見出し画像

「恋愛感情」で「信頼」の話を押し流してはいけない。(Re:ゼロから始める異世界生活40話を見て)


「神回」に感じた違和感


リゼロ40話。親友の決死のサポートを受け、主人公が、弱り切って逃げ出した好きな女の子を見つけ出し、自分の想いの強さを伝えてキスをする感動的なシーン…のはずが、私はずっともやもやしていた。

スバルが彼女が大事にしている「約束」を大事にせず、信頼を損なったことに向き合っていないと感じたからだ。

エミリアとスバルの間で語られている3つの問題

エミリアとスバルの間で語られている問題は主に3つが混ざりあっている。
「信頼」「恋愛」「自己受容」
これらは相互に関係していて、切り離せる話じゃない。これを切り口に今回の話について考えた。

エミリアは試練で自分の過去に向き合わされ、精神的に不安定になっている。試練も突破できず心の支えだったパックもいなくなり、朝までいると約束したスバルもいなくなっていたことで限界になり、逃げ出してしまった。もともと自己肯定感が低かった彼女だが、それゆえ人に頼ろうとせずそんな自分を責めて自縄自縛になっている。そういう意味でスバルとエミリアは似たもの同士である。彼女は今の自分と過去の自分を受け入れて歩きだす、つまり「自己受容」する必要がある。

「信頼」を求めるエミリア

エミリアが求めていることは一貫して「信頼」である。

1つはエミリアに対する信頼。
・自分を怒ってくれなかった。
 自分ならできると信じて怒ってほしかった。

2つめはスバルとエミリアの間にある信頼
・自分がしてほしいと求めてした約束を守らなかった。
・約束を破った理由を聞いても理由を答えない。謝らない。

それに対してスバルがしたことは、
・エミリアが好きだと「恋愛感情」を伝え続ける
・悪いところや失敗を並べてぶつける(表面的に希望に応える)
・良いところも悪いところも全部含めて彼女の存在を肯定した。(「自己受容」を促した)

エミリアの指摘するとおり、実際スバルは質問にまったく答えていない。正確には答えただけで応えていない。

エミリアが「怒ってくれない」と言ったのは悪いところを単に並べられたかったわけでなく、叱られて期待されたい気持ちともう頑張れないと感じる自分への自己嫌悪が入り混じった状態だっただろう。もちろん彼女がこうやって自分を否定しながら肯定を求めるのは彼女の不安定さの現われで、スバルに対する甘えでもある。

「恋愛感情」を伝え「自己受容」を促すスバル

スバルの意図は質問に1つ1つ応じるのでなく、彼女の存在をまるごと肯定することだった。「自己受容」はエミリアの問題。しかし、誰かに受け入れられた経験がなければ自分を受け入れることはできない。

このシーンは18話のレムと対比されていることは明らかだ。
全てを投げ出したくなったスバルがレムに「一緒に逃げよう」と伝えるシーン。レムはスバルと逃げることを断る。レムはスバルに対して「信頼」をもとにした「恋愛感情」を伝え続けた。

レムはどんな試練だってスバルなら乗り越えられると信じていて、諦めないスバルが好きだからこそ、スバルが積み重ねてきたことを語り、「恋愛」として選ばれるよりも「信頼」を優先した。
スバルは、信じてくれるレムがいるからこそ、「自己受容」できて諦めずに動く力を持てた。

だからこそ、スバルは今度はエミリアにレムがしてくれたように伝えようと思ったのだろう。

その上で、スバルのエミリアへの恋愛感情は、レムがスバルに抱いているものとは異なるのではないだろうか。
スバルはエミリアに対して「ダメなところがあっても彼女の存在が好きだ」と「恋愛感情」をベースにした存在の肯定をした。それは「エミリアなら試練を乗り越えられる」という信頼とは違うだろう。

エミリアは今まで蔑まれて生きてきた。「ただの女の子」でいられた経験は少なかったはずだ。「期待に応えなければ」と思ってきた。そう考えると彼女の求める「エミリアなら乗り越えられる」という信頼が彼女にとっていいことなのかはわからない。

これらを考えればスバルの対応が悪かったとは言えない。結果的にエミリアを助けることにつながったので、良かったのだろう。

しかし、レムとのシーンとは決定的に違うところがある。

置き去りにされた「信頼」の問題

一番大きな問題は、スバルは「『自分が』エミリアの信頼を損なう行為をした」ということに向き合っていないことだ。

会話はエミリアの自己受容の問題や恋愛感情を信じるかどうかと混じってしまうのでわかりにくいが、スバルは「恋愛感情」を語るばかりで自分が失った「信頼」を取り戻す発言を一切していない。スバルは約束を破ったことの重さを捉えられていないと感じる。

彼女にとって「約束」が大切なもので、「嘘をついてほしくない」という気持ちが強いことはこれまでの発言でよくわかる。疎まれてきた彼女にとって唯一今まで自分を受け入れてくれていた親のような存在のパックが、契約を破っていなくなったばかりだ。他にもトラウマや背景がある可能性が高いだろう。エミリアが「約束」に縛られている面があるのは否めないが、だからといってこの件はエミリアがメンヘラだとか、めんどくさいからと片付けてしまうのは違うと思う。

彼女が数少ない心の支えを失い、忘れていた自分の記憶が蘇ってきて恐怖を覚えているときに、彼女はスバルに「朝まで一緒にいてほしい」と求めた。彼女が自分の望みを言うことは少ない。彼女としては必死に伸ばした手だったはずだ。彼女はスバルを信じたい、信じさせてほしかったのだ。

そんな中彼女がスバルを一番必要としているときに一緒にいなかった。しかも約束を破って理由も答えず説明もしない。これは彼女が大事にしているものを大切にしない行為で、「信頼」を損なう行動だ。それによって彼女がスバルを信頼できなくなってしまうのはそんなにおかしいことだとは思えない。エミリアでなくてもそう思うだろう。

その上で「自分が追い込まれているときにどんな対応をしたか」「必要なときにそこにいてくれたか」それは人間にとって理屈を超えた意味を持つ。人間関係においてタイミングが大事だと言われるのはそのためだ。

スバルのことだからなんらかの事情があるんだろう。そのくらいはエミリアはわかっているだろう。彼の行動原理は本人が言う通りシンプルだ。「好きな子にカッコつけたい」。しかし、それを優先して彼女の気持ちを考えていない。以前からのスバルの悪癖だ。

エミリアからしたら大事にしていた約束を破られて一人にされて、「また同じように傷つくかもしれない」「自分の気持ちを大事にはしてくれない」と思っている。

信頼関係を損なったときに必要なのは、反省と同じことを繰り返さないと信じるに足る言動と行動だ。

スバルは彼女を「自分が」傷つけたことを重く捉えて、一言でも謝る必要があったのではないか。そうでなくてもなぜいなくなったのか、できる範囲で事情を説明するべきだろう。「理由は今は言えないけれど、一緒にいれないときもいつもエミリアのことを考えて動いている」など、言いようはいくらでもある。

しかし質問に答えず好きだと繰り返し、キスで押し切る。これらはリアルでよく見られるシーンである。その場では流せてしまう。自己肯定感の低い子ならなおさらだ。しかし、それは恋愛感情で信頼の話を押し流してしまったに過ぎない。

「何がどうだから信じられる、だから好きだ、そうじゃねぇんだ!俺は君が好きだ、だから信じられる、こうだ!」

スバルは言う。しかし、あの問答で「スバルが自分のことを好きだ」ということを信じることができたとしても、「スバルの発言や行動を信じることができる」ことにはつながらない。自分を「好きだ」と言う相手が自分を尊重してくれる相手だとは限らない。逆も同様だ。

しかも恋愛感情は不確かなものだ。恋愛感情が冷めたとき信頼関係がなければ一緒にいることはできないし、信頼できなければ恋愛感情もすり減っていく。恋愛感情を抱くのに理由はないかもしれないが、信頼するには理由がいる。

だからこそ、私はあのシーンに感動しきれなかった。視聴者としては、スバルが何度も死に戻りをして、エミリアのために気が狂うくらいの時を繰り返してきたことを知っている。想いの強さを知っているからこそ、それを伝えてキスをするシーンには感慨深いものがある。

スバルはエミリアとこれからも一緒にいたいなら、信頼関係を築いていかなくてはいけないし今までの描き方を見るに作者がここでのスバルの行動に問題がないと思っているとは思えない。スバル自体も人を信じるのも信じてもらうのも得意ではない。オットーとの絆ができてこれからまた変わっていくのだろう。これからエミリアの背景が明かされる中で、この信頼の問題を解決していく必要がある。もちろんエミリアも自己受容していかなければスバルを信じることはできないだろう。



手放しにあのシーンを「いいシーンだ」とだけ解釈することに違和感があったので書いてみました。リアルでもよくみかけるカップルの認識のズレも感じたので。「好きなんだからいいだろう」と片付けてしまうこと、よくあるよね。

勢いで書き出してたら長文になってしまったけれど、「質問に答えろ」「相手の気持ちを考えろ」「好きとキスで押し切るの、ダメ、絶対!!」というのが率直な感想でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?