卒業式 朝

こんなに早く起きたのはいつぶりだろう。
メイクをしてから行きたかったが、間に合わなかった。わりと大事な日なので車の中でするわけにも行かない。ヘアメイクの時一緒にできるだろうか。
卒業の実感みたいなものが湧いてこない。私は馬鹿だから、またいつものように終わった後じわじわと追いついてくるんだろう。今あるのはまず卒業できたことに対する安堵。次にもう学校に行かなくてもいいという喜び。元々友達が少なかったので、悲しみや寂しさはあまりない。
今日合唱する曲をさっきはじめて聴いた。耳馴染みがないので覚えにくい。みんな覚えていないんじゃないか。まあ、みんなじゃなくても覚えていない人はいるだろう。
私は覚えることを放棄してRADWIMPSの正解を聴きはじめた。高校に未練は少ない方だと思っていたが、これを聴くとさすがに感慨深いものがある。こっちを卒業式で歌いたかったな。そしたらこんな私でも涙の一つくらい流せたかもしれない。
また、あの気持ちになるのかな。結婚式に参列した時みたいな。ガラスでできた壁が一枚あって、まるで自分だけみんなの輪の中にいないかのような。最近の私は妙に俯瞰してしまう。自分から距離を置いているはずの存在を見て、勝手に疎外感を感じている。
架空の物語には、いくらでも歩み寄ることができる。こちらがどう思おうと相手は存在しないし、傷ついたところで架空だからだ。
現実はそうは行かない。相手がこちらの奥の奥まで探ってくる可能性も、勝手に誤解する可能性もある。傷ついた時、傷つけた時、取り返しがつかないことになる。
だから私は自分から距離を取ったのだ。傷つけないように、傷つかないように。リスクを払わなかったツケが今、回ってきたのかもしれない。これくらいなら安いものだ。いや、でも最初から距離を取っていたわけではない。
たくさんの人を傷つけた。同じくらい自分も傷ついた。そういうのが途中で嫌になってしまった。
そんなこともあったなと、そんな日々ももう終わる。これからは美化される一方。多分すでに美化されつつある。大人が言う青春は美化された果てにあるのだなと、最近思う。過ごしている側が青春だとは思ってはいないはずだ、きっと。
そんなこんなでドレスの着付けも終わった。風邪っぽいな、とか余計なことを思う。でも、ドレスかわいい。私もかわいい。それでいい。今日はかわいくするために来た。
行ってきます。

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