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未収録三編+アフター観光記

突然のお祝い

『観光記』刊行から2ヶ月が経ちました。
はっと思い立ち、一次選抜会まで残っていた三編を公開します。
「面と点」
「好物放浪記」
「にんげんの好ましいところ(2016初夏)」
です。

面と点


「面と点」

いつも真新しいところからはじめられるんだなあと思うとすーっと背筋が伸びてゆく。これからなにをつくろう。なにをつたえよう。どんな風に、ああ、こんな風に。

私はちいさくて、声だって大きくない。腕だって短いし、指は全部足したって20本しかない。
グーグルアースでさ、たっかいたかいところから見下ろしたならきっと、面と点なんだと思う。世界と私の関係は。
白い紙と、落ちた絵の具の一滴だ。どちらかというと私が月で、闇がこの世界だ。どちらかというと私が梅干しで、白ごはんがこの世界だ。皆、体のなかに宇宙を隠している。月明かりに影だって生まれて、梅干しのおかげでお箸が進む。内包する点であること。この体の1ミリ先はもう、私が震わせていく世界であるということ。

点でよかったなあと思う。この世界に放り出された点としてあとはもう光るだけだ。面に帰るまで、手を伸ばし続けるだけだ。

好物放浪記


「好物放浪記」

自分がまちがいなく美味しいと思っているものを7日間食べるよりも、私の知るひとが美味しいと言ったものいろいろを7日間食べさすらうほうが好き。
「これを、あのひとは美味しいと思ったのね」という過ぎた事実の一点をえんえんなぞるのがたまらなく好き。あのひとが行った、あのひとが見た、あのひとが読んだ、あのひとが、いた、辺りを踏みしめて一周する。私にとってこの世界はそういう場所だ。そういう世界を名付けるための他者だ。(多謝と変換したおまえはえらいね)
ふしぎなのは、その7日間で食べたものを私がほんとうに好きになるとき、その食事からあのひとはだんだん姿を消してゆく。正しく遠ざかる。そして、ひとりで美味しい美味しいとひとしきり唸ったあとに、それについての生い立ちや細部に思いをめぐらせれば、ふいにまたあなたと出会う。あなたは、あの世界とこの世界を繋ぐ窓の前にいる。いつも風をうけている横顔をこちらへ見せている。
美味いものは美味い。

にんげんの好ましいところ


「にんげんの好ましいところ(2016初夏)」

どんどんやらかくなって、ゆったりとして、街の真ん中みんなパジャマみたいな格好で「花が見たいわ」て、「山が恋しいわ」て言ってるの。
いいよね。
ほんとに花を見なくても、ほんとに山に会わずとも、そういう世界の動き方ってたいへん好ましいです。それが人の間を行き交う台詞としての山や花だとして、山や花はてんで気にしていない。それもいいよね。ほんとにいい。

街の真ん中でパジャマみたいな格好をしてみると、やっぱりよかったりする。もともとぴしっとしたにんげんじゃないので、そうだよ、そういうひとはこういう風に包んでしまえばいい。あー、風が渡ってゆく。ワンピースの裾からほーら。あー、からだ。あー、たんぼ。私たんぼがみたい。




旅のおとも栞についての告白

初版150部が今はこの部屋にてごく僅かなかたまりになりました。
こんなに勢いよく羽ばたいてゆく本だなんて未だに信じられません。
取り扱ってくださっている書店さま、手にとってくださった方々へ、ありがとうございます。
夏にそなえてそろそろ重版せねばです。
どのタイミングでお知らせするかぼんやり迷っていたのですが、初版限定150部限定「旅のおとも栞」について告白します。
今、実は手元にまだ200ちょっとあります…。(!!!)
今まで納品したものには全て手で挟み込んでいるので、さらに200あるということです。
ツッコミどころ満載ですが、とにかくひきつづき「旅のおとも栞」は付いてきます。100ページほどの本なので栞を使いつつ快適な旅をたのしんでいただけますように。
(読み終えたら他の本にもおともできたらいいなあ)


アフター観光記


『観光記』表記していないですが、実はこれは一巻目です。
そしてアフター観光記、第二部はもう始まっています。
第二部の中でも章が終わったり始まったりなどなど、めまぐるしいこの感じ、きっとあなたのすごしている日々の中にも重なるものがあるかと思います。
2ヶ月前がすごーく前のことのようですね。
私は笑ったり泣いたりしながら夢中で観光しています。相変わらず最高です。

最近考えていることは、書いてこなかったことについて。
何度も何度も繰り返し書くという側面に対して、一度も自分の言葉にしたことのないテーマが幾つもあります。
なんでも書けるようになりたいわけではないけれど、どうして書かなかったのかを考えると理由はたった2つでした。
・他の人が書いてくれている言葉で満たされている(愛の適材適所)
・事象に対して言葉が追いつかない
2つ書いたけれど、大半が後者の場合です。
言葉が追いつかないたくさんのことについて。
その中でも、信じる信じないの手前、それはそのようなものだとふれたときから私の一部になるような、そういったものたちについて。
感嘆、恐れ、生きた感情を原動力にして、確かなものとして書き起こしたい。
もう少しまとまってきたら、「アフター観光記」としてnoteで書き始めようかなと思っています。
合言葉は「惜しみなく」です。

あなたはなにをしているのか、なにをしていきたいのかと聞かれたら
「濾過」と答えます。
それは言語化であり、観光という歓びであり、私として感じながら生きていくということです。


観光記のご感想を募集します

最後に。
『観光記』のご感想募集中です。
詩集と比べて読みやすいという人もいれば、感想が言葉にしづらいなどなどあるかと思いますが、送っていただけたものがすこしまとまってきたらnoteにて掲載してゆきたいです。
どうぞよろしくお願いします。

タイトルを「観光記の感想」として
ikdayano☆gmail.comまでお送りください。
(☆を@に変えるのをお忘れなく!)
自由に書いていただいて大丈夫なのですが項目作ってみましたのでよければこちらもご参考に。

・お名前
・購入した書店
・ご感想やご質問などなんでも書きたいこと
・あなたの観光について少しだけ教えてください
・ウェブ上(note、ホームページなど)へ掲載しても大丈夫かどうか


近況

今月から二十四節気の連載がはじまりました。「夏至」に2回目の掲載がありますのでまた改めてnoteでも紹介します。
あと8月に刊行予定の共作の本のために、日記のように詩を書く習慣が続いています。これは実は4月末から始めている取り組みなので、ちょっとした厚みが出てきました。どんな本になるかなあ。こちらは企画展と一緒に来月にはおしらせできるはず。
配信での朗読は先月からぽつぽつとあり、6日に配信した高野裕子さんとの「おふとんてまねき放送」もたのしかったですね。(アーカイブもあります。おやすみの前にぜひ)
次は21日夏至の日に絵描きのさとうさかなさんと「みんなまるい人々 即興展示会」やります!3時間書いて読んで書いて読んで、そしてその日に販売!します!期間限定販売です。YouTubeで配信する方法を習得できた気がするのでやるぞ。ぜひ一緒にぴかぴかの夏至の日にしましょう!
日常はさほど変わりはないですが、毎日はいつもあたらしいです。
長い詩が書きたいな。本を読むのがたのしいな。

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