漱石の本棚
タイトル画像・・・
これを見た瞬間にただただ見とれてしまった。
これは空想でもなく創作でもなく、この世に、そしてこの日本に紛う方なく存在する本棚である。それは、
漱石の本棚
こちらのサイトから使わせていただいた。
漱石が生存中にこの通りに並べていたのかどうかはわからない。だが、少なくともこれらの本は漱石が事実所有していた本そのものであり、中を開くと(おそらくは、間違いなく)漱石が余白にペンを走らせた数々の書込みが見られるはずである。漱石の蔵書は、今、東北大学にてその全てが保管されている。東北大学に保管されるに至った経緯はリンク先に詳しい。
本棚に見とれる
この本棚は、あまりに美しくて思わず見とれてしまう。かなうことならガラス越しでも構わないから一般公開してほしいくらいである(と言っても、仙台まで見に行けるのか?)。
漱石は明治代にこの蔵書の多くを入手したと思われる。だが、この時代の本の紙質はあまりよくなかったようだ。江戸時代には多くの本は和紙で作られ、それらの紙はかなり長持ちしたらしい。明治期に入ると洋紙が普及し始め多くの本がそれにて作られる。だが、これらの紙の劣化は早い。今、現在において、すでに破損している頁も少なからずあるようだ。それを如何にして保管し保存するのかは、急務の課題である。そのことについてはこちらに詳しい。
一般人が触ることはもちろん、ガラス越しの公開も簡単でないことは想像に難くない。であるから、たとえ画像であってもタイトル画像のようなものは非常に関心が向く。
本棚を読む
本棚を読む、と言っても背表紙を追いかけるだけであるが。もう少しゆっくりとタイトル画像を見てみた。
左上から。
『Regina』と読める。
著者は『Hermann Sudermann』。
著者も知らなければ、著作も知らない。
その隣は『The undying past』。
こちらも著者は『Hermann Sudermann』。
左隣と同じだから読めたものの、そうでなければ読めなかった。
さらにその隣は、布張りエンボスの文字加工で、全く読めない。
漱石文庫目録
ふと思い出した。
漱石蔵書のリストがあったのではなかったか。
ああ、あったあった、これだ。
https://tohoku.repo.nii.ac.jp/records/135913
真ん中あたりでPDFをダウンロードできる。
ダウンロードして開いてみた。
立派な表紙がお迎えしてくれる。
昭和46年。
私、5歳(笑)。
それはどうでもいい。
このPDFで『Regina』を検索してみる。
すると・・・
あったあった。
783 Sudermann (H.) Regina; tr.by B.Marahall. Lond. Lane, 1899. 347p. 12°. 書入れ、傍線あり
ちょっと凡例をあげておく。
漱石文庫目録と本棚
さらにリストの次の行を見やると『The undying past』とあって、よくよく比べてみたら本棚と並びが同じようだ。
783 Sudermann (H.) Regina; tr.by B.Marahall. Lond. Lane, 1899. 347p. 12°. 書入れ、傍線あり
784 Sudermann (H.) The undying past ; tr. by B. Marshall. Lond. Lane, 1906. 382p. 16°. 書入れあり
785 Sudermann (H. ) Das hohe Lied. Stut. Cotta, 1909. 635p. 12°.
786 Swan (C.) Gesta Romanorum;tr. by C. Swan. Lond. Routledge, 1905. 472p. 12° .
787 Tasso. The Jerusalem delivered of Torquato Tasso ;tr. w. a life of author by J.H.Wiffen. N.Y. Appleton, 1868. 624p. 16°.
788 Tchekhov (A. P.) Valet de chambre : recit d1un terrorists ; tr. par G. Savitch & E.Jaubert. Par. Calmann Levy, 342p. 12°.
789 Tchekhoff (A.P.) The black monk and other stories;tr.by R.E. C. Long. Lond. Duckworth, 1903. 302p. 12°. 書入れ、傍線あり
790 Tchekhoff (A. P.) The kiss and other stories; tr. by R.E .C. Long. Lond. Duckworth, 1908. 317p. 12°. 傍線あり
791 Tolstoy (L.N.) What is art; tr.w. introd.by Aylmer Maude. Lond. Scott, n.d. 237p. 12°. (Scott library) 書入れ、傍線あり
ここまでは順当にたどっていけたのだが、次の792番ではたと止まる。
792 Turgenev (I.S.) The novels of Ivan Turgenev;tr.by C.Garnett. Lond. Heinemann, 1906. 15v. 16°. (Large type fine- papered.) 書入れ、傍線あり
本棚でも、Tolstoy の隣は確かに Turgenev なんだが、タイトルが違う。次の793番を見てようやくわかった。
793 Turgenev (I. S.) Tourgueneff and his French circle; ed. a. arranged by E .Halperine- Kaminsky ; tr. by E. M. Arnold. Lond. Fisher Unwin, 1g9g, 302p. 12°.書入れ、傍線あり
本棚上段右端に見られる鮮やかな緑の分厚い本が、この793番目である。すると、その左に15冊ほど同じシリーズとおぼしき本が複数並んでいるが、この792番目はそのシリーズ丸ごとを指すようだ。
上段の残りである右端の二冊はこれになる。
794 (Euripides) Verrall (A. W.) /i-.Att. fJ7*,li[a, IJ Essays on four plays of Euripides. Camb. Univ. Press, 1905. 292p. go.
795 Virgil. The works of Virgil; tr. w. notes by Davidson ,rev. by T. A. Buckley. Lond. Bell, 1g69. 404p. 16°. (Bohn's classical library) 書入れ、傍線あり
では、下段。
560 Symonds (J.A.) Renaissance in Italy. Land. Smith, 1898- 1901. 7v. 12°. 44
561 (Shelley) Symonds (].A.) Shelley. Lond. Macmillan, 1887. 書入れ、傍線あり
562 Symonds (].A.) Shakespeare's predecessors in the English drama. Lond. Smith, 1884. 668 p. 8°.
563 Symons (A.) Studies in prose and verse. Lond. Dent, 1904. 291p. 12°. 傍線あり
564 (Browning.) Symons (A.) An introduction to the study of Browning. Lond. Dent, 1906. 263p. 16°.
565 Taine (H.A.) History of English literature; tr. by H. van Laun. Lond. Chatto&Windus, 1906. 4v.16°. (St.Martin's library)
566 Taine (H.A.) History of English literature. N.Y. Lovell, n.d. 722p. 16°. (Lovell's library) (Title page defective) 書入れ、傍線あり
567 Taine (H.A.) Notes on Englgand;tr. by W.F. Rae. Lond. Strahan, 1873. 377p. 16°. 書入れ、傍線あり
568 Tatham CJ.) The dramatic works of John Tatham. Edinb. Paterson, 1879. 304p. 12°. (Dramatists of the restoration)
569 Taylor (]. ) The great exemplar of sanctity and holy life, described in the history of the life and death of the ever blessed Jesus Christ. Lond. Pickering, 1849. 3v. 16°.
570 Taylor CJ. ) The rule and exercises of holy living and dying ; ed.w.life, introd. , a . notes by F.A.Malleson. Lond. Routledge, n.d. 168p. 12° . (Sir John Lubbock's hundred books) 傍線あり
571 Ten Brink (B.) History of English literature;tr. by H.M.Kennedy, etc. Lond. Bell, 1895-96. 3v. 16°. (Bohn's standard libray)
572 Tennyson (A.Lord.) The poetical works of Alfred Lord Tennyson. Lond. Macmillan, 1895-98. 23 v. 24 o.書入れ、傍線あり
うん。
今度はスムーズにできた。
Tchekhov
リストをつらつらと眺めてみる。
まずは、788、789、790。
これ、チェーホフ、だよね。
チェーホフといったら、ロシアの作家なんだけれども、この「Tchekhov」というスペルは何語?
「Tchekhoff」は何語?
Wikiを見ると次のようになっている。
日本語表記:アントン・パーヴロヴィチ・チェーホフ
ロシア語表記:Антон Павлович Чехов
ラテン文字(英文表記):Anton Pavlovich Chekhov
「Tche」って?
時代の差なんだろうか。
と思ったら、書籍は「Tchekhov」になっていたりする。
「Tchekhoff」の方はわからないんだけども、かつて英語のスペルはいろいろとも聞いたので(ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険)そんな関係かしらん。
Tolstoy
その次はこれ。
トルストイ
チェーホフといい、トルストイといい、ロシア作家の作品があるというのは少し意外。これは英語訳を読んだということなのだろうか。1900年前後で、ロシア語からの日本語訳はなかったか。と思って少し調べてみたら、初の翻訳が1883年頃のようで、しかも英語訳などから翻訳するなどの重訳なども多かったらしい。だとすると1900年前後は翻訳作品も少なかったと想像されるわけで、英訳で読むということもなるほどとうなずける。
Turgenev
すると今度はツルゲーネフ。
ロシア文学が続く。
ツルゲーネフは『はつ恋』が私の本棚にもあるが、ほとんど記憶に、ない。漱石の本棚にそれらしいタイトルは見当たらないが、長い作品ではないので「ETC.」の中のどれかに入っているのかもしれない。
それにしても、トルストイよりツルゲーネフの方がたくさんあるんだな。目録を検索してみても「Tolstoy」はわすが一ヵ所しかみつからなかった。「Dostoevsky」に至っては全くなかった。もし「罪と罰」あたりなんぞがあったりしたら、また書込みを求めて気になるところであったが、少々残念な気もする。
Euripides
794番目
「Euripides」とは、古代ギリシャの詩人であるらしい。「4つの戯曲に関するエッセイ」だそうだが、4つの戯曲が何かはよくわからない。
目録で「Euripides」を検索すると次のようなものもある。
いずれも書込みもなければ、傍線もないが。
Virgil
795番目。
「Virgil」で検索すると、こちらが出てくる。
もう少し調べるとこういうことのようだ。
古代ローマの詩人。
詩人が多いな。
Symonds
では、下段へ。
先頭5冊ほどに同じ著者のものが続く。
「Symonds」だけではわかりにくいが、この方のようだ。
と言っても、よくわからない。
なので、とりあえずWikiをリンクしておく。
Taine
『Taine (H.A.) History of English literature』はAmazonで売ってた(笑)。いきなり「Vol.2」やけど。
やっぱりよくわからんけど、英国文学史に関する書物であるらしい。
漱石の本棚の565と566が同じ著者、同じタイトルで566だけに書込みがある。565の4巻はなんだか豪華なので、書込み用に566を買い求めたのかな。
567も似た感じのものかと思ったが、「Englgand」で?となる。よく見ると目録の方の誤字だった。正しくは「England」。それでもって「Notes on England」とは何ぞやと思いネット検索しようとして、またまたはたと思い至る。
「GoodReads」で検索してみたらどないやろ。
むー、どんどん発散してゆく。
「GoodReads」とは読書好きが集まるサイトで、今確認してみたら運営者はAmazonだった。こちらもブロンテ著「ジェイン・エア」にどっぷりはまった時にお邪魔していたサイトで、和書もあるが当然のことながら圧倒的に洋書が多い。こちらで検索してみると、あるある。
☆4?
中身を見ても、☆4が2件で、レビューなし。
書物に関する説明も『ふるい本だけど復元したよー』という紹介しかなくって、内容はさっぱりわからん。うろうろしてみたけれど、わかったことは「歴史的に重要である」ということだけだった。
Tatham
次、568。
いろいろと検索した結果。
ということであるらしい。
戯曲。
詩や戯曲や、幅広い。
Taylor
569番目の、この長い長いタイトルは。
調べても調べてもイマイチよくわからないんだが。
初版が1649年。とにかく古い。
漱石の時代よりさらに200年以上さかのぼる。
伝記とあるが、ようするにイエス・キリストの伝記のようだ。
なんだかしらないが驚くほど値段の高いものがある。
US$1,647.79とか。
US$2,000とか。
古書としての値段なのか。
古書にしては綺麗な気もするが。
レプリカなのか。
レプリカにしては高価か。
Ten Brink
著者はたいへんに長いお名前の方で、Wikiでたどり着いたのはこちら。
Bernhard Egidius Konrad ten Brink
がその名前であるらしい。
チョーサーを研究した方であるらしいが、こちらは書物は英文学史で、ライターは複数人による全3巻。
Tennyson
最後。
そろそろ草臥れてきた。
著者はAlfred Lord Tennyson。
詩人であるらしい。
本書は詩集のようだ。
「Poet Laureate」とは何ぞやと思ったらこういうことだった。
本書の著者 Alfred Lord Tennyson は、その Poet Laureate であるようだ。
そうか。
昔のアーティストやクリエイターは、王や貴族の保護を受けることもあったわけだ。王や貴族の保護というと一長一短かもしれないが、それにしても昨今はそういうことが少なすぎるように思える。翻訳家なども、翻訳だけではなかなか食べていけないようなことも聞いた。基礎科学などの研究者やアーティスト、クリエイターを育てる工夫がいるんじゃなかろうか。
参考
東北大学図書館 漱石文庫について
東北大学図書館 漱石文庫
漱石文庫和漢書の保存状況について
https://tohoku.repo.nii.ac.jp/record/106982/files/0914-9791-2017-4-27.pdf
漱石文庫等洋貴重図書修復事業報告
https://tohoku.repo.nii.ac.jp/record/131085/files/0914-9791-2020-7-83.pdf
近現代の大量一枚もの資料の保存手当てについて-漱石文庫を例に
https://tohoku.repo.nii.ac.jp/record/134173/files/0914-9791-2021-8-55.pdf
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