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スーパー、ワンダーランド

ヴェネツィア最後の夜にホステルで、ベルリンで暮らしているというアート学生の日本人女性と一緒になった。

「ヨーロッパでチャレンジしたほうが、自分の価値があがりそうな気がする。ベルリンはクリエイター同士で助け合う気風もあるし、やりやすいんじゃないかしら?」

そう話しかけてみると、

「スタートアップの人が集まりすぎてて、いまは昔ほどは簡単ではないようです。私もフリーで仕事をしたいから、デザインの勉強をしているんですけれど」

と、ちょっと不安そう。まだ勉強段階だし、まだ見ぬ未来はいつだってちょっと不安だったりする。日本から持ってきていた本を2冊、彼女にプレゼントすると、とても喜んでもらえた。私は荷物が少し軽くなって、とても助かる。

ヴェネツィアを発ったら、次は旅の最終目的地ミラノだ。

せっかく世界でも有数の素敵な場所に来ているというのに、ちっともヴェネツィアらしい写真を撮っていないことに気がついて、鉄道駅に向かう水上バスからたくさん写真を撮った。

バイバイ、ヴェネツィア。夕焼け色のスプリッツを飲みながら、夕日を眺めに、また来るよ!

水上バスからあらためて街並みを眺めていると、ヴェネツィア島内に近代的な建築物がないことに気がつかされる。一度足を踏み入れたら、中世の暮らしにタイムスリップしてしまうわけだ。島全体がディズニーランドみたい。しかしそこには、今も暮らしている人々の姿がある。一心不乱にピザを焼く、テイクアウト専門のピザ屋さんの若者の姿が思い出されて、なんだか既に郷愁を感じてしまった。

ヴェネツィアからミラノは鉄道で2時間半程度で移動できる。車中では塩野米松さんの『中国の職人』という聞き書きの本を読んだ。日本でいう人間国宝になるぐらいに技を磨き続けた修行時代の話も興味深いが、激動の時代を一庶民として地に足をつけて暮らし抜いてきたその姿に胸を打たれるものがあった。みんなこうして、生きてきたんだ、生きていくんだなぁと、不思議な安堵感が芽生えたのだが、それはきっと、語り手が一分野を極めたプロだからなのだと思う。確固とした自信がそこにあるはずだ。

昼過ぎにはでっかいミラノ駅へ到着して、まず向かったのはタイマッサージの店。旅の後半で、身体がくたくたなので、まずは一度、ちょっと休憩しようと、ネットで事前に調べておいたのだ。旅も後半だと、日本に戻ってからの仕事のあれやこれやが気にもかかるし、ちらほら便りも届いている。で、帰ったら帰ったでゴロゴロ寝てられないんじゃないかという切迫感もでてきているのだ。

マッサージは心地よかった。こわばっていた体や、毎日ガンガン歩いてパンパンだった足がほぐされた。

ホステルにたどり着いたら、もうのんびりモードで、スーパーに買い出しに行っただけで、早めに寝てしまった。

それにしても、イタリアのスーパーはワンダーランドだ。生ハムもチーズもワインも安い。オリーブオイルとか、白トリュフとか、買って帰りたいものばかり。お土産も選ばなくっちゃならないし、帰りの飛行機の容量問題をどう解決するかが直近の課題だ。



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