喫煙と体臭
「あ、人来てたんだ。ドウモ。」
14歳の頃、地元で仲の良いあずさの家に遊びに行ったら、彼女のお兄ちゃんが部屋に入ってきた。
4つ上なのでほとんど面識はないけど、地元じゃ名が知れていて、中学でもよくその名を耳にする。
いわゆる地元のヤンキーグループに所属していて、ちょっとお近づきになりにくい存在だ。
しかし、イケメン。ハッとするほど。あずさんち、お母さんがハーフなんだよね。シェリーさんって言って。
4人兄弟みんなキレイな二重で鼻すじがスッと通っていて、薄い唇。お兄ちゃんもあずさも、隣町の中学で話題になるほどモテていた。
お兄ちゃんが吸っていたセブンスターの煙が、部屋に漂う。
中学生女子が雑誌を見てきゃっきゃしていた空間に、なんだか急にオトナの空気が入り込んだように感じる。
私が初めて感じた、煙草への憧れ。
眠っていた記憶が、スモーキーな香りと共に蘇った。
そして、現在。
仕事を終えた私は、苦い表情で電車に揺られている。
原因はそう、煙草である。
博多からの最終電車は、必ず座席が埋まる。
私の隣に座った、おそらく50代のオジサン。
単刀直入に言う。クサイ。
こんなこと知らない人に対してごめんなさい、でも、本当に耐え難いのだ。
煙草と汗と、アルコールが入り混じった臭い。
シケモクに、何十回も使い回して酸化しまくった油を注いだみたいな感じ。
まあそれはさすがに言い過ぎだけど、隣に座る非喫煙者の私にとってはそのくらいに不快だったのだ。
私の家の最寄り駅までは、30分弱。ああもう、長い。思考が持っていかれる。
このオジサンも、14歳の私みたいに煙草に憧れを持って吸い始めたのかな。
石原裕次郎カッケー、煙草もカッケー、とかさ。
始めた理由は何にせよ、そのカッコイイと引き換えに、蓄積されていく代償が彼の体臭にしっかりと染み付いているのだ。
もう10年以上会っていない、あずさのお兄ちゃん。
クサイオジサンに片足をつっこんでいないことを、切に願います。