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余白を持てたら、人との関わりが嬉しい

5泊したカッセルのホステルを出る時は、なんだかほんのり寂しかった。中央駅まで行き、ベルリン行きの特急に乗り込むと、電車は満席。しかたなく車両の連結通路にスーツケースを置いて腰掛ける。車窓を流れる田園風景をながめながら、音楽を聞いてぼんやり過ごした。

ほぼ1ヶ月の旅は折り返し地点を過ぎた。

思えば、アテネやミュンスターに滞在していたときには、まだ日本にいた時の感覚が抜けきっていなくて、旅に出るまでの様々な出来事が脳裏をよぎっては、ハラハラしたり、イライラしたりしていた。旅は普段の暮らしの中にそっとまぎれこんでくる澱のようなものを、浮かび上がらせて、流してくれる。なんとなく、地に足がついてきたような感覚になれているのを、3時間の列車移動中に感じていた。

ベルリンではアーティストのマキが迎えてくれた。彼女とパートナーの家に数日滞在させてもらうことになっているのだ。バス停まで迎えにきてくれたマキは、最近までのギリシャ滞在で、こんがりと日に焼けていた。

彼女のアトリエに案内してもらい、庭でお茶をしたあと、マキのアパートで食事をした。

マキが炊いてくれたご飯が美味しい。お米を食べるのは久しぶりだ。

食事に付き合ってくれたマキのアトリエメイトの日本人女性と話し込んでいると、彼女が鳥取の禅寺で瞑想をして気がついたことについて教えてくれた。

「自分が人に期待しすぎていることに気がついたの。待っていれば、誰かが何かをしてくれるんではないかって。でも、相手だって普通の人間だし、できないことだってたくさんある。結局はありのままを受け入れるしかない。それは、自分自身も含めてなのよね」

深く美しい言葉だった。

他者との関わりの中で誰かのありのままを受け入れられたら、それは自分にとっても豊かな体験になる。そして、受け入れるためには、自分自身に余裕や余白があって、時間をケチらずに、ただ人と居ることを楽しむのがコツだ。頭ではわかっていても、実際にはなかなかそうもいかないものなのだが。

そういえば、カッセルでちょっと暇だったときにまた買い物をして、H&Mで普段だったら気にも留めない、ピンク色のワンピースを選んだのだった。ピンクは母性と女性性の色。何かをただ包むように受け入れたいと思った時に、選びたくなる色だ。

自分に余白を持ち、人に期待せずにその人のあり方をそのまんま受け入れること。これまでは少々おろそかにしてきたそうした女性的な生き方を、今、私は少し取り戻そうとしているのかもしれない。

マキと彼女の周りに居る人は、欧州で長い時間を過ごし、豊かな経験によってしなやかな強さを獲得している。彼女たちの穏やかで芯が強そうな横顔は味わい深く、一緒に時間を過ごせることが心から楽しい。


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