こした立役者イヴ・カンドボルドシエフとともに連れ立ち、日本で出版記念パーティーを代官山「蔦屋」と神保町「サカキラボ」で開催。お世話になったカメラマンの吉田タイスケさん、デザイナーの那須彩子さんのご協力もいただいて、参加してくださった方々とともに過ごしたひとときは、貴重な思い出として心に残っています。

篠塚シェフは、「レ・ザンファン・ルージュ」をオープンしてすでに7年になります。ロックダウン後、この9月から、居抜きで受け継いだテーブルと椅子を買い換えて、ゆったりと落ち着いて食事のできる雰囲気へとプチリニューアルを図りました。年齢層も高く、食通の常連客が多い。今までは観光客も多かったが、常連の彼らに末長く愛される店作りへと、なかなか厳しい時期だからこその小さな挑戦を仕掛けています。篠塚シェフの料理が個人的に好きな理由は、小さなこだわりのエレガンスといったらいいか。例えば、今回いただいた鴨の一皿で、付け合わせのビーツだけにほんのりとスモークをかけている。鴨肉そのものに思い切りスモークをかけてしまうという料理が多い中、その仄かさが後をひくというか、着物の裏地にこだわるような日本的な奥ゆかしさと、しかし絶対的な存在感のある粋。

以下、今週のトピックスは、今週のひとことの後に記載しています。【A】アラン・デュカスによる3ツ星コンセプト「ナチュラリテ」がデリバリー事業に。【B】シャンゼリゼ大通りに、全460席のルーフトップレストランがオープン。【C】「Best Vegetable Restaurants 2020」トップ100の発表。日本のレストランも6軒がランクイン。【D】仏ミシュラン2021年版デジタル出版? イベントは2022年に持ち越し。【E】ピエール・ガニエール氏の本拠地、複数アーティストのインテリアでリニューアルオープン。

最後に残っていた食通らしきお客の一人が、カウンターで支払いをするときに、篠塚シェフに、先週、SNSの中傷により、命を自ら絶った関根拓シェフの悲劇について、知っているかと一言。先週から、料理に興味のある人、ない人、あらゆる人々から、私自身何度この質問を受けたことか。インターネットでは主要メディアの第一面にも取り上げられたという、この衝撃的な状況を私としてどのように整理し、いちジャーナリストとして考えを述べるか、あるいは、その必要はないのか、今でも心が右へ左へと動いています。また、関根シェフを、あるイベントで抜擢したことがきっかけになって以来、彼自身が著名になっていったというプロセスを、結局は遠くから見守る立ち位置を選んだ自分がいるということも含めて。

第四の権力とも言われるジャーナリズム、メディア。しかし、権力だけが一人歩きをして、発信する側も、される側も影響力にあぐらをかいている、あるいは影響力におもねる、そうしたあり方には、流されることなく、常に批判的でありたい。また、感情や思惑が動かす瞬発力による発信ではなく、時間をかけて吟味し見極めて、文章を紡ぐあり方を選びたいと強く再確認をした事件でした。3つ星シェフのヤニック・アレノ氏に、これからもっとも貴重なものはなんだと思う?と聞かれたときに、迷っていると、「自分は時間をかけることだと思う」と答えてくれた、その一言が深く心に残っています。ただただ時間をかければよいというわけではありませんが、時間の貴重さに気づくことが第一歩。レストランは、そういう時間をいただける場所のひとつ、のはずだと信じています。

「レ・ザンファン・ルージュ」の突き出しに出てきた、フォアグラも絶品でした。トーストしたババの生地に乗せた絶妙な食感。豚の耳とヴォライユをプレスして作ったテリーヌのコントラストの美しさにも脱帽。そのとき限りではない、前後に流れる豊かな時間を感じます。


今週のトピックス

【A】アラン・デュカスによる3ツ星コンセプト「ナチュラリテ」がデリバリー事業に。

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