身体症状症 概説とサテライト型包括的医療の提言③ 鑑別について-関連・周辺症と治療機関-

身体症状症は少々前まで身体表現性障害といわれていましたが、同時に今でも別の病名で呼ばれ、患者さんが診療所や副次医療機関(カウンセリングや鍼灸整体、漢方内科や薬局など)でかかえられている現状があります。この場合オーソドックスには「自律神経失調症」と呼ばれます。

身体症状症のうち、からだの局所あるいはあちこちの多彩な症状があるものと、痛みや違和感を主とするものとがあります。後者は項①にて記述した「疼痛性障害」のグループです。このうち前者である割合の方が高く、この群は医学の中では長らく「自律神経失調症」と呼ばれていました。

自律神経は興奮・高揚をして適応するための交感系神経と、安静・弛緩をして生体を守る副交感神経がてんびんのように働いている神経系統で、常に生体と環境のバランスに微妙な調整をしています。例えば気温が5度上がっても、平熱は通常は変わりませんし、うっかり転倒しそうな時には全身に一気に興奮がめぐって力が入り、危機対応の姿勢をとります。

このようなごく微細かつ繊細なバランス機能を果たしている自律神経において、過剰な興奮が起き続けてしまい交感神経系優位の状態が続き、機能性の不調(器官には原因がないものの体に異常が出てくる)こと、過剰な交感神経系優位のゆりもどしとして、適切でない機に副交感系の弛緩が現れる状態を、自律神経失調状態といいます。

つまりは脳神経系の段階でのバーストがあって、原因が見つからないにも関わらず症状はある状態であり、身体症状症の方の心理療法、心理面接技法では、多くの場合、意図的に体側から心、脳神経系を落ち着かせるような弛緩訓練(呼吸法、漸進性筋弛緩法、自律訓練法など)を、患者さんそれぞれの個性や症状に合わせて組み合わせます。
また、漢方内科、漢方薬局、鍼灸・整体、カイロプラティックや各種ボディワークのトレーナーには、現在もそれぞれ独自の理論体系を持つなか、自律神経失調症、自律神経失調状態という言葉も対象としている方々も共通認識されていて、治療対象としている症状においてみれば、ほぼ同様の患者群のケアテーカーになっています。その独自の理論体系による治療や施術も相当程度に有効であろうと思われます。

ですので、ある方は、あるひとときにおいては、例えば「身体症状症」と診断されたり、「自律神経失調症」と言われたりすることが起きます。また別の診断がつき治療の対象となりえます。
やっかいなことに、自律神経失調状態は、交通事故での頚椎症(むちうち)など外傷でも起きうるし、ひどい風邪の病み上がりに無理をしたことでも起きえるし、婦人科疾患(月経困難症や更年期障害)でも起きえることにあります。この3パタンだけでも、「神経系統への外傷性」「感染炎症性」「内分泌のアンバランス性」があげられます。

他にもたくさんありますが、もう1パタン加えると、「精神科疾患起因性」があげられます。うつや不安障害があると、この身体症状として自律神経症状や疼痛・違和感が出てくることがあり、精神科では、うつや不安の身体症状なのか身体症状症なのかを経過も含めて慎重に鑑別してゆきます。

稀ではありますが、脳脊髄液減少症の場合も多彩な自律神経失調症状が出ますし、この場合は起立性低血圧との鑑別点は日内変動のパタンで、「起きてすぐ具合が悪いのか、起きてからだんだんと具合が悪くなるのか」です。
更には脳脊髄液減少症の外科手術適応となり(特殊な検査で著明な所見があった、検査所見はとぼしいものの臨床症状からみて脳脊髄液減少症あるいは脳脊髄液減圧症であることが十分に仮定される)、ブラッドパッチの脳外科手術を受けた方のうち3割の方には主観的な症状の変化がありません。

耳鼻科の今井医師は、脳脊髄液減少症、脳脊髄液減圧症の症状と慢性上咽頭炎の症状が類似であることに着目し、脳脊髄液減少症、脳脊髄液減圧症の診断にて手術をしたものの経過がかんばしくない患者さんにおいて、内視鏡検査にて慢性上咽頭炎の所見があり耳鼻科治療をして、著明な不調の改善がなされたことを指摘されています。
ちなみに耳鼻科というのは精神科ととても関わりの深い科で、耳鼻科の疾患かと思われた方が精神科の患者さんだった、あるいはその逆、ないし併発、ということが多々あります。

*みらいクリニック
脳脊髄液減少症と慢性上咽頭炎について【なかなか治らない?!】https://www.youtube.com/watch?v=BOgkQL7pfrE


だとすると、何等かの隠れたる責任病巣(発生の原因が特定される病原箇所)がわかるのでは、と気がはやるのですが、どこまで高度に進化しても医学というものには限界があるし、人間はそれぞれ別の個性や体質をもった存在です。
脳脊髄液減少症の方が、例えば脳脊髄液減少症の診断がつかないまま漢方鍼灸治療を受けていたとして、そこにはその限界とともに一定以上の効果があろうと思いますし、精神科での身体症状症の治療においてもそうなのだろうと思います。

日本の医療保険制度は、一部の適応(柔術整復師や作業・理学療法士の指導など)を除き、いわゆる西洋医学、を標準とします。
漢方薬も、東洋医学に知見がある医師が処方する限りにおいて保険診療であり、心理職が行う医療機関のカウンセリングでも、一定の制約の中で医師の指示のもと実施されます。
皆保険性(全国民に一定以上の高水準の医療保障を提供すること)や、治療行為の中での責任の付託の点から、ある程度は当たり前のことなのですが、問題は保険がきかないケア・サービスは自由診療(いわゆる自費)であり、患者負担額が多く、結果的に提供が不平等となってしまうという課題があります。
私自身は割とケア行動での出費に必要があればお金を出す方なのですが、1回5000円1時間程度を週1日、それを一定期間と言われると、やはりめげてしまいそうです。

保険が適応される範疇が増えるとありがたいのですが、現段階では、保険で提供できる中で最大の効果を提供できることと、自由診療の副次医療機関が独自の理論体系で把握され実践し、一定以上の効果がある方法論との情報交換が、もっとフラットに行われることを期します。

ありがたいことに、こんにちは漢方薬の処方は保険がききますが、「脈診や証をみるなど、独自の理論体系をわかっていなくてはならず、とても自分の手にはおえない」とあえて処方をなさらない医師もいます。患者さんからのニードによって処方される中で経験を積まれている医師もいますし、いくつかの、即効性もあり合う合わないがわかりやすい薬に限定して、いわゆる西洋薬と併用されたり、いわゆる西洋薬の減薬のために漢方薬を用いる、という医師もいらっしゃいます。
最近、神田橋條治先生の「神田橋処方」を拝見し驚きました。発達障害の方のフラッシュバックに特異的に効く処方の組み合わせで、いわゆる西洋薬には現在このような内容のものはありません。
えてして医療というのは切実な一人の患者のニードからはじまるものでもあります。神田橋先生は「自らが、それまで治療不可能と言われていた病態に対する処方を見つけられた経験から、他の難治の病態に対する治療法もあるのでは」とお考えだとのことです。

*飯田橋メンタルクリニック 
神田橋処方のお話
https://www.iidabashi-mental.jp/information/archives/post-655.html

身体症状症の主たる治療医、あるいは家庭医(かかりつけの先生)が、様々な副次医療へのご理解をされ、効果的な場合には交通整理(助言や橋渡し)をしていただけると、患者さんとしては相当心強い。実のところ患者さんというのは主治医が思ってもみない様々な治療にアクセスしていたりもするのですが、それを必ずしも主治医に報告していないことがあり、その理由は主に「先生の面をつぶしては悪い」という気遣いによります。

交通整理をする人がかならずしも医師ではない、という場合もありえると思います。副次医療治療職から医師への紹介や相談が活発にあって良い。そこで何らかのゆるやかかつ適切な連携ネットワークがあると、患者さんが受け取る医療・治療の利は、その時々の最新の知見を反映させたものになっていくし、オーソドックスかつ緩徐ではあるが底力のある治療の便宜にも開かれます。
あるいは治療職という中においては第三者であり、何等かの形で患者さんの支援に関わる方が担う、という場合もあるかと思います。

それぞれの立場と価値観があるが、その限界もわかっているし、患者が受け取るところを結果的に最大としたい、ということに否がある方はいなかろうと思います。
このようなサテライト型の包括的医療が機能することを期し、この点につき治療構造論として後述します。



*参考文献

・神田橋処方

https://kachi-memorial-hospital.jp/blog/2475/

・改定 精神科養生のコツ

神田橋條治 2009 岩崎学術出版社

・神田橋語録
口述:神田橋條治 編集:波多腰正隆
https://hatakoshi-mhc.jp/kandabasi_goroku.pdf


・起立性調節障害の受診科、似た病気などの紹介


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?