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そしてなにもかも失った



「お達者で」

もうずいぶん前に使うのを止めた、ショートメッセージを開いた。
そこに残されたのは、あの人から送られた最後のメッセージだった。
あの日から私の世界の全ては色を失ってしまった。自分がしてきたことがどんなに酷いことだったのか、あの人が去ってしまってからようやく気付いたのだ。
色を失った世界のなかで、私は何事もなかったかのように、日常を送って、笑ったり、泣いたり、怒ったり、息をして、そして怒ったり、泣いたり、息をして、そして泣いたり…ある日気づいたら、もう笑うことも怒ることも、とうとう泣くことすら出来なくなっていた。私に出来るのは、息をするだけ。ただ日々を暮らすだけのロボットのようだった。
もう、いっそ息をするのもやめてしまったらどうかな…ふと、そんなことが頭をよぎる。
一緒に過ごした時間の、一緒に見たキラキラした海の、輝きが遠く眩しく思い出された。
あれからどれくらい経ったのだろう。
ふと、あの人と一緒に行った海を見たいと思った。
鉛のように重たく、冷えきった身体をなんとか起こして外へ出た。色をなくした世界にはお誂え向きの雨が降っていた。

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