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JAXA SLIM 月面着陸のLIVE配信が面白かった

昨夜はこちらにベッタリだったわけで。
お陰様で寝不足(笑)。

「LIVE配信」とあるのだが、5時間弱のその配信内容は今でも見ることができる。5時間弱と言っても、動画タイムラインの1:35:10~3:17:30くらいまでの2時間くらいは着陸状況把握のために中断していたので、ここらはすっ飛ばしてもよい(そもそも静止画の状態なんだが)。

内容を紹介してみる。



月面着陸までのLIVE

着陸の様子について、
「映画のように探査機が月へ降りてくる様子」
が動画で見られるわけでは、もちろんない。あるいは遠い将来、月上の探査機や、もしかしたら月に立つ人が、降りてくる探査機とか着陸船とかの動画を配信することもあるかもしれないが、今はまだ無理なわけで(案外、遠くない未来かも?)。もし見たければこちらでシミュレーションが公開されてますので、どうぞ。

そんでもって、じゃあ、LIVEではいったい何を見ていたのかというとこれである。

JAXA月面着陸LIVE配信

左側の金色の固まりが探査機「SLIM」で周囲4方向に伸びている赤いバーが噴射の大きさを示すようだ。リアルタイムでこのバーが伸びたり縮んだりする。

「ああ、姿勢を制御してるんだなぁ」

と、なんだか、探査機がシュッシュ、シュッシュと一生懸命バランスをとっているのが見えるようで、ワクワクする。

中央下の馬鉄のような形をしたのがメインエンジンの出力である。時にはエンジンを止めて慣性で動いているときもあって面白い。この画像の場合は、2つのメインエンジンがどちらも100%で出力していることを表している。

そして、右側のグラフが探査機の飛行経路である。縦軸が高度で、白い線が予定航路、赤い線が実績である。白い線と赤い線はほとんど重なっている。予定通りに航行しているということなのだろう。この画像だと、探査機はおよそ月面から15km~20km上空にあるようだ。上空20kmというと、地球上であれば成層圏あたりでまだまだ遠い。

Wikipedia「成層圏」

地上から見上げるとずーっとずーっと高い位置にある。だがここから着陸するまで、そんなに長くないのである。しばらく見ていると次のようになっていく。

JAXA月面着陸LIVE配信

もう、上空5kmくらいまで降りてきている。
左上のタイムスタンプを見ると15:11:29→15:15:05と3分半くらいしか経っていない。大雑把に10kmを3分半で降りたとすると時速171kmにもなる。半分としても時速85km。結構、速いんである。

さらに眺めると。

JAXA月面着陸LIVE配信

上空5000m。まだ富士山にも到達していない。
しかしここまでくると、ひたすらまっすぐ下に降りてゆく。「まっすぐ下に」と言っても、この動画では探査機が下に降りてくるというよりも、左側の垂直座標のスケールが変わっていくだけなんだが。

JAXA月面着陸LIVE配信

上空2500m。富士山6合目くらいの高度。2500mくらいになると、これを越える高さの山はそれこそ山のようにあって、優に100個を超える。
この画像の中での探査機の位置はあまり変わらない。
左側の縦軸のスケールが変わっているだけである。

JAXA月面着陸LIVE配信

いよいよ、500m付近まで降りてきた。
あべのハルカスのちょっと上くらいである。
(すんません、例えが関西的で)

JAXA月面着陸LIVE配信

いよいよ50m。高層ビル15~20階くらい。

JAXA月面着陸LIVE配信

そうして、着陸。
探査機周囲の出力も、画面中央にあるメインエンジン出力も止まっている。

ただ、探査機は、それまでまっすぐ直立したような綺麗な姿勢だったけど、着陸時点ではちょっと傾いでるようにも見える。X軸も0mから-50mに移動したように見える。加えて、高度も-50m(?)のようにも見える。この、着陸高度が0mを下回っていることについては動画でも説明があって、月の地図がまだまだ正確ではないことからこういうデータになることは十分にあり得ることなのだそうだ。少なくとも、地面に潜っていったというようなわけではない。

さて。
地球上との通信は和歌山大学でも実施されたようだが、これは問題なく接続できたようだ。探査機から送られたデータを受信できて、さらに内容が把握できて、加えて送ったコマンドに探査機が反応した時には感無量だったろう。

月との通信は簡単ではない。波長が長いと電離層を突き抜けられないので、使用する周波数帯も限定的だ。探査機が通信に使用する電力は極力抑えたいだろうから、例えばテレビの電波のように周囲にばらまくというような送信の方法も避けたいだろう。できれば地球上の和歌山大学のパラボラアンテナをピンポイントでめがけて通信したいところだ。その方が電力を抑えられる。こういう通信って暗号化するのかな。

そして。

着陸は上手くいった。
だが、太陽電池の発電が確認できなかった。
これはどう影響するのだろう。


SLIMミッションの成功基準

SLIMのミッションには予め成功基準が設けられている。こちらから抜粋してみた。

https://fanfun.jaxa.jp/countdown/xrism-slim/files/SLIM-presskit-JP_2310.pdf

SLIM ミッションの成功基準(サクセスクライテリア)
ミニマムサクセス

 小型軽量な探査機による月面着陸を実施する。
それによって、以下の2項目を達成する。
◦高精度着陸に必須の光学照合航法を、実際の月着陸降下を実施することで検証する
◦軽量探査機システムを開発し、軌道上動作確認を行う

フルサクセス
精度100m以内の高精度着陸が達成されること。具体的には、高精度着陸航法系が正常動作し、誘導則に適切にフィードバックされ、着陸後のデータの解析により着陸達成に至る探査機の正常動作と着陸精度達成が確認されること。

エクストラサクセス
高精度着陸に関する技術データ伝送後も、日没までの一定期間、月面における活動を継続し将来の本格的な月惑星表面探査を見据え、月面で活動するミッションを実施する。

SLIM Project 概要説明資料(プレスキット)

まず、月面のどこでもいいから、とにかく着陸すること。これが最小の成功(ミニマサクセスム)である。日本はまだ月面に着陸できていない。それができたということだけでも、一つの成功なんである。

そしてもう一つが着陸の精度である。着陸地点が予定地点から100m以内という高精度であること。SLIMの最大の目的がこれである。もうすでに世界4か国で月面着陸が成功している。何か新しいことをしないとただの5番目になってしまう。そんなのやだ。と思ったのかどうかはわからないが、まぁ、とにかく、たとえ無人機であっても

行きたいところへ行きたい

のである。そこまでできれば全て成功(フルサクセス)となる。今回の場合はほぼ目的地点に着陸できているので、ミッションは成功と言える。

残りはエクストラサクセス(追加サクセス)。付録のようなもので、「せっかく月まで行ったのだもの、ついでにできそうなことをやっちゃえ」という感じだろうか。月面ミッションを訓練してみようというミッションである。月面着陸は今回だけではない。これからだってどんどん飛ばして、月面でもいろいろチャレンジしてみる。そのための練習である。太陽光発電が上手くいかないとなると時間制限があって、あれもこれもというわけにはいかないかもしれない。逆に案外にそこそこできるかもしれない。という感じだろうか。


太陽光発電ができないとどうなる?

では、太陽光発電ができないとどうなるのか。

電力が得られない→何もできない!?

というわけではなく。
バッテリーを積んでいるので、この電池が切れるまでは活動できる。もちろん、それで地球とも交信したわけである。


バッテリーはどれくらいもつ?

太陽光発電がダメだとして、バッテリーはどれくらいもつのだろうか。
残念ながら、数時間だそうだ。
できることは限られる。
優先順位をつけてやらないと。


何故、太陽光発電は動いていないんだろう

太陽光発電の装置そのものが壊れたというよりは、その他の要因の可能性が高いのではないかと推測しているようだ。例えば、SLIMの機体の向きの影響で、太陽光発電装置に太陽の光が当たっていないということも考えられる。


太陽光発電の装置が壊れた可能性が低いと考えるのは何故?

少なくとも、他の装置は問題なく稼働している。
そういう中で、太陽光発電だけが壊れるという状況の方が考えにくい。太陽光発電は壊れて、他の一切の装置は無傷であったという状況の方がむしろ考えにくいようだ。
ただし、あくまで可能性の話である。


太陽光発電が太陽に向いていない可能性があるのだとすれば、バッテリーがある間にSLIMの向きを変えてみたりはしないのか

まず一つは、バッテリーで駆動する時間は限られている。その間に月面着陸のデータは間違いなく地球にダウンロードしたい。だから、それがまずとにかく最優先ですべきことである。

また、まだ原因も何もわかっていない手探りのような状況でむやみやたらに動かすということはしたくない。原因がわかっていない以上裏目に出る可能性も否定できない。

さらに、太陽光発電の向きが問題であったとしても、月面でもこれから太陽の向きが変わっていく。地球とはちがって、約一ヶ月で月の周りを一周する。太陽の方向が変わることで太陽光発電装置に太陽の光が当たるようになるかもしれない。一度バッテリーが切れてしまったとしても、もし、再び太陽光発電から電力が得られれば再起動する設計になっている。これにも期待したい。


このあたりまでは記者質問で上がっていたことで、一応、JAXAの見解が得られた内容である。ここからは私の疑問。


太陽光発電が下に向いている可能性は?

こちらからSLIMのARを見ることができる。

リンク先に飛ぶのも面倒なので、概観をピックアップしてみる。

https://fanfun.jaxa.jp/countdown/xrism-slim/files/SLIM-presskit-JP_2310.pdf

これを見ると、太陽光発電は六面の内の一面にだけ取り付けられているように見える。

もし。

この面が月面の下に向いていたらどうなるのだろう。
太陽がどこに移動しようが、太陽光からのエネルギーは得られないのではないだろうか。であるならば、バッテリーがあって動かせる内に動かしてみた方がいいような気もする。もちろん、着陸データをダウンロードすることが最優先であるかもしれないが。


太陽光発電を反対面にも取り付けておけばどうだろう

先の話で、太陽光発電装置にが真下に向いてしまった可能性を考えた。そういうときのために、反対面にも太陽光発電装置を取り付けておけばどうだろう。もちろん、まるまる同じでなくてもいい。せめて、5分の1とか、10分の1とか、機体制御ができる程度で。とは言うものの、機体制御こそがもっとも電力を要しそうではあるが。
まぁ、その程度は検討済みかもしれない。ロケットで打ち上げるためには重量は少しでも軽い方がいいし、あるいは、反対面には装着できない何か理由があるかもしれない。如何せん、小さい機体をこれでもかというくらいに有効活用に苦心しているだろうから。


着陸態勢をちょっと考えてみた

そもそも、SLIMはこんな風に着陸する予定だったようだ。

https://fanfun.jaxa.jp/countdown/xrism-slim/files/SLIM-presskit-JP_2310.pdf

「(1)ホバリング」は、メインエンジンを吹かしながら垂直降下しているところだと思われる。この時、太陽光発電装置は左の面にある。
で、そのまま月面に着陸するのかと思ったらそうではないようで、月面に近づくと傾くようだ((2)姿勢前傾)。
その後、(1)の時点で右面にあった主脚が月面に着く((3)主脚設地)。
そうして、そのまま右に倒れて((4)まえ補助脚接地)、その面を下にして着陸となる((5)姿勢静定)。
こうして、太陽光発電装置面を上にして着陸する。太陽光発電装置は上を向いているので、月面に太陽が当たりさえすれば太陽光からエネルギーを得られることになる。

さて。
ずっとさっきに見た、月面着陸のLIVE映像。
これね。

JAXA月面着陸LIVE配信

なんとなく、違う。
右側のSLIMは、なんだかC3POが逆立ちしたみたいな感じだ。太陽光発電装置も上に向いているようには見えない。横か?
SLIMからどういうデータが送られてきて、さらにそれをどうやって画像化しているのかわからないし、この画像がどのくらい実像を表しているのかもわからないけど、もしこれが本当にこの体勢なのであれば、確かに太陽光発電装置が太陽の方を向いていないということもありそうだ。さらに、太陽が動けば太陽光発電装置に太陽光が当たるということもあり得そうだ。それがいつになるのかわからないけど。

もしかしたら、そういったようなことも含めた上で、太陽光発電に太陽が当たっていない可能性について言及されたのかもしれない。


以上で、JAXA月面着陸LIVE配信動画のまとめは終わりである。

もう、とにかく、楽しかった。こんな深夜の時間帯、翌日が休日でなければLIVEも楽しめなかったろう。もちろん、着陸日に金曜日の深夜を選んだわけではないだろうが。

そのうち、SLIMから得られた動画も公開されるのだろうか。
楽しみである。


2024/1/22
幾つか誤字を修正した。




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