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ロボット・ハウスキーパー(2)

「わたくしが提供できる家事代行サービスは、こちらに記載の通り、炊事、掃除、洗濯です。」

 ロボットのヤナイさんは、パンフレットを指さしながら説明する。

「炊事については、調理やその下準備のみで、買い物は行いません。各家庭にある食材を使って調理いたします。また、育児や介護も対象外です」

 ロボットが行うという点以外は、ごくごく普通の家事代行サービスのように聞こえる。とはいえ、他人が家にいて家事をすることに慣れる気がしないので、我が家で家事代行サービスを利用したことはない。今抱えている9か月の次女を出産してからは、ありとあらゆる家電を使って何とか今までやってきた。が、ここにきて離乳食という壁に直面している。

「離乳食の準備もできますか」

 まだ利用するかどうか決めたわけでもないのに、わたしはヤナイさんに思わず質問してしまった。

「もちろん、ご要望があれば、離乳食も作ります。こちらのお嬢さんの月齢は9カ月頃でしょうか。そうでしたら、そろそろ手づかみ食べが可能な時期ですね。月齢に対応した離乳食の調理も対応いたします」

 ヤナイさんは離乳食についても詳しいらしい。それにしても、聞き心地のいい声だ。見た目の角ばった武骨なロボットには似合わない、優しい声。

「また料金についてですが、1回につき2時間、3回分をK市の住民の方は無料で利用することが可能です。そこでご提案ですが、本日これから正午までお試しでご利用いただくのはいかがでしょうか?離乳食の準備もできますし、お母さま自身の昼食の準備をさせていただくことも可能です。いかがでしょうか?」

 わたしは断る理由を見つけられず、お試し利用の契約書にサインをした。離乳食とわたしの昼食の用意と、お風呂掃除をお願いした。山本さんは一旦、その契約書をもって外出した。わたしは初めて、ヤナイさんと二人きりになった。

「それでは、まずは離乳食の準備をします。その間、お母さまはお嬢さんとゆっくりお過ごしください。」

 娘のおむつを替えたり、遊び相手をしたりしながら、わたしは時々ヤナイさんの仕事ぶりを観察した。ヤナイさんは最初に冷蔵庫の中を上から順番に、どのような食材があるか確認した後、調味料や調理器具の場所について質問し、さっそく離乳食の準備に取り掛かった。

 月齢に合わせた離乳食の準備は、わたしにとっては本当に面倒な家事だった。温めるだけのレトルトのベビーフードを使うこともあるが、食感や味の多様性、野菜の量を考えると手作りしたいと思う。でもいくら頑張って手作りしたところで、娘が気に入ってくれるとは限らない。離乳食の入ったお椀をひっくり返されて、泣きそうになることも。長女の育児でも通った道ではあるが、何度やっても慣れないし、気が滅入る。

 しかし今日は違う。今日はヤナイさんが作ってくれるのだ。

つづく。

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