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後押しのデザイン

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第3回
26 Apr.2021
【 登壇者 : RENEW : 森 一貴さん 】

第三回目の講義は、「社会に自由と寛容をつくる」ことを掲げ、福井県を拠点に様々なプロジェクトを行なっている森 一貴さんにレクチャーしていただきました。「社会に自由と寛容をつくる」とはどういうことなのか。
講義からは、大きく3つのお話をしていただきました。

1.変化のための階段を小さなつくる

2.作ることの民主化

3.作ることの民主化2.0


1.変化のための階段を小さなつくる

アマルティア・セン
人間の「自由」の実現には権利や福祉などの「財」を与えるだけでなく、「財」を活用できるための「capability(能力)」を高める必要がある

森さんは、センと同じく、幸福は一定に定義できず、多様な選択肢とそれを可能にする文化とシステムが重要であるとおっしゃいます。

森さんの活動をご紹介いただきました。

事例1-1.生き方見本市HOKURIKU

福井というまだまだローカルな場所で、さまざまな人の生き方を紹介するこのイベントでは、福井にいる何かやろうとしているけどしていない人を動かしたり、その人たちと緒に何かを成し遂げることによって、自信に繋げることを行なっています。

生き方見本市HOKURIKU

事例1-2.田舎フリーランス養成講座鯖江

こちらは福井県鯖江市で開かれた、田舎1ヶ月合宿してWEB系フリーランスになりましょうというプログラム。これをきっかけに田舎が好きになって移住する人やフリーランスという枠からはずれ、自分で商売を始める人やイベントカレー職人などが誕生したそうです。

田舎フリーランス養成講座鯖江 copy


2.つくることの民主化

ーつくることの民主化

森さんが今一番力を入れていること、それは個人が何かを変える能力を持つことを後押しするDesinging Capabilityを醸成していくことなのだと。


事例2-1.RENEW
2015年から行なっているこの活動は、森さんは今年の3月まで事務局長を務めていました。RENEWでは、漆器、越前和紙、刃物、焼き物などのものづくりが盛んな福井県鯖江市とその周辺地区の工房を一般開放し、ワークショップや買い物を楽しんでもらうイベントです。
この取り組みにより、出店者さんたちの売り上げは上昇し、移住者も増え多そうです。また、BtoBの街であった鯖江市に、新しいお店が誕生し、工房と消費者との距離が近くなりました。

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このプロジェクトの初めは、職人さんたちからは工房を開放して「何が面白いんだ」という声もあったそう。しかし、いざ始めてみると来場者の方々は、普段見ることのできない工房の雰囲気やものづくりの裏側を魅力に感じました。今まで価値がないと思っていたものが意外と、一般人にとっては面白いものであったことに職人さんたちが気付いたのです。

価値がないと思っていたものが価値であることに気づく
誰かにとっての当たり前のものが、新しい価値として輝ける

ものにありふれた豊かな現代、新しいものをただ生み出すだけでなく既存のモノのまだ見ぬ新しい価値の創出がとても重要であると私は考えます。この取り組みでは「ものづくりの裏側」の隠れた魅力を人々に価値として還元した結果、鯖江市のまちづくりにも繋がって行ったのだと感じました。


事例2-2.ゆるい移住

森さんの運営するゆるい移住は「こうでなければいけない」「これをしなければいけない」そうした決まりは一切ありません。何もしない「ルールのない場所」です。
今の日本では転職と転職の間の空白の時間が許されなかったり、大学卒業後すぐ就職しなければいけない風潮があったり、社会で白い目で見られがちな時間があります。もっと生き方を模索するための時間があってもいいのではないか。何もしないことを許される時間を森さんは提供しています。

ゆるい移住は、“ここじゃないどこかに行きたいと思っている人たち”に自分自身の生き方を模索するプログラムです。

ゆるい移住 copy


少し私の話をします。私は大学2年になる年に、適応障害(鬱病の一種)という症状になりました。何もできなくなってしまった自分が嫌いで悲しくて自分の居場所をずっと探していました。窮屈に感じたこの生活を変えたいと思い、思い切って1年間休学を決めイギリスに留学し、その後バックパッカーとしてヨーロッパを2ヶ月間周遊しました。そこで触れたさまざまな文化や価値観は私の閉ざしていた心を開放し、前向きにしてくれました。
休学したことに白い目をする人もいたけれど、この1年間の休学は私にとって絶対に必要な時間であったし、この時間がなければ病気から立ち直っていなかったかもしれません。

ゆるい移住は「偏差値の高い大学に行かなけれないけない」「就職しなければいけない」「結婚しなければいけない」そんなルールや社会の視線を気にして行動できない人達のために、人生は自由であることを気づかせてくれる素敵なプロジェクトであると感動しました。もし、当時の私がこのプロジェクトに出会っていたら即参加しただろうなあ。
どうしてもマジョリティに飲まれてしまう社会だけれど、もっとひとりひとりの生き方に寛容でいつでも自分を変えることができる機会のある世の中であれば、苦しんでいる人々も少しは楽になると思います。
そんな社会の創出を森さんは行なっているのだと感じました。


3.つくることを民主化2.0

森さんの考える「作ることを民主化2.0」は、ある組織が{個人が何にかを変える能力を持つことを}後押しすることを後押しする(Designing Designing Design)であるとおっしゃいます。

事例3-1.福井県の政策デザインプロジェクト

「ちょこっと就労」

高齢者福祉施設の従業員確保を行うため福井県庁にサービスデザインの考え方の導入し、県庁の職員たちと一緒に「現場」に行きデザインリサーチを行ったそうです。

❌組織が市民に政策を押し付ける
⭕️政策をデザインする中で市民の声が反映され、行政の人たちがクリエイティブリーダーである状態

現場を見て得られる生の声による視点やサービスデザインの行い方を県庁職員の方々に広めています。


最後に


考えているけど動けない人、やり方がわからない、そんな人たちや組織の行動をサポートし、次への一歩を促していく。
ただ「田舎を盛り上げよう」「移住者を増やそう」という数値的な目的ではなく、森さんの活動には「人々の行動の選択肢と価値観を広げ、その意思決定の自信につながること場を創出」しているのだと。そしてそれが結果的に、福井を盛り上げ、移住に繋がっているのだと感じました。

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