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female #007

茉優さん/20代/セラピスト

「自分とは異なるエネルギーの交換をしたい、それが一番の欲求かなと思います」

花束を持って、真っ白いワンピースを身につけて現れた茉優さんは、とても女性らしい魅力を持った、「ごく普通の女の子」に、見えた。
しかし、話を聞くにつれて、彼女が持つ独特の世界観に引き込まれていった。茉優さんの内包するエネルギーは温度が高く、お会いして数時間後には、とても情熱的で行動派な方だというイメージに変わっていた。


ピースボートに乗って世界一周の旅に出たり、帰ってきてからは農業に興味を持って自給自足の生活にチャレンジしてみたり。はたまた、ピースボートに乗っている間に知り合ったパートナーと一緒に山奥で民泊を経営してみたりと、「普通」に生活していては経験しない、いろいろなことにチャレンジしてきた茉優さん。
どのエピソードをとっても、一般的な生活を送る人にとっては少し勇気のいる行動のように思える。けれど、それを語る茉優さんの口調や仕草がとても自然だったので、聞いている私も実に当たり前のことのように受け止めてしまった。
きっと彼女にとっては、目の前で起こり、選びとってきたすべてのことが自然なことだったのだろう。



「それまでずっと男の人とお付き合いしてきたのに、そのとき初めてFtM(女性から男性)のトランスジェンダーの方とお付き合いしたんです。」
茉優さんはそんな風に、かつてのパートナーの方のお話を始めてくれた。
「ピースボートの出発前パーティーのようなものがあって、そこで自己紹介のような形で、参加者が一人一人前に出て大勢に向かって話す機会があったんです。
そのときに、『自分はトランスジェンダーです』ってカミングアウトしてる人がいて。しかも、それが初カミングアウトだったみたいで。それを見て、すごい!ってとても感動して。是非お話してみたいと思って、スピーチの後すぐに声をかけに行きました。」
大勢の前で、それまで誰にも秘密にしてきたことのカミングアウト。とても勇気が必要だったであろう行動は、茉優さんとパートナーの方を出会わせる1つの要因となったようだった。ピースボートに乗っている間など、しばらくは尊敬できる仲間としての関係だったという。


「実際にお付き合いしたのは日本に帰ってきてからですね。お付き合いしている間、やはり自分の性に悩むパートナーの姿をよく見ました。」
性自認が男性であるがゆえに、それまで排除しようとしてきた自分の女性性と、逆に向き合ってみよう、というテーマで一緒にインド旅行に行ったこともあった。そうして行動を共にする中で、茉優さんも色々考えることがあったという。
「女性性を取り入れようとするパートナーと一緒にいると、第三者からは、私たちのことは姉妹や友人関係にしか見てもらえなくて。それがすごく嫌だったのを覚えています。」
それが直接の原因ではなかったにしろ、徐々にうまく噛み合わなくなってしまい別れてしまった二人。一時期はお互いに全く連絡も取らない時期があったようだが、今は親友のような関係になっているという。
「結局私は、パートナーに対して『質の違うエネルギーの交換』を求めているんだと思います。今にして思えば、当時のパートナーが女性性を強く意識したことで、私にとってパートナーが『同質のもの』になってしまった。だからうまく行かなくなってしまったんだと思います。出会った頃、カミングアウトする姿に感動したのも、『自分にはないもの』だったから。自分と全然違うその姿に魅力を感じたんだと思います」


「昔からある夫婦の形、男性は外に出て仕事をしてお金を稼いで、女の人は家のことをやって、という形をとったときに、『お金を稼ぐからって偉いわけじゃない』『立場は対等なはずだ』って話がありますが、当たり前だよね、と思います。それは、家事が時給換算すると云々、みたいな話ではなくて、家にいる側は、お金とは別の、『質の違う価値』を提供している、ってことだと思うんです。家事だけじゃなく、帰る場所、待っている人のある安心感とか、そういう精神的なことも含めて、質の違うエネルギーがそこにちゃんとある。それを無視しちゃいけないと思います。」

もちろん、この話は男女逆にしても成立する。
「全く働かずに、いろんな女の人にお金を出してもらって生活している男性を知っています。その人は、バリバリ働いてる女の人の話をよく聞いてあげているみたいで。そういう精神的な癒しを男性に求めている女性とは、質の違うエネルギーの交換が成立していて、それも一つの形なんだと思います」


茉優さんの視点は、無理のない、「それぞれの自然な形」を受け入れようとする姿勢があるのを感じる。それは、茉優さんの言葉を借りると「円滑なエネルギーの循環」であるように思う。
エネルギーを受け止め、それをまた自分のエネルギーに変換して相手に返す。そんな循環の中でみんな生きているのかもしれない。それを素直にできないから、生きづらさを抱えてしまうのかもしれない。
無理をしたり、変に歪めたりせず、ただあるがまま受け取る。それを明確に意識しまっすぐに体現していくその姿に、夏の温度のような「女性性」を見た気がした。


2022年9月/茉優さん/photo&text: アベアヤカ

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