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月探査機SLIMは「え!? こんなとこに着陸するん!?」というところに着陸した!

↓こちらのタイトル画像を見て「あ!」と思ったのは私だけではないはずである(多分)。

ほらほら。C-3POがひっくり返ってる。
あ、C-3POじゃなかった。

R2-D2だ。

いやいや、C-3POでも、R2-D2でもなくって、SLIMの話である。



月面でひっくり返っていたSLIM

こちらは、記者会見YouTube。

そして、こちらが記者会見説明資料。

https://www.jaxa.jp/projects/files/youtube/ml_slim_lev1_lev2/jaxa_doc01_20240125-a.pdf

この、PDFにある画像がこちらである。

画像(1) SLIMの着陸姿勢を推定したCG画像(記者会見説明資料より)

JAXAは、SLIMからダウンロードしたデータをもとにSLIMの着陸姿勢を推定した。それをCGで作成したものである。
ああ、ひっくり返ってしまっている。
でも、これだけ再現できるんだなぁと、感嘆する。まるで、そこにいて見ているようだ。

いやしかし、驚くのはまだ早い。
もう一つがこちらの画像である。

画像(2) SORA-Qが月面で撮影した画像(記者会見YouTubeより)

これ!
これは、SLIMと一緒に月に持ち込まれた小型プローブの一つである「LEV-2(SORA-Q)」が月面で撮影した画像である。

まさに月面に逆さに着陸しているSLIMが写っている!
すごい!
月面上のSLIMの生写真が見られるなんて!

CG画像はSLIMのデータからの推定であるが、SORA-Qの画像は違う。「まさにそうである」という証拠写真に他ならないのだ。

ちなみに、記者会見ではSORA-Qが撮影した画像についても説明されている。
それがこちら。

画像(3) SORA-Qが撮影した画像の解説(記者会見YouTubeより)

真ん中より少し上に入っているグレーの横線。これはパケットロスだという。画像データはサイズが大きいため、小さいサイズに分割して送信側することが多い。その分割した1つ1つをパケットという。パケットロスとは、たくさん送ったパケットのうちの一部が正常に届かなかったということである。

そして下部左右に写っているのがSORA-Q自身の車軸である。SORA-Qとは、こんな形をしている。

画像(4) SORA-Qの概要(記者会見YouTubeより)

右側写真にボールの形をしたものがあるが、SORA-Qはこの形でSLIMに搭載され、ボールのまま月面に放り出される。月面に着地した後、パカッと開いて中からカメラが出てきて、左右に開いたボールが車軸になって移動する。この車軸が画像に写っていたわけである。「ああ、車軸が写りこんじゃったなぁ」というだけではない。この写真が、SORA-Qのボールがちゃんと開いたという証拠でもあるのだ。

ちなみに、SORA-Qは、直径80mm、質量250g!
小さい! 軽い!
それだけではない。
SORA-Qは自分で撮影する。地球から指示しない。しかも、この画像はSORA-Q自身が選んだものであるらしい。

ほんと、すごいなぁ。


着陸LIVEでもSLIMはひっくり返っていた

ねぇねぇ、あのSLIMの着地姿勢って、この下の画像とそっくりでない?

画像(5) SLIMの月着陸LIVE画像

この画像は、2024年1月19日深夜から実施された、「SLIM月面着陸LIVE動画」から取り出したものである。LIVE動画についてはこちらに書いた。

画像(2)のSORA-Qが撮影したSLIMとは傾きがちょうど逆なので、反対からみた感じだろうか。画像(5)のLIVE画像は、着陸するSLIMからリアルタイムで受信したデータをもとに画像化しているのだと思う。これがどれだけ実像を表してるんだろうと思っていたが、なんと! そのまんまであったわけだ。

すごい!

SORA-Qが撮影した画像を見ると、太陽光は左側からあたっているようである。そして、おそらく、SLIMの太陽光発電装置は反対側の右面にある。だから、太陽光発電からの電力がなかったのだ。少しずつ太陽が移動し、太陽光発電装置に光があたれば、再びSLIMは目覚めるかもしれない。

1月20日に着陸した時、JAXAはSLIMの向きも把握していたのだろうか。確信はないまでも、概ねは把握していたような気がする。SLIMを動かさないと決めた大きな理由だったかもしれない。


なんでひっくり返った?

ところで、SLIMは何故ひっくり返ったんだろう。
もちろん、その理由も記者会見で説明されていた。
その理由とは。

2つあるメインエンジンの1つのノズルが、落っこったのである。

落っこった?

え?
エンジンのノズルが落っこちたの?

そう、落っこちたようなのである。

SLIMから送られてきたデータからは、エンジンの出力が突如55%に減少した。これでわかるのは、2つのエンジンの合計出力が半減したということである。片方がなくなったのか、あるいは2つとも出力が半減したのかはわからない。

では、エンジンのノズルが脱落したと判断した根拠は何か。
航法カメラの画像である。
エンジン出力が低下した直後の頃、航法カメラに円錐形の黒い物体が突然現れた。どうやら、それがエンジンのノズルであるらしい。

なんと。
そんなものが、落っこちるのか。

さっきのSORA-Qからの画像をしげしげと見てみる。
ノズルは欠けているのか?

画像(6) SORA-Qが撮影したSLIMの拡大(記者会見YouTubeより)

うーん、でっかくしてみたんだが。
ノズルが1本なくなっているようにも見えるが、画像が鮮明でなく、また背景が黒いこともあって、イマイチはっきりしない。
同じような角度のSLIMの画像がなかなかないんだが、例えばこれと比較してみた。

画像(7) 製作段階のSLIM(SLIM Project 概要説明資料より)

これだと、間違いなくノズルが2本ある。
SORA-Qの画像は、やはり1本しかないか。

でも、なんで落っこったんだろう。
落っこちた原因は、JAXAもまだ特定できていないようだけど。外部要因? 隕石がぶつかった、とか? 特定するのも難しそうだ。


月探査機SLIMが着陸した場所

さて、SLIMが着陸した場所である。

それが、ココ。

画像(8) SLIMの着陸目標地点(記者会見YouTubeより)

・・・どこ? ここ。

「どこか」ということよりも、周囲の地形が問題である。画像を拡大してみた。

画像(8) SLIMの着陸目標地点拡大(記者会見YouTubeより)

青い点が、SLIMが目標にした着陸地点である。
赤い丸はクレーター。SLIMの着陸地点は、クレーターとクレーターの間のような所である。パッと見ても思うんだが、なんだかゴツゴツした場所である。もっと平らでツルンとした場所がたくさんあるのに。

従来は、そういう平らな場所を選んで着陸していた。一番は「とにかく無事に着陸する」こと。ちゃんと着陸できなければ意味はない。だが、一方で、月を研究する立場からすると、必ずしも研究対象が平らなところばかりとは限らない。むしろ、ゴツゴツしたところが多いかもしれない。

今回のSLIMは、月を研究する立場から着陸地点を選んだ。画像では ゴツゴツして見えるが、小さなSLIMが着陸するだけの少しの平らなところはあるだろう。SLIMはピンポイントで自ら着陸地点を探すので、少しのスペースでいい。

SLIMは着陸後動けないけれど、既に観測ポイントを特定しているようだ。もしかしたら、月の新しい知見を得られるかもしれない。

マルチバンド分光カメラで撮影するということだけど、どんなカメラなんだろう。何が見えるんだろう。興味は尽きない。


SLIMは再起動するだろうか

現在、SLIMは電源をオフにしている状態である。
バッテリーは少ししか残っていない。

だが。

太陽が移動して、SLIMの反対側に回れば再び電力を得られる。その時、SLIMはもう一度電源を入れる。SLIMは再起動できるだろうか。

簡単なように思えるかもしれない。しかし、今SLIMがいる月の環境は過酷である。昼は110℃、夜は-170℃にもなる。SLIMは110℃の環境で耐えているのだ。

太陽が反対側に回るのは、2月1日ごろ。
その時、SLIMはちゃんと起動できるだろうか。


記者会見の様子

技術者に、感情や感想を聞くなんてどうなんだろう。
初めはそう思っていたんだが、実はこれが一番有意義なのかもしれないと思い始めた。

1つは、SLIMのプロジェクトマネージャーの方のお話である。着陸した時のプロジェクト内の様子を聞かれて、とても興奮して混乱した状態だったということだった。太陽光発電からのエネルギーが得られないことはすぐにわかったようだが、そうすると、何故得られないのか、得られなければどうなるのか、どういうリスクがあるのか、これからどう対応するのか、おそらく、そこにいた全員が様々に思い巡らしただろうと思う。そういう状況を想像するだけで、こちらも興奮する。バッテリーだけであるとすると時間との闘いだ。その数時間は、きっと長い人生の中でもめったにない経験だったに違いない。そういう場所に一度でも立ってみたいものだ。おそらくは、責任もストレスも大きかったと思うが、着陸時に得られた高揚感はきっとそれらの責任を乗り越えた者だけが手にできる特権なのだ。苦労するほどに、成功したときの達成感は大きい。

もう1つは、LEV-2(SORA-Q)開発リーダーのお話である。あの、SLIMをとらえた画像を見たときの感想を聞かれてこう答えられた。様々な感情が押し寄せた、と。様々? 喜びしかないだろうにと思ったが、いったいどういう感情なのだろう。まず一番はやはり嬉しかったと。次にホッとした。そうか、やはり不安もあったのだろう。世間が注目するプロジェクトだ。そして、残念でもあったと。あの画像の中央くらいに見られるグレーの線。あのパケットロス。おそらくは地球へのデータ伝送途中で一部のデータが正しく届かなかった。それが残念であったと。最後に悔しかったとも。「え? 何故? 
何が悔しいん?」と思う。SORA-Qは、もっとクリアで綺麗な画像を撮影したはずだという。地球へ送信する伝送路は細い。たくさんのデータを送信できない。撮影した解像度をそのままに送信することはできなかった。きっともっと綺麗な画像を見たかっただろうし、多くの人に見てほしかっただろう。それがおそらく、悔しいという感情を招いたのだ。でも、きっと、その悔しさが次の技術への一歩でもある。期待はやまない。


参考資料

・2024年1月25日 JAXAから公開された資料

成果の概要
https://www.jaxa.jp/press/2024/01/20240125-1_j.html

LEV-1
https://www.jaxa.jp/press/2024/01/20240125-2_j.html

マルチバンド分光カメラ
https://www.jaxa.jp/press/2024/01/20240125-3_j.html

LEV-2(SORA-Q)
https://www.jaxa.jp/press/2024/01/20240125-4_j.html

・2024年1月25日 JAXA記者会見

・記者会見資料

https://www.jaxa.jp/projects/files/youtube/ml_slim_lev1_lev2/jaxa_doc01_20240125-a.pdf

・2024年1月20日 SLIM月着陸LIVE動画

・SLIM Project 概要説明資料https://fanfun.jaxa.jp/countdown/xrism-slim/files/SLIM-presskit-JP_2310.pdf

・SLIM月着陸LIVE動画に関する私の記事



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