3年前。


今日、熊本からお客さんがいらっしゃった。

2週間ほど前に、工房へ電話があった。「8月末に熊本の伝統工芸館で展示されていた時に、そこに行った。この時期に小石丸の養蚕をやっていると聞いて、見に行きたい」とのこと。

「来週あたりに糸吐き始めるので、そのあたりでお越しいただけると良いかもしれません。ただ、三連休だとちょっと遅いかもしれないですけど…。」と答え、また直前に電話をいただくことになった。

案の定、水曜日からカイコたちは糸を吐き始め、糸を吐く場所に移す作業、”上蔟”が始まった。木曜日には、大半を移し終えた。

その日の夕方電話があった。「どんな状況ですか?」「ほとんど上がっちゃったんですけど、遅れているやつをちょっとはお見せできるかもしれないです…」

そうして今日の午前中、来ていただくことになった。

10時、お客さん到着。幼稚園から小学校までの3姉妹とそのお父さん。

開口一番に言われた。

3年前、1度会ってるんですよ。3年前にも熊本の工芸館で、搬出してたでしょ?その時、上の子2人が小石丸の繭もらってるんです。あなたに。」

…覚えてなかった。

聞けば、3年前の工芸館での展示最終日、片付けも近い時間にいらっしゃったらしく、その時俺が小石丸のこと説明してたそうな。

「その時1番下の子は未だ小さかったんで、連れてきてなくて、その子は繭持ってないんです。笑」

笑うしかなかった。それで連れてくるお父さんと、喜んでついてくる娘さんたち。どんだけ素敵な家族なんだ。

「震災の時は、この車に家族五人で寝てたんですよ〜」

カマキリと戯れる姉妹を横目にそんな話もしながら、養蚕の現場を見せ、カイコを見せ、蔟を見せ、繭を見せる。

これがどんな風に糸になるのか〜、なんて話をしながら糸取り場に行って、座繰りで実際に繭から糸をとってみせる。うちの着物の経糸1本には小石丸約60頭分が必要になる話もしながら、糸を足し合わせる作業の体験も。

「…ってことは、桑畑もあるんですよね?」

「そうです、ちょっと歩きますけど、いきます?」

桑園までの道のりも、彼女らにとっては遊び場になる。話し込む男二人は先を行き、道草を食べまくるお姉ちゃんは、ネコジャラシの使い手らしい。

桑の畝間は追いかけっこの場所になり、大きくなった葉っぱはお面になる。

共通の友人が発覚し、手仕事の和装染織業界の話をする二人の元に、妹二人が近づいて来た。

顔を見合わせながら、俺の腰骨あたりに黙って差し出す。


「もらっていいの?」って聞いたら、下向いて頷く。

お花屋さんのも好きだけど、こんな花束もらったら、きっとプロも顔負け。

あっと言う間に3時間近く経っていた。



「次熊本来たときは、連絡くださいね!」

「もちろんです!ちなみに、Facebookとかやってます?」

「いや、そういうのは、子供たちとの時間がなくなっちゃうから。

 メールも。電話だけです。」


最後まで素敵な親子さん。3年の月日が、とってもよかった。


今度会いに行く時は、藍の花束を持って行く。そうしよう。






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