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先生、私を卒業させます(創作)2話

第2話 舞子、さすがにやりすぎです。

1話はこちら

どうも。私、青柳 陶子《あおやぎ とうこ》15歳。

ご興味あれば↑あちらをクリック。詳細は1話に。


土曜日の12時半。私は生徒会室で舞子と


お弁当を食べていた。


舞子とは。
同級生の木更 舞子《きさら まいこ》だ。
身長160センチ、漆黒の長い髪は艶めいている。
舞子は生徒会副会長。ちなみに私は書記。
バスケットボール部に所属している舞子が、
3ポイントを放つ時の横顔は至宝。
気の許せる友達である。

挿絵:微熱さん作




えっ?気の許せない友達っている? 愚問なり。
気の許せない友達も抱えて、悶絶するのが15歳。以後、お見知り置きを。

まあ、だから舞子は私にとっては憩いであり、
ご機嫌なパートナーである。


今日の舞子のお弁当はサンドイッチだった。
ふわふわのパンにレタス、ベーコン、クリームチーズ、トマトが挟まっている。エビカツもあった。そして…厚焼きたまごのサンドイッチとか、どういうこと!?

舞子のママ、朝から揚げ物してくれるの?
それ、全部作るってどんなスペックなの?
舞子、前世でどんな徳積んだの?


陶子、質問多いよ。
前世まで遡らなくていいよ。私が普通に
現世で可愛い娘だから仕方ないんだよ。
ママのスペック褒めてたよと、言っとくね。
ママ、陶子のファンだから喜ぶよ!

てか、焼きそばが美味そうすぎるよ!
私は、陶子が羨ましいね。

そうかあ。隣の焼きそばはあおいのか?
そうは思えぬが、お世辞にも聞こえない。
深いため息をつき、私は焼きそばを啜る。


私の今日の弁当は、弁当箱一面に焼きそばが広がり、紅生姜がのり、青のりがかかっていた。

挿絵:着ぐるみさん作


私の母はやることが大胆なのだ。


祭りか?屋台並みのクオリティーである。
母のことは大好きだが、土曜日の昼に食べる
焼きそばは、うちならいいが学校だとしょぼい。

しかも青のりに気遣いがない。歯についていたらと、ぎこちない笑い方しかできない。


舞子のおしゃれランチに若干の卑屈を押し隠して勢いよく食べた。

ハヤクハミガキシタイ。

ガラッと後ろの扉が開いた。

おー、木更も青柳も弁当かー?

近田はわざとらしい棒読みで入ってきた。

近田 武志《ちかだ たけし》は28歳の理科教師だ。

おー、ちかっちょ。ちかっちょ、お昼は?

舞子の問いかけに、

あ、あっ、もう食ってきた。カツ丼480円の。

わお!おいしそうだなあ、いいなあ。

舞子は、ちょっと緊張している近田をおちょくったりはしない。フラットで陽気だ。

近田は以前こう言った。

女子に話しかけるのは緊張するんだ。いつだって
試されているような見透かされているような。
そして、蔑まされていると感じるんだよな。

東大出たら、もっとリスペクトされると思っていたんだよ。俺はさ、勉強しかできないから自分の
場所を作るために必死に努力してたどり着いた。

そうした先には、なーんもなかったな。
中学生の女子は、東大に価値なんて感じないんだな。知識より顔の偏差値だ。努力でどうにもならないもんに、魅力を感じるんだな。

若干偏っているような気もするが、この答案を採点するなら三角だ。

確かに私たちは、目に見えるものや表層に惑わされがちだ。

だけど、そんな風に核心の手前をくすぐられたら、それだけじゃないと見栄を張るのが私たちでもあるのだろう。

私は断じて、ちかっちょとは呼ばない。
リスペクトはあるのだ。先生に対しては、敬意を
込めて先生と呼ぶ。
そんじょそこらの女子と一緒に束ねられたらたまらないという変な自尊心を持ち合わせていた。

舞子は私より軽やかだった。あだ名とリスペクトを両立していた。

舞子は、近田がちかっちょと、生徒からあだ名で呼ばれることを嫌いじゃないと知っているのだ。

学生の時、あだ名で呼ばれたことがなかった。

近田がいつかそう話したことを覚えていた舞子は
ある日、授業終わりの近田の背中に

ねー、ちかっちょー、今のとこでわからないとこがあるんだけど、質問していいですか。と
声を掛けた。

振り向いた近田は、驚いていた。
舞子は初めて呼んだとは思えない馴染み感を醸し出していた。

あ、あっ、いいよ、木更、ノート持っておいで。

言い淀み、照れている近田をみんながちかっちょと呼びだすのに、時間はかからなかった。

舞子は誰にでもそうで、それは舞子の空洞がそうさせるのだろう。


美人で陽気で、運動も得意で。みんなが欲しいものを手にしている舞子。

だけど、舞子は自分が一番欲しいものを手に入れることはできない。と呟く。
舞子には舞子の闇があり、鬱屈がある。
まんまるな人などいない。

舞子は、近田が私を好きなことを知っていた。

私が初めて近田に告白された後、どんな顔をして
いれば良いのかわからなくなり、相談したのだ。


その時の舞子がすごくかっこよかった。


へぇ、近田、見る目あるね。だけどあれだね。
近田も陶子も傷つく可能性があるね。それはやだな。策を講じよう。


冷やかしたりからかったり、へんな羨望を寄せることなく、戦国武将の参謀顔をしていた。


指摘されたら、肯定。

多くは語らず、眉間で語れ。

常に堂々と振る舞え。

参謀舞子の助言に従い、私は噂という砲弾からも好奇心という槍からも、自分を守り生き残っている。


舞子と近田が何やら紙袋をやりとりしている。


木更さん、すごい勉強になりました。また、宜しくお願いします。


さん付けに、私の心が反応する。


目の端で近田が頭を下げている。
しばし、ぼんやりしていた私は2人に目をうつす。


いやいや、大したことではないんで。またいつでも。


間合いとか、揺れ動く女心とか、ちょっと掴んだ気がしますね。と近田がドヤ顔をしている。


さすが東大。飲み込みが早くていらっしゃる。舞子は誉める。


えっ、なんの話?全くわからなくて、おいてきぼりの私が紙袋を覗くと、そこに入っていたのは、漫画だった。


ん?りぼんとなかよし?


近田は言う。


中学生の女子の気持ちがわからないんだよと
悩んでいたら、木更が貸してくれたんだ。


これは、人と人を結ぶための参考書。
その名もりぼん。

これは、名前通り。人と人を近づける参考書。
その名もなかよし。


と舞子が私に説明する。うむうむと頷く近田。


こないだ、ほら、青柳にいい参考書ないか?って
聞いたら、お前は無視したけどさ、木更がたまたま聞こえつけて、なんの話です?って言うからさ、相談したんだよ。


なんて相談して、どんなふうに相談受けるとこうなりますか?


お前、話聞いてなかったのか?
だから、中学生の女子の気持ちがわからない。というか、全般、人の気持ちがわからないから困ってると言ったんだよな、そしたら、な、木更?

私が使い古した参考書でよければ貸します。と言ったのよ。と真面目顔の舞子。

初級編からね、わかりやすいし、事例も多い。


まーいーこー。私は口を大きく開けて名を呼び
睨みつけた。

完全に面白がっている。真面目腐ってすましているが、その実爆笑しているのが透けて見える。


参謀が主君を欺くとは、歴史上目にするが、
今、私の歴史に刻まれし、近田事変である。


まあ、私は主君ではなく親友だから、たまには
舞子を楽しませる義理もあるのだろう。


舞子、さすがにやりすぎです。


私が冷静に注意を始めると、すかさず近田が


青柳、歯に青のりついてるぞ。


と言った。カーッと血が熱くなるのを感じた。


陶子は、はっとなり口を閉じて、腹話術のように
ウルサイゾチカッチョ…と低い声で話した。

近田は聞こえないようで、隣の舞子だけ肩を震わせている。


笑いだした舞子のお尻をペチリと叩き、ハミガキセットを持って廊下に出る。


舞子は笑いながら、女子が青のりがついている時のスマートな対処法について、近田にレクチャーを始めた。


聞くな聞くな、舞子は碌なことは教えません。
15歳  女子 青のり指摘で検索あるのみ。

今、バシッと言えないのが悔しい。


だって青のりついてるのよ、私。まじ最悪。

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