見出し画像

安全はどうやって作られる?設計にフィードバックを取り込もう。

単品でも読めますが、前回の記事くらいの予備知識があると読みやすいです。

さて、本日は臨界事故の防止について考えていきます。
つまり、意図せぬ臨界を引き起こさない設計について、です。

おさらい:臨界状態

○原子力は臨界状態を維持して発電している
○超臨界が続くと暴走する(事故になる)
○未臨界が続くと停止する(発電に使えない)

臨界を上手いこと維持すると上手く発電できますが、臨界状態は勝手に維持されるわけではありません。
実際にはピッタリ臨界状態が維持されているわけではなく、ゆらぎながらもだいたい臨界状態、という感じです。

画像1

すなわち、中性子が2個出てきた際に、1個は消えていき、1個はウランと反応する状態にすることが必要です。
2個とも反応してしまうと超臨界、1個も反応しないと未臨界です。

臨界と炉内の状態

臨界状態の変化は、要するに核分裂の数の変化です。
超臨界は核分裂数が多く、未臨界は核分裂数が少ないです。
核分裂の数が多ければ、熱の発生量が増えるので、原子炉内の温度が上がります
核分裂の数が減れば、熱の発生量が減るので、原子炉内の温度が下がります

そこで、温度変化に応じて核分裂数を増減させる仕組みを作ることで、臨界状態が維持されるようにしています。
具体例を見てみましょう。

ボイド効果

前回の記事で臨界には水が必要と説明しました。
なぜ水が必要かと言うと、核分裂時に発生した中性子は速度が速すぎてウランと反応しにくいですが、水は中性子を効率よく減速させるため、中性子とウランを反応しやすくできます。減速効果といいます。

さて、原子炉内が超臨界状態になると、温度が上がるんでしたね。
温度が上がると、原子炉内を満たす水の密度が下がります。
イメージとしては、沸騰したお湯って泡がボコボコ出ますよね。泡の部分は水がないので、上述の減速効果がなくなってしまいます。
減速効果がなくなることにより、中性子とウランが反応しにくくなり、核分裂が起きにくくなります。つまり、反応は未臨界側に向かいます。
このように、ボイド効果は温度が上がるとそれを抑制する(温度を下げる)方向に働きます

画像2

ボイド効果によってさらに温度が下がるとどうなるでしょうか?
温度が下がるので、水の密度が上がります。
先ほどの例で行くと、沸騰したお湯のボコボコ具合が減ります。泡が減るので、減速効果が強くなります。
減速効果が強くなることにより、中性子とウランが反応しやすくなり、核分裂が起きやすくなります。つまり、反応は超臨界側に向かいます。
このように、ボイド効果は温度が下がったときもそれを抑制する(温度を上げる)方向に働きます

画像3

このように、ボイド効果は超臨界と未臨界のいずれの方向に揺れた場合も、それを元に戻す(臨界状態に維持する)方向に作用します
これを負のフィードバックといいます。

この他にも、ドップラー効果といって燃料温度が上がると中性子とウランが反応しにくくなるなど、負のフィードバック効果を持つ仕組みを複数取り入れることで、超臨界にも未臨界にもかたよることがなく、安定運転できるように作られています。

負があるなら正もある?

もちろんあります。
正のフィードバックはそっくり反対の効果で、一度超臨界に振れると、さらに反応が加速して温度が上がり…という事が起こります。
かの有名なチェルノブイリ発電所事故の原因のひとつです。

チェルノブイリ発電所は中性子を減速させるのに、水ではなく黒鉛を使っていました(黒鉛減速軽水冷却)。
つまり、温度が上がっても減速効果が減らない(黒鉛は沸騰しない)ため、ボイド効果による負のフィードバックが働かず、反応が加速し続けてしまったんですね。
もちろん、ボイド効果だけが原因というわけではないですが、低出力時に正のフィードバックがある設計だったそうです。
当然その事実は認識されていたようで、低出力時は制御棒(中性子を吸収する棒)を差し込んでおけ、というルールだったんですが、これが運転員のミスにより引き抜かれてしまい、中性子が吸収されなくなり、超臨界となり、そして事故へ…ということらしいです。

人はミスをする

今や失敗に関する前例は枚挙にいとまがなく、個人の失敗も集団浅慮も、さまざまに経験されています。
したがって上述のようなクリティカルな部分では、人がミスを起こすことを前提に、設備自体が事故を防ぐような設計が取られます
なんらかの外的事象(地震やテロ行為など)によって設備が破壊された場合でも、ホウ素(中性子を吸収するすごいやつです)の自動投入や制御棒の自動挿入によって臨界事故は防止されます。

ちなみに、仮に超臨界状態となった場合でも、たとえばラプチャーディスクといって、あえて若干弱い部分を作っておくことで、原子炉が耐えられないほどの高圧になる前に圧力を逃がせる(高圧になると割れて空気が逃げる)設計にしてあります。
事故事象へ進展しても、最悪の事態(原子炉の破損による燃料散逸)を防ぐようになってるんですね。
これは減災(事故拡大の防止)の考え方です。

炉内の臨界については、核毒物や即発/遅発中性子といった要素もあるので、実際にはここで説明したよりも圧倒的に複雑な反応があります。
が、気にしないでください!
とにかく大事なのは負のフィードバックを効かせよう!という部分です。

多少何かが起きたとしても、事故事象に進展する前に戻せる仕組みがあれば、そして仕組みが多段階で準備されていれば、決定的な状況に陥るのを防止できます。
日常では、失礼に気付いたらすぐ謝る、ということで人間関係に負のフィードバックをかけることができますね。
日常に安定感、出していきましょう。

まとめ

○負のフィードバックは変化を元に戻そうとする効果
○負のフィードバックを設計に取り込むことで事故への進展を防ぐ
○複数のフィードバック効果を組み合わせて多層の防護をかける


ご覧いただきありがとうございます! 知りたい内容などあればご連絡くださいね。