好きになったら

私今、何してるんだろう。

恭弥が、頼んでくるもんだから、ついつい、へんなポーズで、写真撮られてる。

カメラマンの、職業病じゃない?
にしても、やっと会えたと思ったら、こんな、へんなポーズばかりとれって、命令してくる、そう。

さっきは流石にブチ切れたのよね。いつも命令口調なんだもの。
何様のつもりよって感じだわ。

「佳歩、もう少し前のめりに、ない胸が、実にいいぞ、邪魔がない」

「うるさいわね!
もう撮ったでしょ!
もう辞める!」

「おい!佳歩!」

恭弥ったら、もう。
私が胸小さい事、気にしてるの知ってるのに。

それで、、、、最近しないのかな。

仕事が忙しいとか言ってるけど、私に、魅力が無いせい?

ああ、なんか落ち込む。ー

「先輩、どうしたんすか、その顔、ヤバいッスよ!」

可愛い、会社の後輩の、涼子との喫茶店。

「ええ、実はー」

今までの事の顛末を話す。
恭弥が仕事で忙しく、なかなか会えないこと。
会えば折角の時間を、変な撮影で終わらせること。
最近、してない事。
というか、キスすらしてない。
触れも、してない。


「それって、やばいんじゃないっすか?!
いくら忙しくても、チューぐらいはするっしょ?!」

「だよねー」

「もしかして、他に女がいるんじゃ?」

「あんな恭弥に女ってつくかな?」

「恭弥さん、性格はともかく、イケメンしょー!
つきますって!」

「まさかー」

といいつつも、否定しきれない自分がいる。

「尾行行きましょ!尾行!」

「は?」

思わず、間の抜けた声が出た。

「変装して、行きますよ!
ほらほら!
こうしてる間にも、ヤバい事になってますって!」

「えーっ?!、、、うん」

後輩の強引さもあったけど、ほんのちょっとの疑いでも払拭したい。
そんな気持ちもあった。
それに、仕事してる恭弥って、どんなだろうって、見てみたいなって、思った。

「あそこっすよ!恭弥さん!」

止まってる車の陰から、サングラスに、マスク、この真夏の暑い中、トレンチコート、スカーフの頭巾で、覗き見る女二人。

怪しい事この上ない。

と言うか、暑い。

「これが尾行っしょ!」

「うん、尾行だね」

後輩のテンションに、ついていけない私。

ほんと私、何をしてるんだか。

かれこれ1時間、恭弥を張り込んでるけど、何も、ない。


「何もないよ。もう行こう涼子。暑い。」

促すと、

「いやー、何かあると思うんすけどねー」

って言うもんだから、

「恭弥、真面目に仕事してるじゃん。
私、そういう、恭弥、、、、、悔しいけど、好きなんだよね。」

って言ったら、

「佳歩さん泣かせたら、マジおこッスよ!」

って、言ってたら、


恭弥の隣に、目の覚めるような真紅のドレスを着た、金の長い髪をたくしあげて近づく、女性でも見惚れる、身体のラインが完璧な美女が近づいて行く。

ハグを求める彼女に、恭弥が、ハグをする。

「なんすか、あの女!
てか、恭弥さん何してんすか?」


「外人さんなんじゃないかな?
ハーフとか!
クォーターとか!」

まるで、自分に言い聞かせる様にそう言った。

そして、これからどうなるのか、見たい様な見たくないような、そんな複雑な気持ちが、自分の中で、ぐるぐる回っていた。


ただただ、嫌な予感だけが、どんどん膨らんでいった。


「ほら、あっちにいきますよ!」

涼子が指差した先は歓楽街。

「え」

小さく、搾られる様な声が出た。
そして、

「あ、あいつ!、、、恭弥!
あ、恭弥さん。許せないっす!
シバキに行きますんで!」

とうとう、決定的な

「あの女とラブホ入るとか!ありえないっス!!!!!」

証拠が。


「っ、、いいのっ、平気、大丈夫だから、行こう!涼子!」

なんとか、涙を堪える。

今は、これを、誰にも見せたくない。

「でも、恭弥さんが、、」

「ちょっと、先に、、、帰るわ。
ごめん、涼子。」

そう言うのが、精一杯だった。

急いで家に帰ると、今までの色んな思い出がこみ上げできて、嗚咽をするように泣き始めた。

それだけ、恭弥の事を信じていたのだと、自分の中で、再確認しながら。

しばらくして、恭弥から、電話があった。

怒る気にも、泣く気にもなれず、呆然とその、お気に入りだった着信音を聞いていた。

どれだけたっただろう。

気づけば日もくれ、涼子のLINEに目を通した。

(先輩!あの女の住所、分かりましたよ!送ります→URL)

(恭弥さんぶっとばしますか?)

(私がついてます!)

涼子の行動は、少し度が超えているけど、少し救われた気がした。

そして、涼子が敵じゃなくて良かったと心底思った。

次の日、恭弥を問いただす為に、恭弥に会うことにした。
別れることも、決意しようと、思いながら。ー

その場は、夏祭りだった。

「ねぇ、恭弥、恭弥はやっぱり胸の大きい人がいいの?」

「は?何言ってんだ?こんな所で。」

恭弥はリンゴ飴をなめながら、言った。

「恭弥は、私と5年、付き合ってきたよね。それ、どう思う?」

「おお、まあ、長いよな。」

「恭弥、この浴衣、着てきたけど、似合ってると思う?」

「ま、いんじゃないか?馬子にも衣装だ。」

「馬子にも衣装って」

いつもの、恭弥で、昨日の恭弥は、嘘みたいだった。

「今日は、無理して空けたんだ。夏祭りだからって、お前が言うから。これで分かるだろ?」

「うん、恭、、」

「仕事で忙しいんだ。分かるだろ?」

何かがプチッと切れた。
昨日見た、恭弥がハッと思い浮かんだ。

「じゃあ、昨日は、何してたの?」

「仕事に決まってるだろ」

「見たのよ私!」

「、、、見た?」

目を見張る恭弥。

落ちるリンゴ飴。

「金髪の美女と、入っていくの!」

泣きたい気持ちを抑える。

「佳歩!こんな所でそういう事、」

「私は信じてた!恭弥を、信じてた!」

「佳歩、聞いてくれ、あれは」

「なんなのよ!言い逃れ、出来ないでしょ?!」

「佳歩!」

「もう、いい。私はあんな人に、かないっこないから。」

「違う、佳歩」

「何が、、、ぁ」

恭弥が私を抱きしめる。

「佳歩」

でも、昨日、美女とハグしてたのと重なって、恭弥は、こんなの、挨拶代わりに誰にでもするんでしょって言葉を飲み込んだら、余計に涙が溢れてきて、その後、美女とした事も、私とはしないくせにって思って。

もう、頭の中がいっぱいいっぱいになって、涙が頬を伝った。

「もう、いいよ、、、別れる」

気づけば、恭弥を押して、駆け出していた。

涙よ止まれ。

涙よ止まれ。

と、

思いながら。

ぐしゃぐしゃになった顔を、百貨店のガラス越しに見て、酷いなって思って苦笑した。

ああ、こんなに胸が痛いのなら、神様どうか、恭弥と出会う前に戻して下さい。

そんな事を考えながら、とぼとぼと家に向かった。

次の日、

また、恭弥から電話があった。

出るなんて、ありえない。

もう、恭弥の携帯の登録も消そうと思っていたけど、まだ未練タラタラで、とても出来なかった。

こんな自分が、心底情けなく思った。

少し気分転換でもして、恭弥に、別れるって、言おう。

そう思って、外に出た。

無気力になろうとしている心を、ぐっと奮い立たせて、オシャレして。

それでも、無意識に選んだのは、恭弥に褒められた服装だった。

ああ、余計にへこんでくる。
私って、バカ。

「ねぇ、おねえさん、可愛いね!
ちょっと俺達と遊ばない?」

チャラチャラした感じのお兄さん2人が、近付いてくる。

「いえ、、、人を待たせてるので」

後ずさる私。

「そんな事言わずに~、楽しもうよ~お願い~」

しつこいなぁ、こんな泣きそうな時に。
神様、私は何かしましたか?

「すみませんっ!!!」

振り切ろうとして、肩を掴まれた。

「お願いって言ってるよね?」

もう一人のお兄さんに腕を掴まれる。

「ね、ちょっとだけ」

何この人達、タチ悪い。

「やめてくださいっ!」

振り切ろうとして、お酒の臭いがした。
白昼堂々と飲んでるんだ、この人達!

「離さないよーっ」

振り切ろうとするけど、やっぱり、男の人って、力が強い、、、
嫌だ、、、

「やめ、、、っ」

「ぎゃああああ!!!」

「う、うわあああぁっ!!!」

一瞬、何が起こったか、分からなかった。

「かよわい女の子に、アンタ達、何してんのよ!」

あの2人の男達が、投げ飛ばされていた。

見上げると、

あの、

恭弥といた、

金髪美女!

「こんの、バカ力女!」

「おい、この女めちゃくちゃレベルたけーぞ!」

「マジだ!」

すると、金髪美女は、髪をかきあげ、

「アンタ達と遊ぶなんて、私は根っからゴメンだわ!
ハイヒールで踏み潰されない内に、退散なさい!」

「くっそ、覚えとけよ!」

男2人は、よろめきながら、視界から消えて行った。

「大丈夫?可愛い子猫ちゃん」

ポカンとしていた私は、ふと我に返った。

「私は、あなたに感謝しませんよ?私の、、、敵ですから!」

金髪美女を、キッと睨むと、
金髪美女は、目を点にして、

「はぁ?!」

と、不思議そうに、私を見つめた。

それから、奇妙に出会った、金髪美女と私の関係が始まった。


私は、それから、走っていた。

LINEで、恭弥から、
(今日、レイトショーがあるから、見に来い。
好きな映画を、佳歩にも見て欲しい。)
とあった。

急いで、走っている。

恭弥から、LINEや電話が、ひっきりなしに入っている。

全然気づかなかった。

恭弥は、時々、こちらの予定に構わず、予定を押し通して来るところがあるから、やめて欲しい。

それも、今日言おう。

それと、

今日、言わなければ、いけない。

すごく悩んで、やっと決心した。

それは、

レイトショーが終わってから。

「恭弥!」

「佳歩!早く!こっちだ!」

流れたのは、


私と、恭弥で撮った


写真達。


「レイトショーじゃな、、、」


「最後まで、黙って見ろ」

「ええっと?」


W

i

l

l


ああ、私の身体と、壁に書いた絵で、文字を作っていたんだ!

全部繋げると、、、


「あ、」


涙が溢れてきて、急いで擦って、画像を追う。

全部、繋げると、英語は、

Will you marry me?


意味は

結婚してくれませんか?


その画像が流れて終わると、

「佳歩、俺は正直、こんなんだ。
また、佳歩をこれからも泣かせる事もあるかもしれない。
でも佳歩、お前が、泣くのは嫌だ。
笑ってる佳歩を、守りたい。ずっとだ。」

言いたい事はいっぱいある。

でも、今は、、

「佳歩、これが俺の気持ちだ。」

恭弥が、私を抱きしめる。
そうすると、もう、何もかも今までの苦悩が、


「ハアハア、ち、ちょっと、恭弥、子猫ちゃんに、なんにも言ってなかったの?!」

さっき話していた、金髪美女、いや、真希さんが来た。

「真希、今いい所だから。」

「じゃないわよ!もう!
私が男だって、言ってなかったでしょうが!」

「まさか、見られるとは。」

「まさかに備えなさいな。
ほんっと、仕事の事になると、他に目が行かなくなるんだから!
オカマでも美しくが、テーマで、より、リアリティを出す為に、ラブホ入ったんでしょーが!!!」

「佳歩にすまない事をした。」

「ううん、いいの。
真希さんから、直接聞いたし。
偶然。
でも、それが無かったら、ここにも来なかったし。」

「俺は、寸での所で助けられてるのか」

「そう」

「佳歩、怒ってるのか?」

「前までは少しね。でも、今は違う。恭弥が、この動画、見せてくれる前から、私の決心はついてた。」


「佳歩、それって?」


恭弥が、まじまじと私を見る。


「しっかりしなさいよ恭弥!
男を魅せなさいな。
じゃあ、またね!子猫ちゃん!」

真希さんが颯爽と出ていく。

「佳歩」

私の両肩を掴むと、恭弥が、一つ一つ、噛み締めるように言った。

「俺は、まだ、何もかも中途半端だ!
仕事もまだ全然成果を上げてない。
仕事が軌道に載って、有名になってから、、って思ってたのに、佳歩の事を考えると、他の誰かにとられやしないかとか考えて、めちゃくちゃ、焦る。
だから、佳歩を、繋ぎ止めておきたいって、ずっと思ってた!」

恭弥が、今までに無い、真剣な眼差しで、こちらを見る。

「恭弥、、、」

「佳歩、お前は俺の原動力なんだ。お前がいなくちゃ、俺はダメになっちまうんだ。
仕事は情熱を持ってやってる。
仕事は、生きがいだ。
でも、それ以上に、お前を失いたくない!でも俺は、まだまだ未熟で、今日も、お前を傷つけてしまった。
だから、ついて来いとは言えない。
ただ、俺のそばに、一緒にいて欲しい!」


そして、恭弥が、ゆっくりとひざまづく。
そして、眩しいほど煌めく指輪を、私に差し出した。


「これを、受け取って欲しい、佳歩!」


「恭弥、、、」

こうやって、しっかりお互い見つめ合うのは、何ヶ月ぶりだろう。

「恭弥、今更、恭弥が中途半端とか言うの?
恭弥が未熟とか、ハナっから分かってるわよ。
人は、何かの為に生きてるって、私、思うの。
それが恭弥にとって私だって言うのなら、私は喜んで恭弥と一緒に居るよ!」

「佳歩!」

「これが、私が真希さんに出会って話を聞いて、それから付き合ってから今までの気持ちを整理して、恭弥に、伝えようと決めてた事!
恭弥は、私がいないと、だめなんだから!」

涙で、ぐしゃぐしゃで、恭弥の顔も、見えなくなってきた。


「そうだな、佳歩」


恭弥が照れくさそうに笑う。
それを見て、胸が熱い気持ちで満たされてきた。


「恭弥!私、恭弥の事、愛してる!」


指輪を持っている、恭弥ごと、抱きしめる。

ああ、どれほどこんな時を待っていただろう。

夢じゃないかな。

夢だったらどうしよう。

なんて考える。


「佳歩!おい!指輪!」


慌てふためく恭弥を横目に、私は、幸福の絶頂に浸りながら、これから、ご主人様となるひとを、ただただ、愛おしく思うのだった。

それから、5年後、ー


「まっさか、恭弥が世界的に有名なカメラマンになるとはねー」

「芸術って、私、分からないです。理系なんで。」

あの事件から、真希さんとは、すっかり仲良くなって、一緒にカフェなんかも行くようになっていた。

「それにしても、佳歩ちゃん、ものすごく綺麗よ!まるでシンデレラの様!」

「普段はこき使われてますからね、上司に。あはは。」

「佳歩ちゃんにパワハラしたら、アタシがハイヒールでグリグリしてやるから、いつでも言ってね!」

「真希さん、冗談に聞こえませんよ」

「あ、佳歩ちゃんには、涼子ちゃんが居たっけ。あの子、よく手なずけたわね。昔、族の頭だったのよ。」

「マジですか!」

涼子、恐るべし!

「話変わっちゃったけど、佳歩ちゃんくらい可愛かったら、恭弥には勿体ないわ~ぁ。
恭弥なんかとサッサと分かれて私と付き合いましょ~!
私、両刀なのよ~オトコも、オンナも、いけるの」

「えっ!えええ~!?」

こんな時にカミングアウト?!

「絵づら的にも綺麗だわ~うふふ」

私が後ずさる。

「いえ!今日は恭弥と、愛を誓いあうので!」

「うふふ、冗談よ。
大丈夫、襲ったりなんか、下品な事しないわよ。
それにしても、遅いわね~貴方の旦那様」

すると、

「新郎様、困ります!お着替えがまだです!そこは、新婦様のお部屋ですから!」

って声がして、

「佳歩!すまん!飛行機が遅れ、、、」

まじまじと私を見る。

また、馬子にも衣装とか言うんでしょうね。

「綺麗だ。佳歩」

「、、、っ!」

思いがけない言葉に不意をつかれる。

「5年も待たせて、また、待たす気?!」

私の苦言が聞こえているのかどうなのか分からないほど、上機嫌そうに、恭弥が近づいてくる。

「え、っちょっ、、恭、、ん」

恭弥が私にキスをする。

「今日のお前の姿、誰にも見せたくねえ。」

「なっ、、、何言ってんの?!」

顔が瞬時にカァッっと赤くなる。

「これから、よろしくな、佳歩。」

恭弥が、ニッっと笑うと、赤い顔がもっと火照ってくる様で、これから式なのに、困る!

「っ、恭弥!!」

「あー熱い、熱い。アンタ達、見せつけてくれるわねー」

真希さんが言うと、

「これからは、遠慮しないからな、佳歩」

ニヤリとしながら、恭弥が笑う。

「もう!これだから恭弥は嫌なのよー!」

照れ隠しで叫んだ言葉は、会場中に響き渡ったという。

私は惚れた弱みか、これから恭弥に、それをつくづく思い知らされるんだなーぁと、思うのだった。

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