話題の「ボトルネック奏法」についてちょっと解説めいたものを書いてみたくなっただけの記事。

「ぼっち・ざ・ろっく」最終話で、機材トラブルを回避したぼっちちゃん(後藤ひとり、CV.青山吉能さん、Guitar Play:三井律郎さん)の小技「ボトルネック奏法」について、ちょっと書いてみたくなっただけの記事です。……ので、そんなものは知っているという方は、まあ読み飛ばすなり読み流すなりしてください。

まず、エレキギターがどのように弦の音を調整しているか?という、簡単な解説から始めたい。そもそもここがわかっていないと、「ボトルネック奏法」を理解するのは絶望的に難しいので。

図1 エレキギターの構造に関する簡単な説明

図1は、エレキギターを真横から見た概念図である。
弦は、まず左端で留める。弦の一方にはピンのような頭が付いており、穴に通すと頭が穴に引っ掛かるようになっている。
左端に頭を引っ掛けた弦は、右端で巻き取っていく。巻き取ると弦が少しずつ張っていき、張りが強くなるほど音が高くなる。これは、理科で習う音の波の話であり、張りが弱いと振幅が大きく、張りが強いと振幅が小さい。
ふつうのエレキギターは弦が6本あって、それぞれに初期値の絶対音が決まっている。従って、その音になるまで弦を巻き取りながら張っていく(ふつうの人は絶対音感を持っていないので、機械の力を借りる)。
ぼっちちゃんを襲った機材トラブルは、この弦を巻き取る部分(ペグ)の故障だった。

次に、音を出す際に押さえるのが、図1の右から二番目の部分である。むろん、ここを押さえなくても初期値の音が出るわけだが、それでは6音しか出せない。ここを押さえることで、振動する弦の範囲が短くなり、初期値よりも高い音になる。振幅が小さくなるからだ。
エレキギターでは、ここに「フレット」と呼ばれる山がついている。初期値の音が正しければ、この山(フレット)を押さえるだけで、出したい音がブレることなく出せる。←そう、問題はここだ。

図2 ヴァイオリン

ヴァイオリンには、このフレットがない。図2に見るまでもなく、つるりとしており、取り付く島がない。ヴァイオリニストはこの状態で弾く。
すなわち、絶対音感もない(決して「お育ちが良い」とは言えない)少年少女がふつうにギターを弾けるのは、フレットが存在するお陰なのである。
しかし、フレットは固定されているため、初期値が合っていないと、当然のことながら、各フレットを押さえた音もズレていく。御幼少の砌から音楽教育を受けていない(決して「お育ちが良い」とは言えない)少年少女にとって、これは致命的だ。
ところが、ぼっちちゃんはこの事態を克服した。言ってしまえば、ギターをヴァイオリンのように弾いたのである。

図3 ボトルネック奏法(上)とふつうの奏法(下)

図3に、「ボトルネック奏法」と「ふつうの奏法」を対比させてみた。
弦の音程の初期値が合っていないので、欲しい音を出そうとすると、フレットはむしろ邪魔になる。フレットは予め決められた音階に沿うように設計されているからで、あの場面ではそれが効力を失った。
だから、弦を、フレットに触れない状態に浮かせたまま、振動する範囲を調整したい。そこで「おにころワンカップ」の登場である。
図3の上側のように、弦がフレットに触れない状態で、ワンカップを弦に当てると、振動する範囲を自由にコントロールすることができる。これが、「ボトルネック奏法」である。

「ボトルネック奏法」はヴァイオリンを弾くのと同じ理屈だ。どこも押さえていないときの弦の音を把握したうえで、ワンカップを使い、自分が出したい音が出るポジションを探っていく。
フレットを使った「ふつうの奏法」は言わばデジタルで、「ボトルネック奏法」はアナログだと言ってもいいだろう。フレットとフレットの間には、無限に刻まれた音が存在する。あの場面でのぼっちちゃんのギターの音がうねうねと波打つのは、そのためだ。

「ボトルネック奏法」という名前があり、星歌姉さんがすぐにそれを口にしたことからもわかるように、これはぼっちちゃんの発明・発案ではない。が、目の前に転がっているワンカップの空きビンから、咄嗟にこの回避策を思いつくところ(そしてそれを実践できるところ)に、ぼっちちゃんの尋常ならざる才能と好奇心と練習量とが窺い知れるシーンであった。

念のため言い添えておくが、「ボトルネック奏法」はヴァイオリンを弾くのと同じようなものだとは言え、必ずしも絶対音感を必要とするわけではない。正常な音感さえ持っていれば誰にでも可能だ。
ちょっとイメージして欲しいのだが、カラオケで高音領域が歌えないとき、適当に音程を下げるだろう。正常な音感を持っている多くの人間は、すぐに伴奏に合わせて声の高さを変えることができる。それと同じ理屈である。

以上、知っている人間にとってはどうでもいい解説をした。なんとなくわかってたけど、この解説でよく理解できたよ!という人がいらっしゃれば幸甚である。……ここまでの面倒くさい説明を見かけないから、ちょっと書いてみたかっただけなので。(綾透)

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