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サーキュラーエコノミーの実践

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第11回
27 Sep.2021
【 登壇者 :Fog/大山 貴子さん 】

第11回目の講義は、株式会社fog代表、サーキュラーエコノミーの実践家の大山貴子さんに自身の人生経験から考えるサーキュラーエコノミーのあり方とその実践において大切にしている考えについてお話しいただきました。

大山さんが代表を務める株式会社fogは、起業・行政・市民団体における循環型社会の実現に向けた“変革”を行うデザインコンサルティングファームです。


本当の意味でのサーキュラーエコノミーの実践

昨今、SDGsやサスティナブルな考えがトレンドにあり、企業も顧客からのそうしたニーズが求められています。

「だからSDGs、サステイナブルをテーマにしたビジネスを始めます」

サーキュラーエコノミーに関心を抱いていた大山さんは、こうした企業に違和感を感じていました。サーキュラーエコノミーの根本を理解せず、ただマーケティング材料として処理されてしまうのでは、サーキュラーエコノミーの実現にはならず、一部の消費になってしまいます。

この現状から、大山さんはサーキュラーエコノミーの体現には組織全体の変革起こすための構造改革を行わなければならないと考え、株式会社fogを立ち上げました。

「“共視”をデザインする」

大山さんは、fogで行っていることは共視(共に目線をつくる)のデザインであるとおっしゃいます。システムだけを構築してしまうと、自分は関係ないと考えてしまう人が出てくる
多角的な変化をしていくためには、それを突き動かす人の意識の変化が必要です。社会全体に目をやるのでなく、生活者一人ひとりの生活の視点に立ち、一人ひとりの意識を変えていくことが大事なのです。

〈 fogの掲げるVISION 〉
サーキュラー変革の起点はあくまで「人」であり、「人」を起点にした循環型社会を共創していく


日常化させるためのサーキュラー

大山さんは、この9月に循環する日常を選び実践する拠点「élab(えらぼ)」を東京都台東区鳥越にてオープンします。élabは「日々の暮らしの中から循環型社会を実現すること」目的とした複合施設です。調理工程でのフードロス削減の実施、オーガニック野菜の利用、テイクアウト容器の削減など、生活者一人一人が、日々の暮らしに取り入れることが可能な”循環”のアイデアを実施しています。

施設は、レストラン、ティー&フードスタンド、マテリアルラボの3つのエリアから成り、こうした体験をコミュニケーションツールに街の人々により自分ごととして捉えてもらえる仕組みを設計しています。
大山さんは日本の工芸民芸品や田舎の日常にはサーキュラーが存在していると言います。そうした古くから自然と行われてきた文化を永続的に人々の暮らしの中に続くようにアーカイブしていくことが大事であると考えているそうです。
élabはそんな、サーキュラーリビングラボを目指しているのです。


溶け込み目線を調節する

大山さんは、講義の中で「目線」についてしばし語られていました。
前項で述べた、サーキュラーエコノミーの体現に必要な共視(共に目線をつくる)のデザインを行うという考えは、ご自身の人生経験からたどりついた答えでした。

大学時代、社会学を先行していた大山さん。
ウガンダ、エルサルバドルにて農村留学を経験しました。
その時の大山さんは周りの学生と異なり、技術や知識を「教えてあげている」というスタンスではなく、現地の人々の文化や環境を知り、自分ごととして生活することを大事にしました。
現地の生活に入り込んで、気持ちを寄り添い合わせることで、人々と心を通わせ、理解することができたそうです。
このような経験から、生活する人々に「溶け込む」こと、「溶け込み目線」の調節を意識するようになったのです。

この「溶け込み目線」によるfogのプロジェクトの事例を紹介していただきました。

島根県雲南市でのプロジェクトでは、自社社員に現地に3ヶ月住んでもらい、一市民として目線を合わせ、その目線でのリサーチを行ってもらったそうです。そうしたリサーチのもと、街の人に言葉を発する機会をもうけると、多くの声を得ることができました。
プロジェクトで製作された「うんなんローカルマニフェスト」は街の人々の手元に届き、共通言語として存在しています。


所感

ある公民館を思い出しました。そこは、建築家が「街に開いた公民館」をコンセプトにガラス張りで前には開けた広場を持った設計をしていました。曲線を用いたとても美しい外観です。しかし、実際に使用する市民や管理者からは「ガラス張りでポスターも気軽に晴れない」「広場はそもそも住宅地から遠くて使わない」など、建築のコンセプトと利用者との間に大きなズレがあったのを思い出しました。

1.多角的に対象を見ること
見えているもののその裏にある心理や背景を理解すること
2.境界線を曖昧にする
自分は一市民であることを意識し、境界線を曖昧にすることで稼働範囲を広げることができる
3.脱サステイナブル
サステイナブルという言葉一つで片付けてしまうと、本質が見えなくなる。
言葉に囚われず、本当の目的は何かを大事にする。
4.巻き込むために甘える・依存する
一人で突っ走ると周りから理解されなくなる。
共感共視の輪を作る。

講義の最後に大山さんが大切にしていることを紹介いただきました。
大山さんが大事にしていることは、何か物事を変革したい時、地域や社会にアプローチする時にとても大切なことなのだと思います。
やりたいを叶えるためには、当事者の生活に溶けこみ彼らの立場になって物事を考えることがいかに大事であるのかを学びました。そしてそれは一人の力だけではうまくいかず、賛同を得て「みんなでつくりあげる」ことこそが変革に近づくのだと感じました。


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