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潰瘍性大腸炎の治療のゴールって何だろう?お医者さんと患者さんのすれ違い。(粘膜治癒と組織学的治癒)

1.潰瘍性大腸炎の治療のゴールって何でしょうか?

炎症性腸疾患の治療や、病気との付き合い方について医師と患者のギャップを示したGAPPS survey1)という、アメリカの研究があります。この研究では、潰瘍性大腸炎治療のゴールとして、医師の15%が重要視している「内視鏡的組織学的治癒」を、同様に治療のゴールと考えている患者さんは3%しかいません。同じ論文の中で、「粘膜治癒」という言葉を知っている患者さんは潰瘍性大腸炎で36%に過ぎなかったことが示されています。一方で、患者さんたちが、「病気が悪くならないこと」「生活の質の向上」「症状の改善」「できるだけ再燃しないこと」をゴールと考えていることがわかります。

潰瘍性大腸炎の治療のゴール Inflamm Bowel Dis. 2021 Nov 15;27(12):1942-1953.より引用

一方で「生活の質に関するゴール」についても、お医者さんの想いと実際の患者さんの気持ちにずれがあります。 
お医者さん達が、患者さんが「学校や仕事にもっと参加できるようになる事」をゴールと考えているのに対して、患者さんたちは、「精神的に落ち着くこと」「おうちの事をもっとやりたい」「旅行にいきたい」などプライベートの充実をゴールと考えているようです。(もちろん人による)

QOL(生活の質)に関するゴール Inflamm Bowel Dis. 2021 Nov 15;27(12):1942-1953より引用

患者さんと医師では、一見、めざすゴールが違うようにも思えます。でも、ほんとは、目指しているところは同じなんです。ただ、ゴールの共有ができていない可能性ような気がします。ということで、粘膜治癒と組織学的治癒について書いてみます(前置きが長かった・・・)

2.粘膜治癒と組織学的治癒
以前バイオマーカー編でふれた STRIDEⅡ2)では、IBD(炎症性腸疾患)治療で目指す目標を粘膜治癒としています。組織学的治癒については、有用性に触れてはいますが、治療目標としては、諸事情(まだ厳しすぎるなど)から採用には至りませんでした。とはいえ、IBD治療において組織学的治癒の重要性は、治療にかかわるお医者さんの間では強く認識されてきています。平たく言うと、粘膜治癒、さらには組織学的治癒を達成できた患者さんの方が、長い期間、症状がない状態を保つことができて、再燃(病気が悪くなる事)のリスクを減らすことができるということが知られています。つまり、患者さんのねがいである「できるだけ良い状態を長く保つこと」「再燃を防ぐこと」は、粘膜治癒や組織学的治癒を目指すことで達成できる。ということになります。

ここで言葉の整理ですが、おおらかに書くと
粘膜治癒:内視鏡検査をして、粘膜に炎症がない状態のこと
組織学的治癒:病理の検査(粘膜を採取して、それを顕微鏡で見る検査)で炎症がない状態のこと 
となります。
 いろんな基準が使われますが、内視鏡的な評価に関してはMES(Mayo Endoscopic score:メイヨー内視鏡スコア)が使われる事が多いです(他にも色々ある)。MESは0から3までの4段階あり、数が増えるほど重症度が高くなります。MES0は粘膜が完全にきれいな状態、MES1はうっすら赤みがあったり、ちょっとむくんでる(軽度の血管透見性の消失)などはあるもののおおむね落ち着いている状態です。現状では、「粘膜治癒」をMES0か1と定義する事が多いですが、より厳しくMES0を目指す方が経過が良いことが知られてきています。

粘膜治癒について少し詳しく書きます。
2016年に出された文献(メタアナリシス)3)によると、粘膜治癒(この文献ではMES1と定義、つまり、ほんのちょっと赤みがあったりするのはOKとしてます)を達成した患者さんで、長期(少なくとも52週間後)の臨床的寛解(症状がない状態)を達成するためのプールオッズ比が4.50(95%信頼区間[CI]、2.12-9.52)となっています。つまり、1年以上落ち着いた状態を維持できた患者さんが、粘膜治癒を達成できなかった患者さんより明らかに多かった。ということになります。2020年に出版された別のメタアナリシス4)では、さらに条件を厳しくして、粘膜治癒の定義をMES0(炎症が全くない状態)にしていますが、MES1(ちょっと赤みなどがある状態) の患者さんと比較して、臨床的再発のリスクが52%低いという結果でした(相対リスク 0.48;95%CI、0.37-0.62)。つまり、炎症が全くない状態を目指せば、より再燃のリスクが低くなります。ちなみに、興味のある方のために、さらに細かく補足しますと、MES 1の患者における12ヵ月間の臨床的再燃リスクの中央値は28.7%で、MES 0の患者における臨床的再燃の推定年間リスクは13.7%(95%CI、10.6~17.9)でした。

次に組織学的治癒です。(長くなってきてごめんなさい)こちらも、先ほど述べた2020年のメタアナリシス4)では、MES0(粘膜に炎症が全くない状態)で、かつ組織学的に炎症がない(病理の検査で炎症がない)患者さんでは、おなじMES0だけど病理の検査で炎症が残っている患者さんに対して臨床的再燃のリスクが63%低かったです(相対リスク 0.37;95%CI、0.24-0.56)。ちなみに、組織学的寛解を達成した患者さんの臨床的再燃の推定年間リスクは5.0%(95%CI、3.3-7.7)でした。

長く長くなりましたが、結論は、できるだけながく、良い状態を保つためにも、お医者さんと一緒に、「粘膜治癒」「組織学的治癒」を目指しましょう!そのために、大変だけども、調子がいい時もお薬を忘れずに飲んだり、また、定期的な内視鏡は頑張って受けてくださいね(*´ω`*)一緒にがんばりましょうね(*´ω`*)

参考文献
1)Rubin DT et al ; International Perspectives on Management of Inflammatory Bowel Disease: Opinion Differences and Similarities Between Patients and Physicians From the IBD GAPPS Survey. Inflamm Bowel Dis. 2021 Nov 15;27(12):1942-1953.
2)Turner D et al; International Organization for the Study of IBD. STRIDE-II: An Update on the Selecting Therapeutic Targets in Inflammatory Bowel Disease (STRIDE) Initiative of the International Organization for the Study of IBD (IOIBD): Determining Therapeutic Goals for Treat-to-Target strategies in IBD. Gastroenterology. 2021 Apr;160(5):1570-1583.
3)Shah SC et al: Mucosal Healing Is Associated With Improved Long-term Outcomes of Patients With Ulcerative Colitis: A Systematic Review and Meta-analysis. Clin Gastroenterol Hepatol. 2016 Sep;14(9):1245-1255.e8.
4)Yoon H et al :Incremental Benefit of Achieving Endoscopic and Histologic Remission in Patients With Ulcerative Colitis: A Systematic Review and Meta-Analysis. Gastroenterology. 2020 Oct;159(4):1262-1275.e7.

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