〖余談〗の時間 その七


 とある日曜日の午後。開店時間直後に電話が鳴りました。このタイミングなので、テイクアウトの予約かな? っと思っていたら、電話に出た奥様が何か妙な表情を浮かべながら、

 「あ... はい。はい。申し訳ございません。」

と変な感じ。しばらくして奥様が電話口を手で押さえて私に伝えます。その内容は、

1. 昨日ウチの店のたこ焼を買ったお客からの電話
2. 帰りの電車の中で子供に食べさせた
3. 『たこ味焼』の中に髪の毛が入っていた
4. 子供はソレに気づかずの食べてしまった(一部を歯で噛み切って飲み込んだ)
5. そのすぐ後でソレに気が付いた子供がいきなり電車の中で気分を悪くして吐き戻した
6. 服が汚れたので、電車で返れずタクシーで帰った
7. クリーニングとタクシー費用を振り込め

ということだった。

そこで私が電話に出ると、かなりくたびれた感じ、そうまさに年寄りの女性の声だった。子供と言うのは孫なのかと直感した。内容と言えば先の通りだが、何か怪しい...。念のため詳しく聞いていくうちに、更に納得しかねる説明が多々出てきた。しかしもしこれが本当ならば対処の仕方を間違えると、後でかなり面倒なことになる。疑いはすれど、とりあえず慎重に話をするが、やはり合点がいかないことが幾つかあった。

第1. ソースをぬり鰹節や青のりをたっぷり振りかけていたなら髪の毛の存在に気が付きにくいが、ウチの店の『たこ味焼』はソースをぬらずにそのまま食べるタイプ。髪の毛が乗っかっていたなら食べる前に発見しやすい。電話の主は、たこ焼の中に髪の毛が入っていたとは言っていない。

第2. 子供は鋭い前歯で髪の毛をたこ焼と同時に噛み千切って食べた後、残りの髪の毛を見て自分がソレを食べてしまったことに気が付いたらしい。ちょっと普通では考えられない。

第3. 仮にそうだとしてもソレを知った後、いきなり吐き出すまでに至るだろうか? 気分が悪くなっても吐くまでには暫く時間の猶予があるのではないか? 次の駅で降り、トイレに行くなど対処ができるのではないか?

以上のことから私はその電話主の老女を完全に疑った。なので私は、

「お話の内容はわかりました。ただ、こちらもこのような状況には慣れておりません。幸いこのような時に頼りになる身内がおりますので、その者と相談の上折り返しお電話をさせていただきます。ですからお電話番号をお教えいただけませんか?」

とそう言い終わるかどうかの瞬間、電話主の老女は電話を切った。

 その後、ネットで検索してみると、やはり出てきました。最近よくある詐欺の手法とまったく同じものでした。特に大金でもないので、慌てた店主は伝えられた口座に振り込んでしまった。そういう事例がそこそこあったようです。


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