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夏休みと2回目の告白、思春期の憂鬱

得体の知れない怪物から走り逃げ、

少年のような外見の
ショートヘアの女性の言う通り、

私は、目の前に突然現れた扉の
向こう側の世界へ飛び込んだ。

▶︎前回の話

そして視界は広がり、
視界の大半は碧色の海で占められた。

この場所は知っている気がする。

確か...そうだ、
私の生まれ育った土地に似ている。


あのショートヘアの女性に
この場所について聞いてみようと
思ったものの、

その女性の姿は見当たらなかった。


立ち止まり、
この海辺の町を見渡す。
どうやら小高い丘の上にいるらしい。

白いガードレールの向こう側には
碧色の海が広がり、

振り返った背後には
古びた暗いトンネルの口が
吸い込むように私を待ち受けていた。

あのトンネルに吸い込まれれば、
私は自分のワンルームマンションに
戻れるのだろうか?

私は自分がいた場所に
戻りたいのだろうか?
本当に?

いや、戻りたくはない。

彼氏に振られ、ワンルームマンションで惨めに泣くしかない、元の自分には。

私は来た道を帰ることを諦め、
この場所に私を導いたショートヘアの女性を探すことも諦めて、
前に、海に向かって歩き出した。

丘を下るように側道を進むと、

目の前には高校生ぐらいの制服を来た男女が歩いている。

2人とも自転車を手で押しながら。


今は夏休みだっけ?

制服姿だから、
部活の後?夏期講習の帰り道?

そこまで親密には見えない2人の
並んで歩く姿は、私にかつての記憶を
思い起こさせた。

前を歩く、あの2人と同じように
私と同級生の男の子も一緒に
歩いたことがある。

夏休みの、部活の帰り道だった。

その男の子とは部活は違うけれど
練習場が隣り合わせで、
帰り道が同じ方向だった。

自転車で家路へと急ぐ私の横に
いつの間にかやって来て、その男の子は
当然のように私に話しかけてきた。

そんな「偶然」が2、3回起きた後、
私はその男の子に、「好きだ」と
告白された。

同世代の男の子に全く興味がなかった、その頃の私は、面倒臭いという気持ちと申し訳ないという気持ちを抱えながら、

何とかその場のぎこちない雰囲気を
やり過ごし、彼の「付き合ってほしい」という申し出を断った。

しかし彼は、
それでも諦めきれなかったのか、
後日、私に2度目の告白をしに、
部活の帰り道に、
私の横にやって来たのだった。

そうやって私は、
2度も気まずい雰囲気の中、
その同級生の男の子に、
「私には好きな人はいないけれども、あなたと付き合う気はない」
ということを伝えなければいけない羽目になった。

自慢話のように聞こえる人もいるかもしれないが、私にとっては災難でしかなかった。

思春期の頃、彼のような、
自分に好意を持ってくれる同世代の
私は男の子が怖かった。

私は、ヘテロセクシャルではあるが、
周りの同世代の男性に性的に一切関心が持てなかったから。

もちろん今でも、だ。
ただし、ごく少数の男性を除いては。

今でも私は、そういう自分の性的指向をカテゴライズできるような適切な形容詞を知らない。

誤解を恐れずにいうならば、
異性からの告白に一喜一憂できる人や
自分はLGBTだと実感できる人が
私は単純に羨ましい。

私には心から所属できる人やグループ、
形容詞がなかった。

大人になり、幾分かそういう所在なさは
やり過ごせるようになったが、

思春期の頃の、高校生の時の私は
その術をまだ知らず、

いつも不器用に憂鬱だった。

そんな過去の憂鬱と
現実の夏の熱気に囲まれて、

海を見下ろしながら、
私は小高い丘を下って行く。

並んで歩く、
ぎこちない思春期の男女の後に続いて...


#小説 #夏休みの思い出 #憂鬱 #海 #告白



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