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気の持ちよう  | アートとコピー Vol.02

さすがに業界内なら誰しもが知る副田高行さんの講座。てっきり今日は、広告のつくり方を学ぶのだと思っていた。あの広告はどう生まれたのか。今回の課題は、どこに目をつければよかったのか。どうすればもっとよくできたのか。そんな講評が聞けると思っていた。でも学んだのは、面白い広告のつくりかたではなく、面白い自分のつくり方だったと思う。

コピーライターになってから、いろんなところで「キャッチコピーの全盛期は終わった」と耳にした。それで、別に広告のメインストリームにいたわけでもないくせに、なんとなくそんな気がしていたし、目の前の仕事を必死にこなしていくうちに、「あ、憧れていたキャッチコピーを書く機会なんてのは、そうそうないんだな」と思うようになった。

コピーライター7年目。せっせと案件を整理して進行する毎日。決まった期日に決まったものを納品することを目指しながら、「もしも面白い仕事が回ってきたら、思いっきりやってやる」と、ぼんやり夢を描いて、ベッドに沈む。それが日常だった。

今いる環境は万全じゃない。これは、自分を守るための最強の盾だったかもしれない。予算が。納期が。業界が。その枕詞は、最初はクリエイティブに没頭できないフラストレーションだったかもしれないが、いつしか単なる言い訳に成り代わっていた。

「気の持ちよう」

ぽんっ、とスライドに映しだされた言葉が、胸にすとんと入ってきた。立派な環境じゃないと言えるほど、自分は頭をひねってきただろうか。もしかしたら、この環境じゃないとできないことがたくさんあったのではないだろうか。すべては、気の持ちよう。

予算が。納期が。業界が。言い訳するための材料は、もしかしたらクリエイティブを突き詰めるための材料だったかもしれない。少なくとも、予算がないからコピーを書けないなんてことは、絶対ない。だって自分が書くんだから。

「面白い仕事なんてない」

副田さんが、そう言った。そうだ、そうだ、と深く共感した。生まれたときから面白い仕事なんて、あるわけない。面白い仕事が回ってくることなんて、一生ない。面白くできるのは、自分でしかないのだ。仕事を面白くして、デザイナーに、上司に、クライアントに提案することができるのは、コピーライターの特権だと思った。

てっきり今日は、面白い広告のつくり方を学ぶのだと思っていた。でも学んだのは、面白い自分のつくり方だったと思う。面白くない仕事を面白くする。面白くないことだから、面白く伝える。そのために僕は頭をひねるべきだと強く感じた。

講座の2日後、月曜日。デスクについて、制作中だった企画書の草案を開く。一行目には、いつも通り「与件の整理」と書かれている。ヒアリング内容を整理するより、クライアントに伝えたいことはなんだろう。少し考えて、「与件の整理」を「あなたの話を聞いて、驚いたこと」に書き直した。いつもより数段、面白い企画書ができる予感がした。

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